悪役令嬢の兄のやり直し〜侯爵家のゴーストと呼ばれた兄ですが、せめて妹だけは幸せにしたいと思います〜

ゆう

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「ゾーイ!お待たせ」

僕は階下で既に待っていたゾーイを見つけ、急いで駆け寄った。
今日の彼女は白地に赤いリボンが映えるドレスを身に纏っている。

「わぁ、すごく綺麗だ」
「な、何を言ってるのよ!それを言うならジョシュだって…あれ?その服…」
「ごめん、謝らなければいけないことがあるんだ。ゾーイがプレゼントしてくれた服が、その…朝気づいたら着られない状態になっていて…急遽エリオットに助けてもらったんだ」
「…そうだったの」

悲しそうにそう言った彼女に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「本当にごめん、服は必ず弁償するよ」
「ジョシュは悪くないわ。それにあれはプレゼントしたものですもの。弁償なんていらないわ」
「なら、いつか僕にドレスを贈らせて。絶対にゾーイに似合うものを選んで見せるから」
「ふふ、それなら喜んで受け取るわ。楽しみにしてるわね」
「ああ、期待して待っていて」

そうして微笑んだ彼女にホッと胸を撫で下ろし、エスコートのため腕を差し出した。

「では、行きましょうか?」
「ええ、お願いしますわ」

そして僕たちは会場に入って行った。


僕たちの登場と共に会場がざわつく。

「まあ、とても綺麗…」
「お揃いなんて素敵ね。」
「でもあの2人は婚約者でもないのに良いのかしら?」
「…どうなってる。なんであんな服を着て来れたんだ…」

ゾーイの美しさに感嘆する者もいれば、僕らの関係をいかがわしく思う者もいる。その他にも気になる台詞があったが、今日はゾーイを完璧にエスコートすることに意識を集中させなければ。

そして、「一曲いかがですか?」と恭しく礼をする。ゾーイは嬉しそうに笑って「ぜひ」と手を取ってくれた。

そして…
僕は今回の人生で一番幸せなのではと思えるほど素晴らしい時間を過ごした。
練習を重ねたステップは何を考えるまでもなく踏むことができ、腕の中のゾーイと見つめ合いながらダンスホールを回る。

彼女が今僕と一緒にいていてくれる。前回の決別を後悔していただけに、それがとても嬉しかった。

そうして曲が終わり、お互い名残惜しく思いながら礼をした。


「アダムス伯爵令嬢、先ほどのダンス素晴らしかったです!」
「あの、よろしければ次は私と…」

するとゾーイに貴族令息たちがダンスを申し込みはじめた。僕は渡したくは無かったけれど、彼女にも付き合いが必要だと思い軽く目を合わせてそっとその場から離れた。


「ジョシュア、さっきのダンスすごかったね」

すると、いつの間にか来ていたらしいヒューゴに話しかけられた。

「ヒューゴ、ありがとう。練習した甲斐があったよ」
「それに、その服。まるで貴族の令息みたいだったよ」
「ああ、これ?実は…色々あってエリオットに貰ったんだ」
「エリオット様に…なるほどね…」
「ヒューゴ?」
「いや、なんでもない。それより、さっきアリスティア嬢が君のことを探してたよ。テラスで待ってるって」
「アリスティア嬢が?」

ティアがこんな公共の場で僕と2人きりになろうとするなんて、一体どうしたのだろうか。いつもは親しくしていてもあくまでゾーイ経由での知り合いという姿勢を崩さなかったのに…

僕は不審に思いつつもヒューゴに教わったテラスへと向かった。


~ヒューゴside~

くそっ、どうなってるんだ。
今日僕は確かにジョシュアの服を全てズタズタに切り裂いてきたはずなのに…

会場に現れた彼は、彼の部屋に置いてあった衣装よりも上質な服に身を包んで現れた。

貴族の令嬢までが
「なんて綺麗なの…」
「平民でさえなければ…」
なんて言ってうっとりしている。

僕だって今日は親に頼んでとびきり高級なスーツを着てきたのに誰も見向きもしない。

ジョシュアと僕、共に同じ平民なのになぜこうも違うんだろう。いや、同じどころか僕は裕福で魔法も使える。僕の方が優っているはずなのに…

そう考えると悔しさが込み上げた。

「おい、ヒューゴ」

僕はその呼び声にビクッと肩を揺らす。

「あ、ハンフリー様…」
「これはどういうことだ?お前、俺に嘘を吐いたのか」
「ち、違います!僕は確かにジョシュアの服を切り裂いてきました!」
「じゃあ今あいつが着てるのはなんだってんだ」 
「それは、わかりません…」
「ふんっ、役に立たないやつだな。いいか?これが最後のチャンスだ。あいつをテラスに呼び出してこい。失敗したらお前の実家にも圧力をかけてやるからな」

そう言い残してマヌエルたちは去って行った。

どうしよう…嫌な予感がする。
でも彼に逆らえば僕も家も危ない。

迷った時間は短かった。

そして…

僕はアリスティア嬢が呼んでいるとジョシュに嘘をついた。その先のことは知らない。何が起きても僕のせいじゃない。

そもそも、ゾーイ嬢というパートナーがいながらアリスティア嬢の誘いにも乗るようなジョシュアが悪いんだ。

そう自分に言い聞かせて、僕はさっさとパーティー会場を後にした。




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