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第三章『王子様、現る!?』
第62話 弱い生命、強い生命
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シャワーテントは、浴室を出るとまず脱衣所があって、さらに垂れ幕をくぐると外に出るという二重式になっている。
ユーマは外側から、脱衣所でヒミカとリルムの会話を盗み聞きしていた。
もちろん、そんな下世話な真似をするつもりはなかった。
(突然虚空から現れて、覗きを注意してきたリルムって女の子が、消えた……?)
ユーマも彼女が突然姿が見えなくなってしまったことに驚き、少し様子を伺っていたのだ。
そしたら、なんとテントの内側から声が聞こえてくるではないか。
変な子供だなとは思って警戒していたけど、二人の話の内容を聞いてそれどころじゃなくなった。
(ヒミカさんが、妊娠しない?)
まだ経験が浅い(?)ユーマにとって実感はあまり無かったが、性行為とは本来、種族が子孫を残す為の手段だ。
オークの子供を孕むなんて最悪の事態にならなくて良かったと思う一方で。
(ということは、僕も?)
ユーマにとって、一生の忘れることはできない童貞卒業。
慌てふためくユーマをリードするように腰を振っていたヒミカは、当たり前のように膣内射精させてくれた。
けれど、精液は全て魔力に変換される。
(僕が、弱い生命体だから……?)
漠然、愕然としたショックがユーマを襲う。
子供が欲しいというわけではない。
もちろん、セントエルディア城でヒミカと出会って一目惚れして以来、温かな未来に夢想することもある。
だけれど、これからユーマが何度ヒミカに魔力補給をお願いされても。
無我夢中で腰を振ってありったけの精子を子宮に注ぎ込んでも。
(僕は、ヒミカさんに受け入れてもらえない……)
★
次の日。
ヒミカとユーマはクライドの取り計らいで魔界戦線に『助っ人』として正式に受け入れられた。
最初はヒミカが【踊り子】であることに怪訝な顔を浮かべる兵士もいたけど、遊撃部隊隊長の知り合いと分かれば、すぐに首を縦に振った。
昼間、ユーマは防衛設備の修繕を、ヒミカは負傷者の手当てを行いをそれぞれ担当した。
いつ魔物が襲ってくるかもわからないため、のんびりしていられない。
あまりの忙しさにあっという間に夜になっていた。
「最初は負傷者もいるのに宴会なんて、って思ってたけど。すごい活気ね」
戦場だった病室がようやく落ち着いて、ヒミカは一人外へ出た。
昨日の防衛成功を祝して、魔界線線の広場では盛大に宴会が行われている。
魔物と戦っていた前衛部隊、支援部隊、遊撃部隊はもちろん、戦闘には参加しない裏方の兵士全員が集まっていた。
中心では柵で囲われた巨大な篝火がもくもくと煙を天へと送る。
死んでしまった者達への弔いと、闇夜に潜む魔物への哨戒の役目を果たしていた。
「おう、嬢ちゃん、飲んでるかい?」
様子を見て回っていると、ある兵士に声をかけられた。
「あなたは、病室に居た、ガイさん?」
「おう! 俺が防衛部隊の隊長、ナイスガイのガイだぜ。はっはっは」
ガイはまだ兵歴三十年を越えるベテランの兵士で、魔界戦線ではいつも我先にと魔物達の波に突っ込んでいたそうだ。
「そんな、お酒飲んでていいんですか? 腕だって、無くなっちゃったのに」
「腕が無くなったって? なら左腕があるだろ」
右腕は肩口から無くなっていて、ガーゼに血が滲んでいた。
けれども、まるで最初から無かったかのように笑うと、左手で握った小樽をぐびっと傾けた。
ガイの様子にぽかん、と呆気にとられる。
「ここに集まった連中はな、大体が何らかの理由で冒険者を辞めて、それでも戦いたい奴らが自主的に集まってるだけなんだよ。あ、俺は年齢を理由にパーティから追い出された感じ。だからみんな覚悟してる。戦って死ぬなら本望だろうよ」
「でも」
「割り切れないってか? まぁ、若いうちはそうかもな。でもこんなおっさんになるとよ、もう両手じゃあ辛いコトを全部抱えてられなくなっちまうのよ。だったらもう、笑うしかねぇだろ。泣いたって悔しがったって腕は戻ってこねえんだから、美味しく酒を飲んでた方が人生お得だろ」
なんとも強い人だった。
ヒミカとユーマは、内心自責の念に駆られていた。
(私が、早く魔王と倒さないから、みんなが怪我を)
「こうして戦えることは誇りだし、嬉しいんだよ」
「嬉しい?」
「ああ。だって、勇者が現れたのにここに来ないってことは、どこかで別の何かと戦ってるんだろ? もともと勇者一人に世界を任せるなんて、無茶だよな。俺なら投げ出してる。俺達が、ここで魔物を食い止めりゃあそれは人々を守るだけじゃなく、憧れの勇者様を助ける事にも繋がるんだから」
ヒミカの顔が明るくなる。
「おっ、新入りちゃんこんばんは! 俺は広報支援部隊のルークス。見てたよ、君たちがジャイアントオークに立ち向かっていく姿。助けに行けなくてごめんね」
別の騎士も寄ってきた。骨付き肉をヒミカ達に手渡してくれる。
「けど、助かったよ。今は猫の手も借りたいぐらいだったのに、ブロウの兄貴がたまたま通りかかった冒険者の協力を『もし魔王の内通者だったらどうする!』って、しばらくは兵士の補充もなかったもんな」
ブロウとは、魔界戦線の時にヒミカ達を侵入を阻んでいた衛兵だ。
「ははは、ブロウの兄貴に止められてたのか。気にすんな。あれはあれで、魔界戦線のことを第一に気にかけてくれる良いオッサンだからよ」
「クライド!」
声とともに、後ろからぽんぽん、と肩を叩かれたと思ったら、全裸じゃなくてしっかりと軽装備な鎧を身にまとった幼馴染だった。
平均年齢が高めな兵士たちの中、若くて高身長のクライドはかなり目立つ。
「お、遊撃隊長じゃないですか!」
「ルークス、いくぞ。隊長とお嬢ちゃんを良い雰囲気にさせてやれ」
「えっガイさん? もしかして二人ってそういう……?」
「わははは。若者同士の集まりに老害は不要ってことよ」
輪のようになっていた集まりから次々と人が去り、気付けばクライドと二人きりになっていた。
「だってさ、ヒミカ。どうよ、飲んでる?」
「それなりに」
「にしては平気そうな顔してるよな。もしかして得意なのか?」
「まあね。ミルキィフラワーではいつもそうだし」
「みるき?」
「な、なんでもない。ところで、クライドはどうしたの?」
「もちろん、ヒミカに会いに来たんだよ」
「えっ」
ユーマは外側から、脱衣所でヒミカとリルムの会話を盗み聞きしていた。
もちろん、そんな下世話な真似をするつもりはなかった。
(突然虚空から現れて、覗きを注意してきたリルムって女の子が、消えた……?)
ユーマも彼女が突然姿が見えなくなってしまったことに驚き、少し様子を伺っていたのだ。
そしたら、なんとテントの内側から声が聞こえてくるではないか。
変な子供だなとは思って警戒していたけど、二人の話の内容を聞いてそれどころじゃなくなった。
(ヒミカさんが、妊娠しない?)
まだ経験が浅い(?)ユーマにとって実感はあまり無かったが、性行為とは本来、種族が子孫を残す為の手段だ。
オークの子供を孕むなんて最悪の事態にならなくて良かったと思う一方で。
(ということは、僕も?)
ユーマにとって、一生の忘れることはできない童貞卒業。
慌てふためくユーマをリードするように腰を振っていたヒミカは、当たり前のように膣内射精させてくれた。
けれど、精液は全て魔力に変換される。
(僕が、弱い生命体だから……?)
漠然、愕然としたショックがユーマを襲う。
子供が欲しいというわけではない。
もちろん、セントエルディア城でヒミカと出会って一目惚れして以来、温かな未来に夢想することもある。
だけれど、これからユーマが何度ヒミカに魔力補給をお願いされても。
無我夢中で腰を振ってありったけの精子を子宮に注ぎ込んでも。
(僕は、ヒミカさんに受け入れてもらえない……)
★
次の日。
ヒミカとユーマはクライドの取り計らいで魔界戦線に『助っ人』として正式に受け入れられた。
最初はヒミカが【踊り子】であることに怪訝な顔を浮かべる兵士もいたけど、遊撃部隊隊長の知り合いと分かれば、すぐに首を縦に振った。
昼間、ユーマは防衛設備の修繕を、ヒミカは負傷者の手当てを行いをそれぞれ担当した。
いつ魔物が襲ってくるかもわからないため、のんびりしていられない。
あまりの忙しさにあっという間に夜になっていた。
「最初は負傷者もいるのに宴会なんて、って思ってたけど。すごい活気ね」
戦場だった病室がようやく落ち着いて、ヒミカは一人外へ出た。
昨日の防衛成功を祝して、魔界線線の広場では盛大に宴会が行われている。
魔物と戦っていた前衛部隊、支援部隊、遊撃部隊はもちろん、戦闘には参加しない裏方の兵士全員が集まっていた。
中心では柵で囲われた巨大な篝火がもくもくと煙を天へと送る。
死んでしまった者達への弔いと、闇夜に潜む魔物への哨戒の役目を果たしていた。
「おう、嬢ちゃん、飲んでるかい?」
様子を見て回っていると、ある兵士に声をかけられた。
「あなたは、病室に居た、ガイさん?」
「おう! 俺が防衛部隊の隊長、ナイスガイのガイだぜ。はっはっは」
ガイはまだ兵歴三十年を越えるベテランの兵士で、魔界戦線ではいつも我先にと魔物達の波に突っ込んでいたそうだ。
「そんな、お酒飲んでていいんですか? 腕だって、無くなっちゃったのに」
「腕が無くなったって? なら左腕があるだろ」
右腕は肩口から無くなっていて、ガーゼに血が滲んでいた。
けれども、まるで最初から無かったかのように笑うと、左手で握った小樽をぐびっと傾けた。
ガイの様子にぽかん、と呆気にとられる。
「ここに集まった連中はな、大体が何らかの理由で冒険者を辞めて、それでも戦いたい奴らが自主的に集まってるだけなんだよ。あ、俺は年齢を理由にパーティから追い出された感じ。だからみんな覚悟してる。戦って死ぬなら本望だろうよ」
「でも」
「割り切れないってか? まぁ、若いうちはそうかもな。でもこんなおっさんになるとよ、もう両手じゃあ辛いコトを全部抱えてられなくなっちまうのよ。だったらもう、笑うしかねぇだろ。泣いたって悔しがったって腕は戻ってこねえんだから、美味しく酒を飲んでた方が人生お得だろ」
なんとも強い人だった。
ヒミカとユーマは、内心自責の念に駆られていた。
(私が、早く魔王と倒さないから、みんなが怪我を)
「こうして戦えることは誇りだし、嬉しいんだよ」
「嬉しい?」
「ああ。だって、勇者が現れたのにここに来ないってことは、どこかで別の何かと戦ってるんだろ? もともと勇者一人に世界を任せるなんて、無茶だよな。俺なら投げ出してる。俺達が、ここで魔物を食い止めりゃあそれは人々を守るだけじゃなく、憧れの勇者様を助ける事にも繋がるんだから」
ヒミカの顔が明るくなる。
「おっ、新入りちゃんこんばんは! 俺は広報支援部隊のルークス。見てたよ、君たちがジャイアントオークに立ち向かっていく姿。助けに行けなくてごめんね」
別の騎士も寄ってきた。骨付き肉をヒミカ達に手渡してくれる。
「けど、助かったよ。今は猫の手も借りたいぐらいだったのに、ブロウの兄貴がたまたま通りかかった冒険者の協力を『もし魔王の内通者だったらどうする!』って、しばらくは兵士の補充もなかったもんな」
ブロウとは、魔界戦線の時にヒミカ達を侵入を阻んでいた衛兵だ。
「ははは、ブロウの兄貴に止められてたのか。気にすんな。あれはあれで、魔界戦線のことを第一に気にかけてくれる良いオッサンだからよ」
「クライド!」
声とともに、後ろからぽんぽん、と肩を叩かれたと思ったら、全裸じゃなくてしっかりと軽装備な鎧を身にまとった幼馴染だった。
平均年齢が高めな兵士たちの中、若くて高身長のクライドはかなり目立つ。
「お、遊撃隊長じゃないですか!」
「ルークス、いくぞ。隊長とお嬢ちゃんを良い雰囲気にさせてやれ」
「えっガイさん? もしかして二人ってそういう……?」
「わははは。若者同士の集まりに老害は不要ってことよ」
輪のようになっていた集まりから次々と人が去り、気付けばクライドと二人きりになっていた。
「だってさ、ヒミカ。どうよ、飲んでる?」
「それなりに」
「にしては平気そうな顔してるよな。もしかして得意なのか?」
「まあね。ミルキィフラワーではいつもそうだし」
「みるき?」
「な、なんでもない。ところで、クライドはどうしたの?」
「もちろん、ヒミカに会いに来たんだよ」
「えっ」
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