悪役令嬢の兄のやり直し〜侯爵家のゴーストと呼ばれた兄ですが、せめて妹だけは幸せにしたいと思います〜

パーティー

43

「本当に来たか」

テラスに行くと、そこにいたのはティアではなくマヌエル達だった。

「なぜあなたたちがここに？」
「何故って俺らがお前を呼んだからだよ」
「…ウッドセン侯爵令嬢が呼んでいるというのは」
「はっ、ヒューゴはそう言ったのか。なかなかに役者じゃないか」　

マヌエルの言葉にヒューゴがグルになっていたことを知る。

(友達になれたと思ってたのに…)

最近彼との間に壁を感じていた。それでも初めてできた友達を失うのは悲しかった。

「それで、なんで呼ばれた分かるか？」
「わかりません」
「はっ、だろうな。全く見た目によらず図太い野郎だ」

そうして近づいてきた彼はワイングラスの中身を僕にかけた。

「何を…！」
「はっ、その服誰かのを盗んできたのか？平民には不相応だ」
「これはオーデン様から頂いたものです。盗んでなどいません」
「へぇ、アダムス伯爵令嬢といいオーデン公爵令息といい、貴族に媚びるのがうまいんだな。男娼でもやってるのか？」
「僕のことはなんとでも言ってください。それよりなぜアダムス伯爵令嬢からも服をいただいと知っているんですか」
「ははっ、お前のお友達が教えてくれたんだよ」

その言葉に今朝の部屋の惨状を思い出す。あれはまさか…

すると取り巻きの1人が僕の胸にあるブローチに手を伸ばした。

「おい、こんなものまで付けてるのか。お前なんかじゃ一生かかっても買えないくらい価値のある物なんだぞ！？」
「返してください！それはアダムス伯爵令嬢に頂いたものなんです」

力任せにブローチを取り上げた令息から、慌てて取り戻そうと掴み掛かる。

「おいっ、やめろ！」

すると、揉み合っていた拍子に令息はブローチを落とし、そらがバルコニーの手すりの外側に落ちてしまった。

僕はそれを拾おうと手すりをまたぐ。だが…

「平民風情が良くも突っかかってくれたな！」

その拍子に後ろから背中を押され、気づけば僕の体は宙に放り出されていた。

遠くなっていくバルコニーに、景色が下から上へと流れていく。

このまま落ちたら僕は…まだ何もできていないのに…
そう考えたところで地面に体を打ちつけられ、気を失った。


「お、おい不味くないか？」
「ここまでするつもりはなかったのに…お前何してるんだよ！」
「お、俺だってこんなつもりじゃ…」
「とにかく、今は誰かに見られる前に早く逃げるぞ！」

バルコニーでは、マヌエルたちが慌てて去って行った。