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第三章『王子様、現る!?』

第63話 告白

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 驚くも、お決まりになりつつある予定調和なやり取り。
 クライドはちょっとした暇さえあればヒミカの隣を陣取っていた。

「戦線にはもう慣れたかよ? ま、魔物の大群が襲ってきても、俺が守ってやるから、安心して胸に飛び込んできな」

 なんて、歯の浮くようなセリフも口癖になっている。
 ヒミカも、ジャイアントオークによる種付け妊娠の恐怖がなくなった今、少しだけほっとしていた。
 身長の高い幼馴染をすぐ隣で見上げると、鍛え上げられた筋肉が血管が浮き立った胸板に目が行ってしまう。

(小さい頃は背が私と同じくらいだったのに、こんなに大きくなるんだ、男の子って)

 自身より遥かに逞しく、強い存在となった幼馴染の身体に、自然と惹かれてしまう。

「──って、ちょっと! どさくさに紛れてどこ触ってるの!?」

 さりげなく腰に回されたクライドの手が、ヒミカの安産型のお尻を円を描くように撫でている。

「あぁ……この手に吸いつくような柔らかさ、お袋みたいで安心するぜ。幼馴染の頃から発育良かったけど、ヒミカってほんといい女になったよなぁ」

「もう、飲み過ぎよ」

 周囲には多くの兵士が居るけど、酒池肉林の宴に皆すっかり酔っぱらっていて、ヒミカ達を気にも留めていない。

「あ、そこ……ん、んぅ」

 クライドの手が正面に回り、ローブの内側へと侵入する。
 ドレスの内側で窮屈そうな胸を揉みしだかれると、すぐに乳首が尖り始め、先端が繊維に擦れて感じてしまう。

(感じちゃう……けど、この感じなんかヤだ……。ミルキィフラワーのトーマさんの時みたいで……っ)

 反射的に逃げ出したくなったけど、がっつり身体を掴まれているためどうにもならない。気付けば、人気の少ない物陰に移動している。

(ユーマ……!)

 いつも言われなくたって側にいるはずの騎士の姿が、見当たらない。

(どこいっちゃったんだろう……。これからのことを話したかったのに)

 防衛部隊に加わったものの、自分の力不足は嫌というほど痛感した。
 これからはもう足を引っ張るわけにはいかない。
 それが例え、ジャイアントオークやそれ以上の魔物だったとしても。

(それに、私達の目的は勇者の墓にあるっていう先代勇者の聖剣なんだ。やらなきゃいけないことは山ほどある)

「なぁ、ヒミカ。二人で抜け出さないか?」

「へ?」

「ヒミカに話したいことがあるんだ」

 端正な顔立ちに朱が差しているのは、きっと広場の篝火が照らしているからではない。

「クライド私、今は──ってきゃあっ!?」

 何かを言う前に、お姫様抱っこをされてしまう。

「しっかり掴まっとけ、よ!」

 そのまま【竜剣士】のスキルで跳躍すると。周囲の建物を次々と踏み台にして空を翔けていく。

「ねぇ、一体どうしたのってば! どこまで行く気なの?」

「もう、着いたぜ」

「へ?」

 辿り着いたのは、円錐型に聳え立つ、巨大な勇者の墓だった。
 ただし、ヒミカ達がいるのはその頂上。
 何もない、人がなんとか二人立てる程の狭い床。
 下を見ると、鋭利な角度で石畳の坂が広がっている。
 誤って足を滑らせたら、地面までボールのように転がり落ちてしまうだろう。

「見晴らしがいいだろ? 魔界戦線も、地平線も全て見渡せる。ここは俺しか行けないお気に入りの場所なんだ」

「あの地割れの向こうに見えるのが、もしかして魔王城?」

 地平線の彼方、世界が丸ごと割れてしまったかのような大きくひび割れた谷の中にある建造物。
ここからだと豆粒のように小さいけど、禍々しい邪気を放っているため一目でそれと分かった。

「ああ。このまままっすぐ行けば辿り着けるように見えるかもしれないが、実際はあの断崖絶壁に阻まれている。俺の跳躍力でも届かない。先代勇者は渡れたらしく、『勇者なら道が開ける』なんて言われてるけどな」
 
 最後の方は少し悔しげな感情が滲んでいた。

「ねぇ、話って何?」

 遠くを見つめていたクライドの青い瞳が、ヒミカの瞳と重なる。

「なぁヒミカ……」

「ん」

「俺と、結婚しよう」

「…………へ?」
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