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第三章『王子様、現る!?』
第51話 古典的誘惑
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さらに三週間が経過し、アグリナ街から随分と遠くまで来た。
北に向かって転々と小さな村を経由しながら、ヒミカとユーマはようやくタラウス地方の魔界戦線に辿り着いた。
「見渡す限りの高い壁! 前が何も見えない」
「魔物からの防衛のためと思いますが、同時に『勇者の墓』の一部でもあるようです」
石材やレンガでひたすら高く築かれた壁。
遠くから眺めると、背を向けた巨人が、背後を庇うように腕を広げているようにも見える。
「入り口はあそこかしら」
壁の一か所だけ開閉できる扉が設えてあり、すぐ側にはゴツい体格の衛兵が槍を握って仁王立ちしていた。
「私が勇者だって明かせば、中に入れてもらえるかしら」
「辞めておいた方がいいでしょうね。ババロアさんが言っていた通り、魔界戦線は魔王城へもっとも近い防衛拠点です。もしここに勇者が来たことを明かせば戦線は混乱の渦に呑まれるでしょう。最悪、ヒミカさん一人に魔物からの防衛を押し付けられる可能性もあります」
「うっ……。協力できることはしたいけど、それはちょっと嫌かも」
「大丈夫ですよ。ヒミカさんは美しくてお優しいお方。警戒されるはずもなく、すんなり中に入れてくれますって」
「ダメだ」
ぴしゃりと断られた。
腕を組んだ大柄の衛兵は目を細めてヒミカ達を一瞥する。
「何だ、お前ら。今、魔界戦線は大忙しなんだ。ここ最近、魔王城の方向から魔物がうじゃうじゃと押し寄せてきやがる。防衛部隊がなんとか食い止めてはいるが、緊迫の状態が続いている。こんな混乱の最中に、怪しい奴らを入れるわけにはいかん」
正論だけど、こちらとて勇者である。
「私、ヒミカって言います。私達、その防衛部隊に加勢したいんです!」
「ほう、【適正】は?」
「お、【踊り子】、です」
「【踊り子】~~? そんな役立たずの【適正】で何ができるっていうんだ?」
「う……」
「おい、そこのお前──」
「お、落ち着いてユーマ!」
こめかみに青筋を立てた騎士が剣呑な面持ちで衛兵の前に立つ。
悲しいかな。
身長が低くて凄んでいても子供が背伸びしているようにしか見えず、衛兵は全く意に介していない。
ユーマはコホンと咳払いをした。
「僕はセントエルディアから来ました、【盾騎士】のユーマです。アウザー王の命令により、魔界戦線の防衛部隊を支援するよう馳せ参じました。ちなみに、彼女は僕の姉です」
「姉!?」
「激戦と膠着状態が予想されるため、特別に親族の同行を許可されたのです。ですから、黙ってここを通していただけますか?」
「セントエルディアの騎士、ね」
じろりと睨む目線が、ユーマの持つ盾に止まる。
刻まれた装飾は嘘偽りなくセントエルディア騎士団の純正装備の証だ。
衛兵は腕を組んで言い放った。
「わかった。だが、そこの【盾騎士】だけだ」
「!? どうして」
「言っただろう。戦線は日に日に状況が悪化してるんだ。これ以上女子供を守る余裕はねぇ」
「それは戦線の意向ですか? それとも、あなた個人の考えですか? ご心配には及びません。ヒミカは僕が守ります。そもそも、【踊り子】でも戦えます」
「【踊り子】でも戦えます、だぁ? お前ら、魔物との闘いを舐めてないか?」
「舐めてないですよ」
「もういいわ、ユーマ。埒が明かない」
再びヒミカが前に出る。
「ですが……っ!」
勇者だと打ち明ける訳にはいかない、と顔で訴えるユーマ。
しかしヒミカが取った行動は予想外で、かつ想定通りだった。
「確かに私は戦いにおいて役立たずかもしれません。ですが、【踊り子】として、戦いに疲れたお兄さんを癒すことができます。どうでしょう……?」
「うっ……」
目の前でローブの留め具を外す。
真紅のベラに包まれていた大きな胸がまろびでて、挨拶がわりにだゆんと揺れた。
衛兵の目はあっという間におっぱいに釘付けになっている。
「し、しかしだな……」
「ヒミカさん!」
後ろから抗議の声がするけど、これしか方法はない。
さらにドレスをの裾を捲ると、花柄の刺繡があしらわれたショーツが露になった。
ごくり、と唾を呑み込む音をヒミカは聞き逃さない。
「ココじゃなくて、ナカでゆっくり楽しみませんか?」
擦り寄って腕を組む。
キスでもできそうなほどの至近距離。
ユーマが叫んでるけどもう遅い。
「いいんだな、お嬢ちゃん?」
「はい──【誘惑する濡れ瞳】」
「あ……?」
ヒミカの瞳から放たれた魔力が衛兵の目を貫き、何が起こったのか分からずたたらを踏む。
「ユーマ、今よ!」
「──御免!」
ガツン! と目を背けたくなるような衝撃音。
全てを理解したユーマが素早く衛兵の背後に回って飛びかかり、後頭部を盾で殴打したのだ。
完全な不意打ちに、衛兵はたまらず気絶してしまった。
「助かったわ、ユーマ」
「勢いでヤってしまいましたが……これって僕達、犯罪者の所業じゃ」
「大丈夫。少し強めに魅了をかけたから、目が覚めてもしばらくは私に対する好意で頭がいっぱいなはず。身を隠さなきゃいけないことに変わりないけど」
「もう、こちらはヒヤヒヤさせられましたよ」
「どうして?」
「だってその……ヒミカさんが知らない男とき、キスすると思って」
「するわけないでしょ。私の唇は、想い人の為に取っておいてあるんだから」
想い人。
ヒミカの小さい頃の幼馴染。
どこか遠くを見つめる瞳はユーマを捉えてはいない。
「どうかした?」
「いえ、なんでもありません。もう、こんなことはやめてくださいね」
「わかったわ。さ、中に入りましょう」
北に向かって転々と小さな村を経由しながら、ヒミカとユーマはようやくタラウス地方の魔界戦線に辿り着いた。
「見渡す限りの高い壁! 前が何も見えない」
「魔物からの防衛のためと思いますが、同時に『勇者の墓』の一部でもあるようです」
石材やレンガでひたすら高く築かれた壁。
遠くから眺めると、背を向けた巨人が、背後を庇うように腕を広げているようにも見える。
「入り口はあそこかしら」
壁の一か所だけ開閉できる扉が設えてあり、すぐ側にはゴツい体格の衛兵が槍を握って仁王立ちしていた。
「私が勇者だって明かせば、中に入れてもらえるかしら」
「辞めておいた方がいいでしょうね。ババロアさんが言っていた通り、魔界戦線は魔王城へもっとも近い防衛拠点です。もしここに勇者が来たことを明かせば戦線は混乱の渦に呑まれるでしょう。最悪、ヒミカさん一人に魔物からの防衛を押し付けられる可能性もあります」
「うっ……。協力できることはしたいけど、それはちょっと嫌かも」
「大丈夫ですよ。ヒミカさんは美しくてお優しいお方。警戒されるはずもなく、すんなり中に入れてくれますって」
「ダメだ」
ぴしゃりと断られた。
腕を組んだ大柄の衛兵は目を細めてヒミカ達を一瞥する。
「何だ、お前ら。今、魔界戦線は大忙しなんだ。ここ最近、魔王城の方向から魔物がうじゃうじゃと押し寄せてきやがる。防衛部隊がなんとか食い止めてはいるが、緊迫の状態が続いている。こんな混乱の最中に、怪しい奴らを入れるわけにはいかん」
正論だけど、こちらとて勇者である。
「私、ヒミカって言います。私達、その防衛部隊に加勢したいんです!」
「ほう、【適正】は?」
「お、【踊り子】、です」
「【踊り子】~~? そんな役立たずの【適正】で何ができるっていうんだ?」
「う……」
「おい、そこのお前──」
「お、落ち着いてユーマ!」
こめかみに青筋を立てた騎士が剣呑な面持ちで衛兵の前に立つ。
悲しいかな。
身長が低くて凄んでいても子供が背伸びしているようにしか見えず、衛兵は全く意に介していない。
ユーマはコホンと咳払いをした。
「僕はセントエルディアから来ました、【盾騎士】のユーマです。アウザー王の命令により、魔界戦線の防衛部隊を支援するよう馳せ参じました。ちなみに、彼女は僕の姉です」
「姉!?」
「激戦と膠着状態が予想されるため、特別に親族の同行を許可されたのです。ですから、黙ってここを通していただけますか?」
「セントエルディアの騎士、ね」
じろりと睨む目線が、ユーマの持つ盾に止まる。
刻まれた装飾は嘘偽りなくセントエルディア騎士団の純正装備の証だ。
衛兵は腕を組んで言い放った。
「わかった。だが、そこの【盾騎士】だけだ」
「!? どうして」
「言っただろう。戦線は日に日に状況が悪化してるんだ。これ以上女子供を守る余裕はねぇ」
「それは戦線の意向ですか? それとも、あなた個人の考えですか? ご心配には及びません。ヒミカは僕が守ります。そもそも、【踊り子】でも戦えます」
「【踊り子】でも戦えます、だぁ? お前ら、魔物との闘いを舐めてないか?」
「舐めてないですよ」
「もういいわ、ユーマ。埒が明かない」
再びヒミカが前に出る。
「ですが……っ!」
勇者だと打ち明ける訳にはいかない、と顔で訴えるユーマ。
しかしヒミカが取った行動は予想外で、かつ想定通りだった。
「確かに私は戦いにおいて役立たずかもしれません。ですが、【踊り子】として、戦いに疲れたお兄さんを癒すことができます。どうでしょう……?」
「うっ……」
目の前でローブの留め具を外す。
真紅のベラに包まれていた大きな胸がまろびでて、挨拶がわりにだゆんと揺れた。
衛兵の目はあっという間におっぱいに釘付けになっている。
「し、しかしだな……」
「ヒミカさん!」
後ろから抗議の声がするけど、これしか方法はない。
さらにドレスをの裾を捲ると、花柄の刺繡があしらわれたショーツが露になった。
ごくり、と唾を呑み込む音をヒミカは聞き逃さない。
「ココじゃなくて、ナカでゆっくり楽しみませんか?」
擦り寄って腕を組む。
キスでもできそうなほどの至近距離。
ユーマが叫んでるけどもう遅い。
「いいんだな、お嬢ちゃん?」
「はい──【誘惑する濡れ瞳】」
「あ……?」
ヒミカの瞳から放たれた魔力が衛兵の目を貫き、何が起こったのか分からずたたらを踏む。
「ユーマ、今よ!」
「──御免!」
ガツン! と目を背けたくなるような衝撃音。
全てを理解したユーマが素早く衛兵の背後に回って飛びかかり、後頭部を盾で殴打したのだ。
完全な不意打ちに、衛兵はたまらず気絶してしまった。
「助かったわ、ユーマ」
「勢いでヤってしまいましたが……これって僕達、犯罪者の所業じゃ」
「大丈夫。少し強めに魅了をかけたから、目が覚めてもしばらくは私に対する好意で頭がいっぱいなはず。身を隠さなきゃいけないことに変わりないけど」
「もう、こちらはヒヤヒヤさせられましたよ」
「どうして?」
「だってその……ヒミカさんが知らない男とき、キスすると思って」
「するわけないでしょ。私の唇は、想い人の為に取っておいてあるんだから」
想い人。
ヒミカの小さい頃の幼馴染。
どこか遠くを見つめる瞳はユーマを捉えてはいない。
「どうかした?」
「いえ、なんでもありません。もう、こんなことはやめてくださいね」
「わかったわ。さ、中に入りましょう」
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