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第二章『えっ! 踊り子なのに魔物と戦うんですか!?』

第39話 信じてくれないなら脱ぐしかないじゃない

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「眷属?」

「ヴィーヴィルに吸血された生命は魔王の血を流し込まれ、魔王の眷属となるように身体が改造されていくそうだ。感染が進むと魔王の権能を扱うことも可能になるが、自我が薄れ、暴走する」

「暴走……」

 村長の変わり果てた姿(特に股間)を思い出し、顔が熱くなる。

「でも、どうして村長が?」

 一〇〇年ぶりに魔王が誕生し世界に異変が現れた、という事実は理解できるのだが、なぜサブルブ村のような辺鄙な村でこんなことが起きたのだろうか。

「かつての魔王は【破壊】の権能で世界各地に大災害を引き起こした。解析部隊は今代の魔王の権能を【繁殖】と推測している。魔王は、先代が滅ぼされた恨みから、この世界に同じ魔王を大量に生み出すことによって、世界を滅ぼそうとしているみたいだな」
 
 権能、それは冒険者でいう【適正センス】の魔王版だ。

(【繁殖】って、なんだか、魔王っぽくないというか……。魔王だって勇者らしくない【踊り子】の私に言われたくないだろうけど)

「ここからは我々ギルドの見解だ」

 キリッ、と眼鏡に指を添えてババロアが続ける。

「まず、放たれた少数のヴィーヴィルの一匹が、人目につかないサブルブ村の村長を襲い【繁殖】の権能を与えた。魔王の血に感染した村長は森のスライムやゴブリンを従え、同じく権能を付与したんだ」

「魔物を従えるなんて……。他の村人達は? 村長を止めなかったの?」

「ああ、異変に気付いた村人は片っ端から殺されて、畑の土の下に埋まってたよ」

「そんな……」

「こうして誰もいなくなったサブルブ村は、魔王にとっての隠れた繁殖場となったわけだ。魔王の血を持つもの同士で交われば、ヴィーヴィル無しでも連鎖的に繁殖することができる。だが一つ問題があった。そのまま魔物同士で繁殖すればいいのだが、村長自体はまだ人間だ。魔物と交尾するわけにはいかない。また、村は高齢化が進み、若い女性が居なかった。村長は苦しんだだろうな。このままでは与えられた権能を振るえないどころか、極限まで高ぶった生殖本能を沈めることも叶わない。そこで知恵を巡らせ、偽りのクエストを我々ギルドに依頼したんだ。スライムやゴブリンの討伐であれば、冒険者になり立ての若い女性が引っかかると踏んだんだろう」

 アグリナ街ではサブルブ村からの野菜の出荷が滞っていた。
 その原因はゴブリンとスライムが畑を荒らしているとのことだったが、それは冒険者をおびき寄せる罠に過ぎなかった。

 実際、見事にヒミカ達は引っ掛かった。
 受付嬢、ムースの案内ではあるけれど。

(そういえば、村には人の気配が全然無かった。それに、お腹が空いてたから気付かなかったけど、村長が振舞ってくれたお鍋だって野菜が大量にあって、不作に苦しんでる様子なんてなかった。なによこれ、違和感だらけじゃない。私のバカ!)

「そして村にはヒミカがやってきた。本当なら従えたスライムとゴブリンに襲わせる予定だったが、禁欲に耐えきれなかった村長は待ちきれずに暴走し、ヒミカが襲われた、という訳さ」

「じゃあ、村長に襲われたのは、私を魔王の苗床にするためってこと?」

「そういうことだ。こうして明るみになったってことは、魔王が活動を本格的に始めたことを意味する。厄介だ」

(厄介だ、じゃないわよ! 最悪! 私、処女だって王様に奪われたばかりなのに、魔王の苗床なんて冗談じゃないわ)

「ともかく、僕たちが受けたクエストは、スライムとゴブリンの討伐なんてレベルを遥かに越えていたってことですよね」

 ユーマが不服そうに受付嬢に視線を送ると、ババロアとムースは気まずそうにもう一度頭を下げた。

「申し訳ない、結果として、魔王案件ならA級以上の冒険者に依頼するクエストを、ランクの君達に任せてしまった。ムースが勝手にクエストを手配したことを知った私も、スライムとゴブリンならランクでも問題ないと判断してしまったんだ」

 再度ペコペコと謝られるが、Eランクを強調されて勝手にダメージを受ける。

「お詫びとして報酬は二倍支払おう。本来ならば金貨二〇枚、とてもランクのパーティにふさわしくない額で、我々も腹を切る思いだが……」

「あなたさっきから私たちのこと馬鹿にしてるでしょ!」

「は?」

(この人、一切悪気がない……!)

「ババロアせんぱぁい。これからどうしましょう? この件、Aランク冒険者に引き継ぐにても、魔王案件レベルの報酬、うちのギルドじゃ発注できませんわ。赤字ですわよ」

「くっ。ランクパーティに金貨二〇枚払ったばかりだというのに……。こんな時、偶然ふらりと勇者が駆けつけてくれればいいのだが」

「あの……」

「勇者が自ら受注するなら、報酬はセントエルディア持ちだろうしな。全く、勇者が誕生したと風の噂で聞いたのに、一体どこの誰なのかも分からない」

「あの!」

「なんだ? 報酬ならちゃんと──」

「報酬、元の金貨一〇枚、いや半分でもいいですから。だから、その……、私が」

 内股を擦り合わせてもじもじしていると、先ほどから黙っていたユーマがすっと前に出た。

「勇者なら、ここに居ます。この方こそ今代の勇者、【踊り子】のヒミカ様なのです!」

 堂々たる発言とは対照的に、ムースとババロアの反応はいまいちだった。

「ヒミカちゃんが、勇者? 冗談、ですわよね?」

「【踊り子】の君が? 冒険者ですら極めて珍しいのに、勇者だなんて。劇の練習でもしているのか?」

「そ、そうじゃなくて」

 ヒミカは気まずくなって俯いてしまう。
 やっぱり、【踊り子】は役立たずの【適正センス】、というのがこの世界の共通認識だ。
 とびきり才能があれば有名な劇団で活躍できるけど、ヒミカのような貧乏人には、娼館や見世物小屋でしか居場所がない。

(信じてもらえるわけなんて、ないよね)

 だからヒミカはローブでドレスと肌を隠している。

(自分なりに、世界を救うなんて意気込んでみたけど、やっぱり私はただの役立たず──)

「無礼な! 証拠ならありますよ、ここに!」

「ちょっ、ユーマ!?」

 聞いたこともないような大声で叫んだユーマが、驚いているヒミカのローブをばさーっとひったくり、放り投げた。 

 真紅のベラに包まれた豊満な肢体。
 剥き出しのお腹に刻まれた紋様が露になる。

「この証は……!」

「確かに、勇者の証……だ。どうしてヒミカがこれを?」

「あなた達! 勇者様に疑いの眼差しを向けた挙句、本物の紋章をみてもなお、信じられないと言うのですか!」

 ユーマは本気で怒ってくれている。
 その姿に、湿った心が救われたような気がした。

「しかしだな。勇者と判断するには……」

「魔王を打倒する力があるのか? 必要なのはその点でしょう。分かりました。であれば勇者様、ここは一つ、踊りで力を見せつけてやりましょう!」

「え、今ここで踊るの?」
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