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第三章『王子様、現る!?』

第59話 裸の付き合い

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「──って! どうしてシャワーの中にまで入ってくるのよ!」
 
 石鹸を泡立てたタオルで、後ろからヒミカの背中をゴシゴシするクライド。
 タオルで前を隠しているとはいえ、お互い素っ裸だ。
 男の子と同じシャワーを浴びて、背中を流されるという人生で初めての状況が、ヒミカの羞恥心をこの上なく煽る。

「どうしてって、負傷した兵士の傷口を消毒するために、シャワーテントはココしか空いてないし、俺もヒミカのオーク臭が移っちまったからさ」
 
 シャワーテントは駐屯地から離れた、病棟に近い場所にある。
 全部で二十張りあるが、他全てが既に使われてしまっていた。
 
「じゃあ私の後にしてよ! 先でもいいわ!」

「まーまー。小さい頃、学院スクール近くの湖で裸のまま水浴びしてたじゃねーか」

「ほんと幼い頃の話でしょう! あの頃とは──」

「何が違うって? 身体が大きくなっただけだろ? もしかしてヒミカ、エロいこと考えちゃってる?」

「ちーがーいーまーすーっ! というか前は洗わなくていい、自分でやるから!」

 タオルを握る手に力が入る。
 秘所はもちろん、お腹の淫紋を見られるわけにはいかない。

「じゃあ細かいコトは気にすんなって。お互い幼少期以来、裸の付き合いでしか語れない積る話もあるだろ?」

(気にするなって、しっかり大きくしてるじゃない!)

「ん? 俺のち×ぽ気になる?」

「別に」

 といいつつ、チラチラと気になってしまうヒミカ。

(小さい頃と全然違う……。黒光りして、血管が山脈みたいに走ってて、あんなに硬く張り詰めてて)

「悪い。なんかヒミカを見てたら、こんな風になっちまってさ」

 意外なことに、素直に悪びれているようだった。

「早くしまってよ」

「それは無理だな。裸だし」

「じゃあ後ろ向いてて」

「はいはい」

 ヒミカの剣幕に圧されたのか、素直に従った。
 それぞれ身体を擦る音だけが響く。
 その隙にヒミカは陰部を洗う。

(うわ……まだ、こんなに)
 
 女陰を広げて指を入れると、中から白く濁った粘液がどろりと垂れてきた。

「きゃっ!?」

「どうした?」

「なんでもない、こっち向かないで!」

 膣口から、にゅるりとオタマジャクシが跳ねて飛び出してきたのだ。
 あまりの気味悪さにゾッとして、足で踏み潰して大量のシャワーで流す。

(うぅ。お腹が気持ち悪い。私、本当に妊娠しちゃったの? どうしよう……っ!)

 魔物の赤ちゃんを産むことも、自分のお腹が大きくなることを想像することさえ恐怖だった。

(でも私、今まで──)

「しっかし。ホント驚いたぜ、まさかヒミカとこんな所で再会できるなんてな」

 背を向けたまま、クライドが話しかけてきた。

「クライドは、学院スクールを卒業した後に、魔界戦線に加わったの?」

「いや、最初は冒険者をやってたんだ。ランクを上げるためにひたすらクエストをこなして、色んな地方を転々としてさ。案外あっさりとAランクにまで駆け上がっちまったからか、その頃から急に冒険者としてのモチベが薄れていったんだ」

「それで魔界戦線に?」

「ああ。俺、小さい頃から勇者になるって言ってただろ?」

「そ、そうだっけ」

 ドクン──と、ヒミカの心臓が跳ねる。

「せっかく魔王が誕生する時代に生まれたからには、俺が勇者になってやる! って意気込んで、魔王城に一番近い魔界戦線に入らせてもらったのさ。遊撃部隊として、魔王城の偵察もできるしな。だが、魔王が復活してしばらく経っても、俺に紋章は現れなかった」
 
 ヒミカは小さい頃、クライドが勇者になると語っていたことを思い出す。
 子供時代の戯言と思っていたけど、今までずっと、純粋な瞳のままで夢を見続けていたのだ。

「……じゃあ、今は何のために戦ってるの?」

「そうだな……。勇者が現れたって風の噂を聞いても、一向に現れる気配はないし、いっそ俺が先に魔王をぶっ倒してやるか! あるいは、いざ俺の前に勇者が現れて、そいつが俺が認める程の屈強な戦士だったら、共闘してやるのもアリかもな。あ、もちろん魔王を倒した後は勇者だけじゃなくて俺の銅像も建ててもらうからな!」

 見栄っ張りなところも変わらず。

「悔しい、よね。……勇者になれなくて」

「まぁな。なんだよ、慰めてくれるのか?」

「ちょっ、こっち向かないでよ!」

 逞しい雄の象徴が、ぶらんぶらんと揺れてヒミカにこんにちはと挨拶している。
 クライドは身体を洗い終えたのか、こちらを向いたままなので、代わりにヒミカが後ろを向く。

「なぁ、ヒミカはどうしてここに来たんだ? 【踊り子】のお前がこんな所にくるなんて、一体何があったんだよ」

「私、は」

 正直に言うべきか迷った。けれど、それはクライドの前で勇者であることを明かすのははばかられた。

「私は……冒険者、やってるの」

 嘘はついてない。Eランクだし。

「冒険者? 【適正センス】は?」

「……【踊り子】だけど」

「【踊り子】で? やっていけてるのかよ?」

 あまりにも予想通りな反応に、分かっていても少し苛立つ。

「そうだよ。ユーマって騎士の男の子が、前衛してくれるから意外とやっていけるんだ」

「へぇ、そう」
 
 あまり興味無さそうだった。
 
 しばらくの間、二人のこれまでについての話で盛り上がる。
 クライドが根堀り葉堀り聞いてくるものだから誤魔化すのが大変だった。
 ヒミカが勇者であること、娼館で働いていることを。

「そんなことよりクライド、魔界戦線について教えてほしいことがあるんだけど」

「なぁ、ヒミカ」

「なに──ってひゃあっ!?」
 
 うなじに熱いモノが押し当てられた。

「その、シてくれないか?」

「え、ええっ!?」

 振り向くと、勃起した陰茎がヒミカに照準を定めていた。
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