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第四章『魔王城で婚活を!?」
第75話 魔眼に溺れる
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ヒミカは覚えていた。
勇者の墓の頂上で、クライドに感染したヴィーヴィルを通して話しかけてきた魔王の声を。
「また遠くからコソコソと覗き見してるの? 私はここにいるわ。姿を見せたらどうなの!?」
『また会ったね、勇者ヒミカ。かつて聖剣士だった勇者が、今代は踊り子と知った時は心底がかっかりしたよ。でも、さっきの君の踊りは見事だった』
「馬鹿にしてるのか、褒めてるのかハッキリしてくれないかしら」
「もちろん、我は心の底から褒めているんだ。なにより、キミは美しい」
「う、美しい!?」
「気付いたんだ。指先一つで勇者を捻り潰したところで、何も面白くない。それよりも、我はヒミカを妻として迎えたいと思ってるんだ。魔王として直々に【繁殖】の権能を刻み込んであげたくてね」
「は……? 結婚? 【繁殖】……?」
魔王が何を考えてるのかを想像して、ヒミカは瞬時に顔が赤くなる。
「な、何さっきから勝手なこと言ってるの!? 姿も見せない卑怯者なんかに振り向く私じゃないわ!」
ヒミカの激昂に声だけの魔王は動じず、むしろ反応を楽しんでいるかのような気さえする。
「へぇ、歯向かうんだ。さすがは勇者様ってところだね。でも、ヒミカは我に会うために、地割れの奥にある城へ向かわなくちゃならない」
「そうね。今度は目の前でフってあげる。空飛ぶ馬車でもなんでも持ってきて、私を案内しなさいよ」
「安心して。初めからそのつもりだよ。────ラミア、後はよろしく頼む」
「え?」
天を見上げていた誰もが驚愕する。
雷鳴に紛れて、とぐろを巻いた竜のような存在がいつの間にかヒミカ達を見下ろしていたからだ。
「というわけで、面倒だけど大人しく来てもらうわょん」
「魔物? いや、人間!?」
全長三メートルはあろうかという巨大な蛇だった。
竜の尻尾のような太い尾に、ツヤツヤと光る滑らかな鱗。
ただし、途中から人間の胴体が生えている。
紫の髪に尖った耳。上半身は全裸で、巨大な胸がぶるんと揺れた。
「アタシは大淫婦ラミア。魔王様の命令で、城までご同行願いまぁす」
艶の乗った大人の女性の色香を漂わせて、ラミアと名乗る大蛇は太い尻尾を鎌のように振るった。
「あっ!?」
「うわっ!?」
呆気にとられた兵士達を薙ぎ倒し、ヒミカが尻尾に巻き付かれて拘束される。
ついでに、隣に立っていたユーマも。
(しまった……! こんな太い尻尾、力を込められたら全身の骨を砕かれる……っ)
「心配しないでちょうだぁい。あなた達は客人ですから」
「なんだ貴様は!」
「魔王の眷属か?」
「おのれ、仲間の仇! うおおおおっ!」
突然の事態に驚いていたはずの兵士が、武器を構えて空中へ浮かぶラミアへと肉薄する。
血気盛んの益荒男達は怒りに身を任せているように見せかけて、見事な陣形と速度でラミアを取り囲み、四方八方から一斉に斬りかかった。
「あらら、イイ男ばかりじゃない。でも、アタシのストライクゾーンではないのよねぇん」
兵士たちを見下ろすラミアの眼光が妖しく光る。
「──【幻惑の魔眼】!」
長い身体を回転させながら、光線のような魔力波が周囲一帯に放たれた。
兵士達は揃いも揃って硬直したように動きを止めてしまう。
「ぐああああっ? ……あれ、別に痛くもかゆくもないぞ?」
「ふふっ。数は少ないけど、ここにはちゃんと女もいるじゃない。ほら、あっちいきなさぁい」
ラミアが尻尾を一閃し、兵士達は皆叩き飛ばされてひっくり返ってしまった。
「くっ、一体何がどうなって……あ?」
起き上がったある兵士が辺りを見渡すと、ラミアが視界から消えている。
わけもわからずキョロキョロしていると、一人の女性と目が合った。
「あれ……。どうしてここに、病気で死んだはずの俺の妻、エレーナがいるんだ?」
「エレーナ? 誰よそれ、突然何を言ってるの?」
異変は雪崩のように拡散する。
「ルミ? ルミなのか!? そんな破廉恥な格好して、さては俺との結婚が待てなかったんだな。ようし、今日はたくさん可愛がってやるそ!」
「きゃあああっ!? こんな時に何胸触ってるの? 私はサラよ! あんた一体誰と間違えてるワケ!? あ、ンン。キス、激し、い……!?」
「ムースさん……俺、ずっと貴方のファンだったんだ。けど、どうしてハダカで俺の前に……もう、俺どうなってもいいや。子作りさせてくれぇ!」
「やあっ!? 服、破らないでよおじさん! 私、救護班長の娘だよ? んあっ」
辺りは騒然となった。
男たちは血眼になり、妄想に憑りつかれたかのように近くにいた女性達を襲い始めた。
ここが荒れ果てた荒野だとか、死んでいった仲間の墓標の前とか関係なく、誰もが全裸になって、女性に片っ端から覆いかぶさっている。
「あらぁ? 勇者には魔眼が効かないのね。同族だからというよりも、相性の問題かしらぁ」
「ちょっと、一体何がどうしちゃったの!?」
「うふふっ。彼らは魅了されてるのよ。アタシじゃないわ。この魔眼に見つめられるとね、強烈な発情に加えて、初めて見た異性が理想の人に見えてしまうの。つまり、彼らは自らが作り出した幻想に溺れてるってことょん」
勇者の墓の頂上で、クライドに感染したヴィーヴィルを通して話しかけてきた魔王の声を。
「また遠くからコソコソと覗き見してるの? 私はここにいるわ。姿を見せたらどうなの!?」
『また会ったね、勇者ヒミカ。かつて聖剣士だった勇者が、今代は踊り子と知った時は心底がかっかりしたよ。でも、さっきの君の踊りは見事だった』
「馬鹿にしてるのか、褒めてるのかハッキリしてくれないかしら」
「もちろん、我は心の底から褒めているんだ。なにより、キミは美しい」
「う、美しい!?」
「気付いたんだ。指先一つで勇者を捻り潰したところで、何も面白くない。それよりも、我はヒミカを妻として迎えたいと思ってるんだ。魔王として直々に【繁殖】の権能を刻み込んであげたくてね」
「は……? 結婚? 【繁殖】……?」
魔王が何を考えてるのかを想像して、ヒミカは瞬時に顔が赤くなる。
「な、何さっきから勝手なこと言ってるの!? 姿も見せない卑怯者なんかに振り向く私じゃないわ!」
ヒミカの激昂に声だけの魔王は動じず、むしろ反応を楽しんでいるかのような気さえする。
「へぇ、歯向かうんだ。さすがは勇者様ってところだね。でも、ヒミカは我に会うために、地割れの奥にある城へ向かわなくちゃならない」
「そうね。今度は目の前でフってあげる。空飛ぶ馬車でもなんでも持ってきて、私を案内しなさいよ」
「安心して。初めからそのつもりだよ。────ラミア、後はよろしく頼む」
「え?」
天を見上げていた誰もが驚愕する。
雷鳴に紛れて、とぐろを巻いた竜のような存在がいつの間にかヒミカ達を見下ろしていたからだ。
「というわけで、面倒だけど大人しく来てもらうわょん」
「魔物? いや、人間!?」
全長三メートルはあろうかという巨大な蛇だった。
竜の尻尾のような太い尾に、ツヤツヤと光る滑らかな鱗。
ただし、途中から人間の胴体が生えている。
紫の髪に尖った耳。上半身は全裸で、巨大な胸がぶるんと揺れた。
「アタシは大淫婦ラミア。魔王様の命令で、城までご同行願いまぁす」
艶の乗った大人の女性の色香を漂わせて、ラミアと名乗る大蛇は太い尻尾を鎌のように振るった。
「あっ!?」
「うわっ!?」
呆気にとられた兵士達を薙ぎ倒し、ヒミカが尻尾に巻き付かれて拘束される。
ついでに、隣に立っていたユーマも。
(しまった……! こんな太い尻尾、力を込められたら全身の骨を砕かれる……っ)
「心配しないでちょうだぁい。あなた達は客人ですから」
「なんだ貴様は!」
「魔王の眷属か?」
「おのれ、仲間の仇! うおおおおっ!」
突然の事態に驚いていたはずの兵士が、武器を構えて空中へ浮かぶラミアへと肉薄する。
血気盛んの益荒男達は怒りに身を任せているように見せかけて、見事な陣形と速度でラミアを取り囲み、四方八方から一斉に斬りかかった。
「あらら、イイ男ばかりじゃない。でも、アタシのストライクゾーンではないのよねぇん」
兵士たちを見下ろすラミアの眼光が妖しく光る。
「──【幻惑の魔眼】!」
長い身体を回転させながら、光線のような魔力波が周囲一帯に放たれた。
兵士達は揃いも揃って硬直したように動きを止めてしまう。
「ぐああああっ? ……あれ、別に痛くもかゆくもないぞ?」
「ふふっ。数は少ないけど、ここにはちゃんと女もいるじゃない。ほら、あっちいきなさぁい」
ラミアが尻尾を一閃し、兵士達は皆叩き飛ばされてひっくり返ってしまった。
「くっ、一体何がどうなって……あ?」
起き上がったある兵士が辺りを見渡すと、ラミアが視界から消えている。
わけもわからずキョロキョロしていると、一人の女性と目が合った。
「あれ……。どうしてここに、病気で死んだはずの俺の妻、エレーナがいるんだ?」
「エレーナ? 誰よそれ、突然何を言ってるの?」
異変は雪崩のように拡散する。
「ルミ? ルミなのか!? そんな破廉恥な格好して、さては俺との結婚が待てなかったんだな。ようし、今日はたくさん可愛がってやるそ!」
「きゃあああっ!? こんな時に何胸触ってるの? 私はサラよ! あんた一体誰と間違えてるワケ!? あ、ンン。キス、激し、い……!?」
「ムースさん……俺、ずっと貴方のファンだったんだ。けど、どうしてハダカで俺の前に……もう、俺どうなってもいいや。子作りさせてくれぇ!」
「やあっ!? 服、破らないでよおじさん! 私、救護班長の娘だよ? んあっ」
辺りは騒然となった。
男たちは血眼になり、妄想に憑りつかれたかのように近くにいた女性達を襲い始めた。
ここが荒れ果てた荒野だとか、死んでいった仲間の墓標の前とか関係なく、誰もが全裸になって、女性に片っ端から覆いかぶさっている。
「あらぁ? 勇者には魔眼が効かないのね。同族だからというよりも、相性の問題かしらぁ」
「ちょっと、一体何がどうしちゃったの!?」
「うふふっ。彼らは魅了されてるのよ。アタシじゃないわ。この魔眼に見つめられるとね、強烈な発情に加えて、初めて見た異性が理想の人に見えてしまうの。つまり、彼らは自らが作り出した幻想に溺れてるってことょん」
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