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第四章『魔王城で婚活を!?」
第89話 守ることすらできない騎士は
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少し前。
「くそっ……城の中が複雑すぎる。玉座に一直線どころか、まるで迷路じゃないか! おまけにどこもかしこも薄暗いしジメジメしてるし、セントエルディア城の方がよっぽど快適だ」
魔界戦線でラミアに攫われてから、一体どれだけの時間が経過しただろうか。
ヒミカの安否が分からない今、高鳴る心臓が不安でズキズキと痛む。
「落ち着け……落ち着け、僕」
目を閉じ、微かな気配や匂い(悪く言えば変態的執着)を感じ取り、再び歩みだす。
「ここ、なのか……?」
金の装飾があしらわれた、他と雰囲気が違う一部屋。
ごくり、と唾を呑み込んで乾いた喉を湿らせ、そっと耳を冷たい扉に当てる。
『は、アん♡ イイ、よぉ♡ ヒミカ、気持ちいい、のぉ♡』
「は? え?」
何をしているのか、なんて想像するまでもない。
迷宮のような城内を迷わず突き進んだユーマは正しかった。
しかし、何もかもが遅すぎた。
そして、現在に至る。
「そん、な」
がっくりと、疲れを訴えた足が折れて膝をつく。
『おっ!? おちん×んがぁっ♡ まだ大きくなりゅっ♡ 子宮なんてとっくに貫通して、奥の壁ごつんごつんって叩いてりゅっ♡』
重く分厚い鉄扉でさえも遮断しきれずに漏れ出た、探し求めた愛する人の声。
何度聞き間違い、幻聴、精神系魔法の類と思い込もうとしても、鼓膜にこびりついて剥がれない。
大淫婦ラミアの魔眼のせいだったらどれだけよかっただろう。
「ヒミカさん……っ!」
艶の乗った嬌声を聞くのも、一糸纏わぬ艶姿を目にしたのも、もう数えきれない。
そしてほとんどの場合、ユーマは眺める側(・・・)の存在だった。
でも、それで良かった。
だって、それは勇者が相手をヘロヘロに骨抜きにしてしまうからだ。
『……はい、ヒミカは魔王ブレド様と結婚し、性奴隷として奉仕します♡♡♡』
「ヒミカさん!!」
もはや返事すらなく。
(……身の程を知れって、ことか?)
最初からユーマはいてもいなくても変わらない。
この程度の扉、壁を破ることのできないただの騎士には、勇者を救う資格も、想い人として選ぶ権利もないと?
よろよろと立ち上がって後ずさる。
不甲斐なくテントを張っているかと思った股間はピクリともせず冷え切っていた。
「くそっ!」
背を向け、逃げるように駆け出した。
悔しさで訳の分からないことを叫びながら、手近にあった窓に体当たりして外に出る。
「崖……」
魔王城は谷底のせり出た岩場に構えているため、外に出れば目も眩むような黒い壁に覆われる。
首が痛くなるほど見上げれば、上空は瘴気に囲まれていて高さが分からない。
ユーマは身に着けたガントレット、グリーヴ以外の全ての鎧を脱ぎ捨てると、躊躇いなく岩肌に手をかけた。
幸い、崖の表面は凸凹しており、登れないということはない。
「はぁっ……はぁっ……」
魔王城の一階部分を越え、二階部分を越え、高く聳えた尖塔をも越えていく。
地面が遠ざかる。
ユーマは逃げる。
けれど、汗で滲む瞳は、失意に沈んでなどいなかった。
「諦めて……たまるか」
早くも感覚を失い始めた指先に、強引に力を込める。
動かない足に動けと、無理やりでも命じる。
この程度の断崖絶壁で諦めて、全て見て見ぬフリをするのなら。
「最初から、ヒミカさんを好きになってなんかない!」
己を奮い立たせるように叫び、さらに登り続けた。
魔王城が漏れ出す瘴気しか見えなくなるほどに。
けれど、無情にも左足をかけた突起があっさりと砕けて、支えを失ってしまう。
「うわ? あああああっ!?」
為す術もなく、身体が真っ逆さまに落ちていく。
それでもユーマは叫んだ。
「誰でもいい! 僕じゃなくていい! 誰か、誰かヒミカさんを助けて! ガイさん! ババロアさん! ムースさん! セントエルディアのクソ王様!!」
「呼んだかの?」
虚空から誰かの腕に力強く引かれた。
「あなたは……いや、あなたたちは……?」
「くそっ……城の中が複雑すぎる。玉座に一直線どころか、まるで迷路じゃないか! おまけにどこもかしこも薄暗いしジメジメしてるし、セントエルディア城の方がよっぽど快適だ」
魔界戦線でラミアに攫われてから、一体どれだけの時間が経過しただろうか。
ヒミカの安否が分からない今、高鳴る心臓が不安でズキズキと痛む。
「落ち着け……落ち着け、僕」
目を閉じ、微かな気配や匂い(悪く言えば変態的執着)を感じ取り、再び歩みだす。
「ここ、なのか……?」
金の装飾があしらわれた、他と雰囲気が違う一部屋。
ごくり、と唾を呑み込んで乾いた喉を湿らせ、そっと耳を冷たい扉に当てる。
『は、アん♡ イイ、よぉ♡ ヒミカ、気持ちいい、のぉ♡』
「は? え?」
何をしているのか、なんて想像するまでもない。
迷宮のような城内を迷わず突き進んだユーマは正しかった。
しかし、何もかもが遅すぎた。
そして、現在に至る。
「そん、な」
がっくりと、疲れを訴えた足が折れて膝をつく。
『おっ!? おちん×んがぁっ♡ まだ大きくなりゅっ♡ 子宮なんてとっくに貫通して、奥の壁ごつんごつんって叩いてりゅっ♡』
重く分厚い鉄扉でさえも遮断しきれずに漏れ出た、探し求めた愛する人の声。
何度聞き間違い、幻聴、精神系魔法の類と思い込もうとしても、鼓膜にこびりついて剥がれない。
大淫婦ラミアの魔眼のせいだったらどれだけよかっただろう。
「ヒミカさん……っ!」
艶の乗った嬌声を聞くのも、一糸纏わぬ艶姿を目にしたのも、もう数えきれない。
そしてほとんどの場合、ユーマは眺める側(・・・)の存在だった。
でも、それで良かった。
だって、それは勇者が相手をヘロヘロに骨抜きにしてしまうからだ。
『……はい、ヒミカは魔王ブレド様と結婚し、性奴隷として奉仕します♡♡♡』
「ヒミカさん!!」
もはや返事すらなく。
(……身の程を知れって、ことか?)
最初からユーマはいてもいなくても変わらない。
この程度の扉、壁を破ることのできないただの騎士には、勇者を救う資格も、想い人として選ぶ権利もないと?
よろよろと立ち上がって後ずさる。
不甲斐なくテントを張っているかと思った股間はピクリともせず冷え切っていた。
「くそっ!」
背を向け、逃げるように駆け出した。
悔しさで訳の分からないことを叫びながら、手近にあった窓に体当たりして外に出る。
「崖……」
魔王城は谷底のせり出た岩場に構えているため、外に出れば目も眩むような黒い壁に覆われる。
首が痛くなるほど見上げれば、上空は瘴気に囲まれていて高さが分からない。
ユーマは身に着けたガントレット、グリーヴ以外の全ての鎧を脱ぎ捨てると、躊躇いなく岩肌に手をかけた。
幸い、崖の表面は凸凹しており、登れないということはない。
「はぁっ……はぁっ……」
魔王城の一階部分を越え、二階部分を越え、高く聳えた尖塔をも越えていく。
地面が遠ざかる。
ユーマは逃げる。
けれど、汗で滲む瞳は、失意に沈んでなどいなかった。
「諦めて……たまるか」
早くも感覚を失い始めた指先に、強引に力を込める。
動かない足に動けと、無理やりでも命じる。
この程度の断崖絶壁で諦めて、全て見て見ぬフリをするのなら。
「最初から、ヒミカさんを好きになってなんかない!」
己を奮い立たせるように叫び、さらに登り続けた。
魔王城が漏れ出す瘴気しか見えなくなるほどに。
けれど、無情にも左足をかけた突起があっさりと砕けて、支えを失ってしまう。
「うわ? あああああっ!?」
為す術もなく、身体が真っ逆さまに落ちていく。
それでもユーマは叫んだ。
「誰でもいい! 僕じゃなくていい! 誰か、誰かヒミカさんを助けて! ガイさん! ババロアさん! ムースさん! セントエルディアのクソ王様!!」
「呼んだかの?」
虚空から誰かの腕に力強く引かれた。
「あなたは……いや、あなたたちは……?」
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