上 下
19 / 49
やり直し

13

しおりを挟む
そして、教養と座学の授業はつつがなく進んでいく。だが、魔法の授業は予想通りというべきか、そうすんなりとは行かなかった。

そもそも属性を持たない僕は魔法が使えないので、この授業に参加するか迷った。でも、せめて知識としては知っておくべきだと思い参加したのだ。


授業初日。
僕が部屋に足を踏み入れると、既に僕たちを待っていた先生は鼻で笑った。

「おや、ウッドセン家のゴーストと呼ばれるほど滅多にお目にかかれないジョシュア様にまでお会いできるとは…なんとも光栄です。」

含みのある挨拶をした彼に、僕は慇懃に「よろしくお願いします。」と返した。
すると、先生は僕の髪をジロジロ見たかと思うと、わざとらしく気遣わしげな素振りを見せる。

「あなたには酷かもしれませんが、この授業では実践をメインに行なっていきますので、そのつもりでお願いしますね。」
「テオやティアの学習を邪魔する気はありません。僕はあくまで知識としては魔法を学びたいだけですから、どうぞ気にせず進めてください。」

僕は本心でそう答えたのだが、何が気に入らなかったのか、先生は顔を顰めた。

「魔法を使えない子が知識を身に付けても無駄だと思いますけどね。まあ、時間の無駄にならないことを願っています。」

「なっ!」
「何もそんな言い方…」

先生の物言いにティアとテオが声を上げる。僕はそれを身振りで静止した。

「わかりました。授業への参加を許していただき感謝します。」

この国は魔法使い至上主義なので、魔法が使える人ほど使えない人を見下す傾向にある。ティアとテオはまだ幼いので知らないかもしれないが、これが魔法を使えない人間、特に貴族に対する普通の反応だ。

両親の態度で慣れっこだった僕は、先生の言葉を受け流す。

ティアやテオが誇れるような兄になると誓ったのだ。この程度のことで傷ついてなどいられない。

そしてつまらなさそうに鼻を鳴らした先生に、席に着くよう促され、授業は始まった。

どうやら最初に理論を学んで実践する、その繰り返しを行うようだ。

魔法の理論を学ぶのは楽しかった。実戦では何もできないが、とりあえず形だけでも挑戦はしてみる。

前世でも、もしかしたら使える魔法があるかも、と部屋にこもって色々試したので、既に魔法が使えないことは織り込み済みなのだが、やはり希望は捨てきれない。

そして一通り挑戦してみて、やはり何も成果がないことに小さくため息をつく。横でティアやテオが初級の魔法を成功させているのをみて、少し羨望が混じる眼差しで称賛を送った。


「このように、魔法というのは奇跡の力です。神が愛する人間に与えた特別な力なのです。ですが、全ての人間が魔法を使えるわけではありません。」

再び座学へと戻った後、先生が魔法の起源を説明しながらチラッと僕を見る。

「魔法が使えない理由には諸説ありますが、前世で悪いことをしたからだとか、魔法の力を与えると悪用するであろう人物だとか、そういった理由で神々の寵愛を受けられなかったからだというのが一般的です。」
「「………」」

気まずい沈黙が流れた後、テオがスッと手をあげる。

「平民には魔法が使えない人が多くいますが、彼らは皆神に愛されていないということですか?」
「というよりも、特に愛された者が貴族になったのです。なので、我々には魔法が使えない人たちを正しい道へ導いていく使命があるのです。」
「では、魔力はあるけれど魔法が使えないというケースはどう判断されるのですか?」
「それは非常に珍しいケースではありますが、使えないのであれば魔力を持っていようと意味はありません。世間一般では魔力なしと同等と見なされるでしょう。」
「そうですか…」

そうして黙ったテオに、先生はもう質問はないかと僕たち…正確にはテオとティアを見る。

「もう質問は無いようですね。では今日はここまでとします。」

少し暗い空気のまま初回の授業は終わり、僕たちは部屋を後にした。




「私、あの先生嫌い。」

部屋へと戻る道中、ティアがそう呟く。

「僕も。」

その意見にテオが同意する。

「あら、珍しく意見が合ったわね。」
「当然だろ。だって、あの人…お兄様のことを…」

テオは不本意だとでも言いたげに、それでいて先生への憤りを滲ませた声で言葉を返した。

「ええ、ほんと。腹が立つわ。」

2人には何の弊害なく授業を受けてほしかったのだが、自分のせいで嫌な思いをさせたと思うと申し訳ない。けれど、同時に彼らが僕のことを思って怒ってくれるのだと思うと、嬉しくなってしまっている自分がいる。

「2人とも、僕のことで怒ってくれてありがとう。でも、僕は気にしていないから。きっと魔法が使えることに誇りを持っているからこそあんな態度になるんだよ。」

僕への態度は良くなかったが、曲がりなりにもきちんと授業はしてくれた。それだけで十分だと思う。
それに、こんな理由でティアとテオに魔法を嫌いなってほしくない。

「だとしても…やっぱりあの人は嫌い。」
「うん、好きにはなれない。まあ、でも…実技の授業はわかりやすかった。」
「そうだろ?無理に好きになる必要はないけど、せっかく教えに来てくれているんだ。授業は真剣に取り組もうね。」
「「は~い…」」

気持ちのこもらない2人の返事を聞いて小さく笑いをこぼす。

自分のことを心配してくれる人がいるというのはこんな気分なのか。

僕は、嫌なことがあった後だというのに、かえって気持ちが明るくなったように部屋へと戻った。



しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう

蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。 王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。 味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。 しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。 「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」 あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。 ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。 だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!! 私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です! さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ! って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!? ※本作は小説家になろうにも掲載しています 二部更新開始しました。不定期更新です

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

今日も聖女は拳をふるう

こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。 その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。 そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。 女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。 これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

処理中です...