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第三章『王子様、現る!?』
第67話 勇者は誰のモノ
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「誰か、倒れてる!?」
勇者の墓の入り口で、倒れている衛兵を見つけた。
身体を起こすと、脇腹から大量に血を流して目が潰されていた。
「ううっ……誰か、いるのか……?」
「貴方は、門番の、ブロウさん!?」
魔界戦線に到着したヒミカ達を怪しんで、通せんぼしていた衛兵だ。
「……? テメェの声は覚えてる、ぜ。小さいくせに小生意気で、踊り子の姉がいる騎士だな──ゲほっ、がはっ」
一言喋る度に咳き込み、夥しい血を吐く。
「は、ははっ。あの時、俺は『混乱の最中こそ、怪しい奴は中に入れん!』 なんて息巻いてたがよ……間者はとっくの昔に潜り込んでいたとは、な。……門番失格だよ」
「喋ってる場合じゃないです。今すぐ傷の手当てをしないと!」
「よせ。自分の身体は自分が分かる。俺はもう長くない。それより、墓の結界が破られた。中の聖剣を守ってくれ」
「そんな」
「クライドの奴は、ヴィーヴィルってヤツに憑りつかれでもしたんだろう。でなけりゃ、ち×ぽ剥き出しでお前の姉貴を攫うなんてするわけないからな」
「──クライドは僕が殺します」
ヒミカに危険が迫っていることを再確認した瞬間、自分でも驚くほど低い声が出た。
「……そうするしか、ないのかもしれんな。感染したら正気に戻ることはなく、最後には暴走しちまうんだろう? このままだと、お前の姉貴が、魔王の眷属の苗床にされちまう。……頼んだぜ、【盾騎士】」
目が見えない状態で、ブロウはユーマの手を力強く握った。
「後悔はないさ。ユーマ、お前に託すことが……できた、から…………な」
呼吸が糸のようにか細くなり、握った手の平から力が抜ける。
ユーマの背後では激しい光と、熱と、轟音と、悲鳴が一つの楽曲のように奏でられる戦場では、弔うことさえままならない。
うつ伏せのままじゃあんまりだから、せめて壁に寄りかからせることしかできなかった。
「王様だろうが、魔王だろうが、昔からの幼馴染だろうが、関係ない。ヒミカさんは、僕の勇者(モノ)だ」
結界が解かれてぽっかりと口を開いた勇者の墓の入り口。
下へ続く真っ暗な階段を、落ちるように駆けていく。
★
「クソが! どうしてこの俺が、聖剣を抜くことができないんだ!」
勇者の墓、最深部。
まるで地下に造られた礼拝堂のような、静謐な空間が広がっていた。
地面の下とは思えないほど広い空間に、勇者の墓という呼称の通り、棺と墓標だけがある。
質素で物寂しくはあるが、埃っぽさや息苦しさはない。
棺には花が添えられており、誰かの手によって手入れされていることが伺えた。
「ヒミカ、お前が聖剣を抜いてみろ」
クライドが指さす先に、古びた剣が墓標に突き刺さっている。
聖剣と呼ぶにはあまりにも風化しているけど、引き締まった身体に漲る筋力を総動員しても、聖剣は一ミリさえも動かないらしい。
「やだ。クライドお願い、元に戻ってよ。こんなバカな真似はもう止めて」
「うるせえ! さっさと握れよ!」
「えい!」
「ぐはぁっ!? 誰が金タマを握れって言ったんだこの雌豚がぁっ!」
怒り狂ったクライドに鳩尾を殴りつけられ、冷たい床をごろごろと転がる。
「あぐっ、か、は……っ。そんな、汚らわしいもの、ぶらぶらさせてないで、しまってって言ってるの……っ!」
「汚らわしいだと? クライド様のち×ぽで、今までどれだけの女を悦ばせてきたと思ってるんだ? ヒミカ、聖剣を手に入れるためにお前が必要かと思っていたが、役立たずならさっさとお楽しみタイムといくかぁ?」
下卑た笑みに連動して、ゆらゆらとペニスが鎌首をもたげる。
独立した生物のような異形の生殖器が、早く雌に種付けしたくて喚いているように見えた。
「光栄に思えよ、魔王の眷属と交われることをなァ」
魔王の眷属。
(クライドは、誰かの下につくなんてことは一番嫌いだったはずなのに)
ヴィーヴィルに感染したら、【繁殖】のために暴走して最後には死ぬ。
暴走はもう始まっているのかもしれない。
「……勇者の剣を抜くから、お願いを聞いてくれる?」
「あ?」
「私の代わりに、魔王を倒して」
「…………」
「私は役立たずの【踊り子】だから、クライドが戦ってくれるなら、それが一番嬉しい。私は、戦うよりも、後ろからカッコいいクライドの背中を見て、応援していたいから」
じんじんと痛むお腹にぎゅっと力を込める。
「それくらい、本気で好きだったんだよ!」
胸が張り裂けるような絶叫。
潤む瞳から大粒の涙が頬を伝って、床に染み込んでいく。
「誘ってんじゃねぇよ、豚」
「……っ!」
もう、ヒミカの想いは届かない。
「そうだ。その目だよ、ヒミカ。お前は学び舎でいつもそうだった。クラスの奴らにイジメられると、すぐ涙目で男の気を引こうとする」
「違う。そんなつもりじゃ」
「哀れだよなァ。自分は役立たずで何もできないから、色目を使って男を誘うんだろう? くっくっく。笑わせるよなァ。さらに今は娼婦やってるヒミカが勇者だなんてよ。世界中の恥さらしだよなァ。ヒミカに救われるくらいなら、いっそ一度滅んだ方が世界のためなんじゃないか?」
「……何を言っても、もう戻らないのね」
「勇者の旅はもう終わりだ。似合わないことはやめて、大人しく俺に抱かれてろよ」
クライドは聖剣を抜くのを諦めたのか、【竜剣士】の跳躍力でヒミカに覆いかぶさった。
「いやっ……!」
勇者の墓の入り口で、倒れている衛兵を見つけた。
身体を起こすと、脇腹から大量に血を流して目が潰されていた。
「ううっ……誰か、いるのか……?」
「貴方は、門番の、ブロウさん!?」
魔界戦線に到着したヒミカ達を怪しんで、通せんぼしていた衛兵だ。
「……? テメェの声は覚えてる、ぜ。小さいくせに小生意気で、踊り子の姉がいる騎士だな──ゲほっ、がはっ」
一言喋る度に咳き込み、夥しい血を吐く。
「は、ははっ。あの時、俺は『混乱の最中こそ、怪しい奴は中に入れん!』 なんて息巻いてたがよ……間者はとっくの昔に潜り込んでいたとは、な。……門番失格だよ」
「喋ってる場合じゃないです。今すぐ傷の手当てをしないと!」
「よせ。自分の身体は自分が分かる。俺はもう長くない。それより、墓の結界が破られた。中の聖剣を守ってくれ」
「そんな」
「クライドの奴は、ヴィーヴィルってヤツに憑りつかれでもしたんだろう。でなけりゃ、ち×ぽ剥き出しでお前の姉貴を攫うなんてするわけないからな」
「──クライドは僕が殺します」
ヒミカに危険が迫っていることを再確認した瞬間、自分でも驚くほど低い声が出た。
「……そうするしか、ないのかもしれんな。感染したら正気に戻ることはなく、最後には暴走しちまうんだろう? このままだと、お前の姉貴が、魔王の眷属の苗床にされちまう。……頼んだぜ、【盾騎士】」
目が見えない状態で、ブロウはユーマの手を力強く握った。
「後悔はないさ。ユーマ、お前に託すことが……できた、から…………な」
呼吸が糸のようにか細くなり、握った手の平から力が抜ける。
ユーマの背後では激しい光と、熱と、轟音と、悲鳴が一つの楽曲のように奏でられる戦場では、弔うことさえままならない。
うつ伏せのままじゃあんまりだから、せめて壁に寄りかからせることしかできなかった。
「王様だろうが、魔王だろうが、昔からの幼馴染だろうが、関係ない。ヒミカさんは、僕の勇者(モノ)だ」
結界が解かれてぽっかりと口を開いた勇者の墓の入り口。
下へ続く真っ暗な階段を、落ちるように駆けていく。
★
「クソが! どうしてこの俺が、聖剣を抜くことができないんだ!」
勇者の墓、最深部。
まるで地下に造られた礼拝堂のような、静謐な空間が広がっていた。
地面の下とは思えないほど広い空間に、勇者の墓という呼称の通り、棺と墓標だけがある。
質素で物寂しくはあるが、埃っぽさや息苦しさはない。
棺には花が添えられており、誰かの手によって手入れされていることが伺えた。
「ヒミカ、お前が聖剣を抜いてみろ」
クライドが指さす先に、古びた剣が墓標に突き刺さっている。
聖剣と呼ぶにはあまりにも風化しているけど、引き締まった身体に漲る筋力を総動員しても、聖剣は一ミリさえも動かないらしい。
「やだ。クライドお願い、元に戻ってよ。こんなバカな真似はもう止めて」
「うるせえ! さっさと握れよ!」
「えい!」
「ぐはぁっ!? 誰が金タマを握れって言ったんだこの雌豚がぁっ!」
怒り狂ったクライドに鳩尾を殴りつけられ、冷たい床をごろごろと転がる。
「あぐっ、か、は……っ。そんな、汚らわしいもの、ぶらぶらさせてないで、しまってって言ってるの……っ!」
「汚らわしいだと? クライド様のち×ぽで、今までどれだけの女を悦ばせてきたと思ってるんだ? ヒミカ、聖剣を手に入れるためにお前が必要かと思っていたが、役立たずならさっさとお楽しみタイムといくかぁ?」
下卑た笑みに連動して、ゆらゆらとペニスが鎌首をもたげる。
独立した生物のような異形の生殖器が、早く雌に種付けしたくて喚いているように見えた。
「光栄に思えよ、魔王の眷属と交われることをなァ」
魔王の眷属。
(クライドは、誰かの下につくなんてことは一番嫌いだったはずなのに)
ヴィーヴィルに感染したら、【繁殖】のために暴走して最後には死ぬ。
暴走はもう始まっているのかもしれない。
「……勇者の剣を抜くから、お願いを聞いてくれる?」
「あ?」
「私の代わりに、魔王を倒して」
「…………」
「私は役立たずの【踊り子】だから、クライドが戦ってくれるなら、それが一番嬉しい。私は、戦うよりも、後ろからカッコいいクライドの背中を見て、応援していたいから」
じんじんと痛むお腹にぎゅっと力を込める。
「それくらい、本気で好きだったんだよ!」
胸が張り裂けるような絶叫。
潤む瞳から大粒の涙が頬を伝って、床に染み込んでいく。
「誘ってんじゃねぇよ、豚」
「……っ!」
もう、ヒミカの想いは届かない。
「そうだ。その目だよ、ヒミカ。お前は学び舎でいつもそうだった。クラスの奴らにイジメられると、すぐ涙目で男の気を引こうとする」
「違う。そんなつもりじゃ」
「哀れだよなァ。自分は役立たずで何もできないから、色目を使って男を誘うんだろう? くっくっく。笑わせるよなァ。さらに今は娼婦やってるヒミカが勇者だなんてよ。世界中の恥さらしだよなァ。ヒミカに救われるくらいなら、いっそ一度滅んだ方が世界のためなんじゃないか?」
「……何を言っても、もう戻らないのね」
「勇者の旅はもう終わりだ。似合わないことはやめて、大人しく俺に抱かれてろよ」
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「いやっ……!」
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