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やり直し
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そして、教養と座学の授業はつつがなく進んでいく。だが、魔法の授業は予想通りというべきか、そうすんなりとは行かなかった。
そもそも属性を持たない僕は魔法が使えないので、この授業に参加するか迷った。でも、せめて知識としては知っておくべきだと思い参加したのだ。
授業初日。
僕が部屋に足を踏み入れると、既に僕たちを待っていた先生は鼻で笑った。
「おや、ウッドセン家のゴーストと呼ばれるほど滅多にお目にかかれないジョシュア様にまでお会いできるとは…なんとも光栄です。」
含みのある挨拶をした彼に、僕は慇懃に「よろしくお願いします。」と返した。
すると、先生は僕の髪をジロジロ見たかと思うと、わざとらしく気遣わしげな素振りを見せる。
「あなたには酷かもしれませんが、この授業では実践をメインに行なっていきますので、そのつもりでお願いしますね。」
「テオやティアの学習を邪魔する気はありません。僕はあくまで知識としては魔法を学びたいだけですから、どうぞ気にせず進めてください。」
僕は本心でそう答えたのだが、何が気に入らなかったのか、先生は顔を顰めた。
「魔法を使えない子が知識を身に付けても無駄だと思いますけどね。まあ、時間の無駄にならないことを願っています。」
「なっ!」
「何もそんな言い方…」
先生の物言いにティアとテオが声を上げる。僕はそれを身振りで静止した。
「わかりました。授業への参加を許していただき感謝します。」
この国は魔法使い至上主義なので、魔法が使える人ほど使えない人を見下す傾向にある。ティアとテオはまだ幼いので知らないかもしれないが、これが魔法を使えない人間、特に貴族に対する普通の反応だ。
両親の態度で慣れっこだった僕は、先生の言葉を受け流す。
ティアやテオが誇れるような兄になると誓ったのだ。この程度のことで傷ついてなどいられない。
そしてつまらなさそうに鼻を鳴らした先生に、席に着くよう促され、授業は始まった。
どうやら最初に理論を学んで実践する、その繰り返しを行うようだ。
魔法の理論を学ぶのは楽しかった。実戦では何もできないが、とりあえず形だけでも挑戦はしてみる。
前世でも、もしかしたら使える魔法があるかも、と部屋にこもって色々試したので、既に魔法が使えないことは織り込み済みなのだが、やはり希望は捨てきれない。
そして一通り挑戦してみて、やはり何も成果がないことに小さくため息をつく。横でティアやテオが初級の魔法を成功させているのをみて、少し羨望が混じる眼差しで称賛を送った。
「このように、魔法というのは奇跡の力です。神が愛する人間に与えた特別な力なのです。ですが、全ての人間が魔法を使えるわけではありません。」
再び座学へと戻った後、先生が魔法の起源を説明しながらチラッと僕を見る。
「魔法が使えない理由には諸説ありますが、前世で悪いことをしたからだとか、魔法の力を与えると悪用するであろう人物だとか、そういった理由で神々の寵愛を受けられなかったからだというのが一般的です。」
「「………」」
気まずい沈黙が流れた後、テオがスッと手をあげる。
「平民には魔法が使えない人が多くいますが、彼らは皆神に愛されていないということですか?」
「というよりも、特に愛された者が貴族になったのです。なので、我々には魔法が使えない人たちを正しい道へ導いていく使命があるのです。」
「では、魔力はあるけれど魔法が使えないというケースはどう判断されるのですか?」
「それは非常に珍しいケースではありますが、使えないのであれば魔力を持っていようと意味はありません。世間一般では魔力なしと同等と見なされるでしょう。」
「そうですか…」
そうして黙ったテオに、先生はもう質問はないかと僕たち…正確にはテオとティアを見る。
「もう質問は無いようですね。では今日はここまでとします。」
少し暗い空気のまま初回の授業は終わり、僕たちは部屋を後にした。
「私、あの先生嫌い。」
部屋へと戻る道中、ティアがそう呟く。
「僕も。」
その意見にテオが同意する。
「あら、珍しく意見が合ったわね。」
「当然だろ。だって、あの人…お兄様のことを…」
テオは不本意だとでも言いたげに、それでいて先生への憤りを滲ませた声で言葉を返した。
「ええ、ほんと。腹が立つわ。」
2人には何の弊害なく授業を受けてほしかったのだが、自分のせいで嫌な思いをさせたと思うと申し訳ない。けれど、同時に彼らが僕のことを思って怒ってくれるのだと思うと、嬉しくなってしまっている自分がいる。
「2人とも、僕のことで怒ってくれてありがとう。でも、僕は気にしていないから。きっと魔法が使えることに誇りを持っているからこそあんな態度になるんだよ。」
僕への態度は良くなかったが、曲がりなりにもきちんと授業はしてくれた。それだけで十分だと思う。
それに、こんな理由でティアとテオに魔法を嫌いなってほしくない。
「だとしても…やっぱりあの人は嫌い。」
「うん、好きにはなれない。まあ、でも…実技の授業はわかりやすかった。」
「そうだろ?無理に好きになる必要はないけど、せっかく教えに来てくれているんだ。授業は真剣に取り組もうね。」
「「は~い…」」
気持ちのこもらない2人の返事を聞いて小さく笑いをこぼす。
自分のことを心配してくれる人がいるというのはこんな気分なのか。
僕は、嫌なことがあった後だというのに、かえって気持ちが明るくなったように部屋へと戻った。
そもそも属性を持たない僕は魔法が使えないので、この授業に参加するか迷った。でも、せめて知識としては知っておくべきだと思い参加したのだ。
授業初日。
僕が部屋に足を踏み入れると、既に僕たちを待っていた先生は鼻で笑った。
「おや、ウッドセン家のゴーストと呼ばれるほど滅多にお目にかかれないジョシュア様にまでお会いできるとは…なんとも光栄です。」
含みのある挨拶をした彼に、僕は慇懃に「よろしくお願いします。」と返した。
すると、先生は僕の髪をジロジロ見たかと思うと、わざとらしく気遣わしげな素振りを見せる。
「あなたには酷かもしれませんが、この授業では実践をメインに行なっていきますので、そのつもりでお願いしますね。」
「テオやティアの学習を邪魔する気はありません。僕はあくまで知識としては魔法を学びたいだけですから、どうぞ気にせず進めてください。」
僕は本心でそう答えたのだが、何が気に入らなかったのか、先生は顔を顰めた。
「魔法を使えない子が知識を身に付けても無駄だと思いますけどね。まあ、時間の無駄にならないことを願っています。」
「なっ!」
「何もそんな言い方…」
先生の物言いにティアとテオが声を上げる。僕はそれを身振りで静止した。
「わかりました。授業への参加を許していただき感謝します。」
この国は魔法使い至上主義なので、魔法が使える人ほど使えない人を見下す傾向にある。ティアとテオはまだ幼いので知らないかもしれないが、これが魔法を使えない人間、特に貴族に対する普通の反応だ。
両親の態度で慣れっこだった僕は、先生の言葉を受け流す。
ティアやテオが誇れるような兄になると誓ったのだ。この程度のことで傷ついてなどいられない。
そしてつまらなさそうに鼻を鳴らした先生に、席に着くよう促され、授業は始まった。
どうやら最初に理論を学んで実践する、その繰り返しを行うようだ。
魔法の理論を学ぶのは楽しかった。実戦では何もできないが、とりあえず形だけでも挑戦はしてみる。
前世でも、もしかしたら使える魔法があるかも、と部屋にこもって色々試したので、既に魔法が使えないことは織り込み済みなのだが、やはり希望は捨てきれない。
そして一通り挑戦してみて、やはり何も成果がないことに小さくため息をつく。横でティアやテオが初級の魔法を成功させているのをみて、少し羨望が混じる眼差しで称賛を送った。
「このように、魔法というのは奇跡の力です。神が愛する人間に与えた特別な力なのです。ですが、全ての人間が魔法を使えるわけではありません。」
再び座学へと戻った後、先生が魔法の起源を説明しながらチラッと僕を見る。
「魔法が使えない理由には諸説ありますが、前世で悪いことをしたからだとか、魔法の力を与えると悪用するであろう人物だとか、そういった理由で神々の寵愛を受けられなかったからだというのが一般的です。」
「「………」」
気まずい沈黙が流れた後、テオがスッと手をあげる。
「平民には魔法が使えない人が多くいますが、彼らは皆神に愛されていないということですか?」
「というよりも、特に愛された者が貴族になったのです。なので、我々には魔法が使えない人たちを正しい道へ導いていく使命があるのです。」
「では、魔力はあるけれど魔法が使えないというケースはどう判断されるのですか?」
「それは非常に珍しいケースではありますが、使えないのであれば魔力を持っていようと意味はありません。世間一般では魔力なしと同等と見なされるでしょう。」
「そうですか…」
そうして黙ったテオに、先生はもう質問はないかと僕たち…正確にはテオとティアを見る。
「もう質問は無いようですね。では今日はここまでとします。」
少し暗い空気のまま初回の授業は終わり、僕たちは部屋を後にした。
「私、あの先生嫌い。」
部屋へと戻る道中、ティアがそう呟く。
「僕も。」
その意見にテオが同意する。
「あら、珍しく意見が合ったわね。」
「当然だろ。だって、あの人…お兄様のことを…」
テオは不本意だとでも言いたげに、それでいて先生への憤りを滲ませた声で言葉を返した。
「ええ、ほんと。腹が立つわ。」
2人には何の弊害なく授業を受けてほしかったのだが、自分のせいで嫌な思いをさせたと思うと申し訳ない。けれど、同時に彼らが僕のことを思って怒ってくれるのだと思うと、嬉しくなってしまっている自分がいる。
「2人とも、僕のことで怒ってくれてありがとう。でも、僕は気にしていないから。きっと魔法が使えることに誇りを持っているからこそあんな態度になるんだよ。」
僕への態度は良くなかったが、曲がりなりにもきちんと授業はしてくれた。それだけで十分だと思う。
それに、こんな理由でティアとテオに魔法を嫌いなってほしくない。
「だとしても…やっぱりあの人は嫌い。」
「うん、好きにはなれない。まあ、でも…実技の授業はわかりやすかった。」
「そうだろ?無理に好きになる必要はないけど、せっかく教えに来てくれているんだ。授業は真剣に取り組もうね。」
「「は~い…」」
気持ちのこもらない2人の返事を聞いて小さく笑いをこぼす。
自分のことを心配してくれる人がいるというのはこんな気分なのか。
僕は、嫌なことがあった後だというのに、かえって気持ちが明るくなったように部屋へと戻った。
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