悪役令嬢の兄のやり直し〜侯爵家のゴーストと呼ばれた兄ですが、せめて妹だけは幸せにしたいと思います〜

学園生活2

36

そして、そうこうしているうちに夏休みがやってきた。
大半の生徒は家に帰るようで、その例に漏れず僕も一度家に帰るつもりだ。

「それじゃあまた学園で会いましょう」

そう言ってゾーイ達とお別れをする。もっとも、彼女とは夏休み中も会う約束をしているのだが。

エリオットは国に帰るらしく、お土産を期待していろと言って早めに去っていった。

そして僕とヒューゴが最後に残された。

「ヒューゴはどうやって帰る？僕は乗合の馬車に乗って行こうと思ってるけど」
「ああ、僕は家から迎えが来るんだ」
「へえ、商家って言ってたけど迎えにきてくれるなんて凄いね」

迎えにくるということは自分の家の馬車ということだ。平民でそんなことができるなんて相当裕福なのだろう。
まあ、この学園に通わせられるくらいなのだから金持ちなのは当然か、と思いつつヒューゴを見やる。

「えへへ…まあ、そこまでじゃないよ。それよりジョシュも家族の元に帰るんだよね？」
「そうだよ」
「そっか、ずっと聞いていいものかと迷ってたんだけど、アダムス伯爵家の後援を受けてるってことは孤児だったりするのかなって思ってさ…」
「ああ…まあ、一応親はいるよ。弟妹とは仲もいいしね」
「そうなんだ…なんだか大変そうだけど、頑張ってね」

僕の曖昧な返事に何かを察した彼は困ったようにそう言った。

「あ、馬車が来たみたい。それじゃあ僕は行くね。また学園で！」
「ああ、また」

そして、ヒューゴはすぐに明るい顔を向けて馬車へと去っていった。それを見送り僕も帰路につく。
この間謹慎で帰ったばかりなので少し気まずいが、あのできた弟妹なら快く受け入れてくれるだろう。

そして僕は王都でお菓子のお土産を購入して家へと向かう馬車に乗り込んだ。


～テオドアside～

その頃、邸宅では…

「ふふっ、やっと王立学園の飛び級試験の合格通知が来た。待っててねお兄様…僕がお兄様をイジメるやつを懲らしめてやるから」
「あんた怖いわよ…」

嬉しさのあまり合格通知を握りしめながら笑った僕を、ティアが心底気味悪そうに見る。

どうでも良いがティアも合格はしたようで、この夏休み明けから一緒に学園に向かうこととなった。

「それより、お兄様をびっくりさせたいんだから、まだ私たちが入学することは言わないでよね」
「分かってるよ。サプライズにするんだろ。浮かれてうっかり話しちゃうなんてヘマはしないから安心しろ」
「どうだか…不安だわ」

そう言ってため息をついたティアを無視する。


そしてその少し後ーーー

屋敷に帰ってきたお兄様を出迎える。

前回より良い顔色に安堵するも、お兄様からエリオットというウィンタール王国の公爵令息が懇意にしてくれており、そのお陰で助かっている、という話を聞いてモヤモヤした気持ちを抱いた。

(僕がお兄様を助ける予定だったのに…先を越されたか…)

お兄様が楽しく生活できているのは良い事だが、それを築いたのが自分ではないと言うことが腹立たしい。
やっとお兄様への感謝を行動で示せると思ったのに…

そうして、僕は会ったこともないオーデン公爵令息に嫉妬した。