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第一章『性なる力に目覚めた勇者!?』
第14話 国王・変態拳聖アウザー
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ヒミカと騎士は進み続け、城下町の中央に聳え立つセントエルディア城へ入っていく。
城に着いてからは馬車を降りて騎士が先導し、荘厳で豪華絢爛な場内をひたすら歩いた。
城の中を見るのは初めてだが感慨に耽る暇はない。
縄を解かれたヒミカは必死に逃げ出す隙を探していた。
けれど、前後左右を騎士に囲まれていては、とても無理な話だった。
(場内の見張りは少ない。けど、仮に逃げ出せてもこんな迷路みたいに入り組んでいたら、城から出ることができない)
今はまだ耐えるしかない、と唇を噛みながらさらに進み、一際豪勢な金の扉の前で止まった。
「ここが王の間です」
ギギギ、と軋んだ音を立てて黄金の扉がゆっくりと開かれる。
「どうぞ。先ほども申し上げました通り、アウザー王は大変気難しいお方です。くれぐれも失礼のないようお願いいたします」
「あなた達が今私にしていることが十分失礼ですけど」
皮肉を呟く口の動きが止まる。
扉が開け放たれた瞬間、軽口を許さないような静謐な空気が頬を撫でたからだ。
得も言われぬ緊張感に肌がヒリつく。
ヒミカはおそるおそる赤絨毯の上を歩いていく。
続くあわあわ騎士達は左右にずらりと並ぶ騎士達に混ざって同じように整列した。
重々しい空気を一歩ずつ引裂くように歩き、数十秒かけてようやく玉座の前に辿り着く。
杖を弄びながら座す、セントルディア王と対面した。
「遠路遥々、よくぞおいでなさった、勇者殿」
「ユウシャ、という名前ではありません。私の名前はヒミカです」
「ほう、よい真名じゃ。ヒミカたんと呼んでもええかぇ?」
「ヒミカ、たん……?」
ぞわり。背筋が凍るような嫌悪感。
「そう睨むな、睨むな。ワシなりに親しみやすさを込めたつもりだったんじゃが」
(別に私は王様と仲良くしたいなんて思ってない)
「ワシは見ての通りこの国の王である。アウザー・セントエルディアじゃ。イケメンじゃろう?」
実物の王様を初めて見た率直な感想は、『ただのお爺さん』だった。
しわくちゃにたるんで黒ずんだ皮膚。
曲がりに曲がった腰のせいで子供の背丈くらいしかない。
服装も質素なもので、頭に乗っかった小さな王冠以外は何もない。上半身は裸で下半身は安っぽいズボン姿だ。
風貌にはかつての威厳はない。
どことなく、王様というよりも王冠を被った形だけのお飾りのように思えてしまった。
「ワシの元へ来た理由について、ヒミカたんにはもう説明不要かのう?」
ヒミカたんはやめないらしい。
気色悪い。
「私が来たのではなく、無理やり連れてこられたのですが」
「ほほう、威勢もよくて結構」
「それより、早く私をトーラスの街に帰してください。妹が一人で待っているんです。勇者とか魔王とか世界の危機とか、私は何も知りません」
「ほっほう。ではまず勇者について説明するかのう。昔々のそのまた昔。人が作り上げた文明を破壊せんと魔王が災害を操り暴虐の限りを尽くしていた頃。遥か遠くの地から一筋の光が柱となって立ち昇り──」
「その話は後ろの騎士達からもう何十回と聞いています!」
「ほぇ。そうじゃったか。なら話は早い。勇者よ、これは伝承の再来じゃ。世界は今、嵐に包まれようとしている。混沌より這い出た魔が世界の首をへし折らんと手にかけておる。しかし恐れることはない。影あるところにまた光あり──」
「昔話はもういいですから!」
マイペースというか痴呆というか、なんとも人を苛立たせる王だった。
「はて。昔話? いやいやワシは今この瞬間の話をしておるのじゃよ。その証拠に、ヒミカたんにも紋章が身体のどこかに浮かび上がった筈じゃ」
「紋章?」
言われてドキっとする。
王様が言っている紋章とは、間違いなくヒミカの下腹部に現れた模様のことだ。
(まさか、あんなものが本当に勇者の証だっていうの?)
「左様。世界が危機に瀕する時、神が人々の中から勇者を選びだし、力を授け、その証を身体のどこかに刻むという。その神聖なる導きの証を、どうかワシにも見せてもらえないかのう」
「それは」
思わず一歩後ずさる。背後にはヒミカを連行した騎士達が整然と控えている。
「どうしたんじゃ。手の甲や首筋には見えんのじゃが。もしかして見せられない場所にあるのかえ?」
(そうよ! 見せられるわけない!)
恥ずかしくなって俯いてしまう。
相手はミルキィフラワーの客ではなく、相手は一国を統べる王様だ。
しかも王様だけでなく大勢の騎士がヒミカを見守っている。
そんな状況で鼠径部を露出するなんて嫌すぎる。おへそを見せるのとはワケが違う。
「それとも、実は紋章など無いとか?」
王が首を傾げる。その言葉にヒミカは飛びついた。
「そうなんです! 紋章なんて何のことかさっぱりで! 後ろの騎士達に何度も違うって説明したのですが、話を一切聞いてくれなくて!」
思わぬところで渡りに船だ。
嘘も言っていない。
騎士達の勘違いだった、ということにしておけば帰してもらえるかもしれない。
王様は椅子に座っている今も、身体がぷるぷると小刻みに震えているくらいに耄碌だ。
あの状態じゃ冷静な判断なんてできないだろう。
騎士達の蛮行が誤りだったと分かれば、あっさりと解放してくれるかもしれない。
「そうか、そうか。ワシの騎士達が大層失礼した。で、あれば──」
ヒミカは期待して次の言葉を待つ。
「ここにいる役立たずの騎士ども、全員処刑するしかないのお」
城に着いてからは馬車を降りて騎士が先導し、荘厳で豪華絢爛な場内をひたすら歩いた。
城の中を見るのは初めてだが感慨に耽る暇はない。
縄を解かれたヒミカは必死に逃げ出す隙を探していた。
けれど、前後左右を騎士に囲まれていては、とても無理な話だった。
(場内の見張りは少ない。けど、仮に逃げ出せてもこんな迷路みたいに入り組んでいたら、城から出ることができない)
今はまだ耐えるしかない、と唇を噛みながらさらに進み、一際豪勢な金の扉の前で止まった。
「ここが王の間です」
ギギギ、と軋んだ音を立てて黄金の扉がゆっくりと開かれる。
「どうぞ。先ほども申し上げました通り、アウザー王は大変気難しいお方です。くれぐれも失礼のないようお願いいたします」
「あなた達が今私にしていることが十分失礼ですけど」
皮肉を呟く口の動きが止まる。
扉が開け放たれた瞬間、軽口を許さないような静謐な空気が頬を撫でたからだ。
得も言われぬ緊張感に肌がヒリつく。
ヒミカはおそるおそる赤絨毯の上を歩いていく。
続くあわあわ騎士達は左右にずらりと並ぶ騎士達に混ざって同じように整列した。
重々しい空気を一歩ずつ引裂くように歩き、数十秒かけてようやく玉座の前に辿り着く。
杖を弄びながら座す、セントルディア王と対面した。
「遠路遥々、よくぞおいでなさった、勇者殿」
「ユウシャ、という名前ではありません。私の名前はヒミカです」
「ほう、よい真名じゃ。ヒミカたんと呼んでもええかぇ?」
「ヒミカ、たん……?」
ぞわり。背筋が凍るような嫌悪感。
「そう睨むな、睨むな。ワシなりに親しみやすさを込めたつもりだったんじゃが」
(別に私は王様と仲良くしたいなんて思ってない)
「ワシは見ての通りこの国の王である。アウザー・セントエルディアじゃ。イケメンじゃろう?」
実物の王様を初めて見た率直な感想は、『ただのお爺さん』だった。
しわくちゃにたるんで黒ずんだ皮膚。
曲がりに曲がった腰のせいで子供の背丈くらいしかない。
服装も質素なもので、頭に乗っかった小さな王冠以外は何もない。上半身は裸で下半身は安っぽいズボン姿だ。
風貌にはかつての威厳はない。
どことなく、王様というよりも王冠を被った形だけのお飾りのように思えてしまった。
「ワシの元へ来た理由について、ヒミカたんにはもう説明不要かのう?」
ヒミカたんはやめないらしい。
気色悪い。
「私が来たのではなく、無理やり連れてこられたのですが」
「ほほう、威勢もよくて結構」
「それより、早く私をトーラスの街に帰してください。妹が一人で待っているんです。勇者とか魔王とか世界の危機とか、私は何も知りません」
「ほっほう。ではまず勇者について説明するかのう。昔々のそのまた昔。人が作り上げた文明を破壊せんと魔王が災害を操り暴虐の限りを尽くしていた頃。遥か遠くの地から一筋の光が柱となって立ち昇り──」
「その話は後ろの騎士達からもう何十回と聞いています!」
「ほぇ。そうじゃったか。なら話は早い。勇者よ、これは伝承の再来じゃ。世界は今、嵐に包まれようとしている。混沌より這い出た魔が世界の首をへし折らんと手にかけておる。しかし恐れることはない。影あるところにまた光あり──」
「昔話はもういいですから!」
マイペースというか痴呆というか、なんとも人を苛立たせる王だった。
「はて。昔話? いやいやワシは今この瞬間の話をしておるのじゃよ。その証拠に、ヒミカたんにも紋章が身体のどこかに浮かび上がった筈じゃ」
「紋章?」
言われてドキっとする。
王様が言っている紋章とは、間違いなくヒミカの下腹部に現れた模様のことだ。
(まさか、あんなものが本当に勇者の証だっていうの?)
「左様。世界が危機に瀕する時、神が人々の中から勇者を選びだし、力を授け、その証を身体のどこかに刻むという。その神聖なる導きの証を、どうかワシにも見せてもらえないかのう」
「それは」
思わず一歩後ずさる。背後にはヒミカを連行した騎士達が整然と控えている。
「どうしたんじゃ。手の甲や首筋には見えんのじゃが。もしかして見せられない場所にあるのかえ?」
(そうよ! 見せられるわけない!)
恥ずかしくなって俯いてしまう。
相手はミルキィフラワーの客ではなく、相手は一国を統べる王様だ。
しかも王様だけでなく大勢の騎士がヒミカを見守っている。
そんな状況で鼠径部を露出するなんて嫌すぎる。おへそを見せるのとはワケが違う。
「それとも、実は紋章など無いとか?」
王が首を傾げる。その言葉にヒミカは飛びついた。
「そうなんです! 紋章なんて何のことかさっぱりで! 後ろの騎士達に何度も違うって説明したのですが、話を一切聞いてくれなくて!」
思わぬところで渡りに船だ。
嘘も言っていない。
騎士達の勘違いだった、ということにしておけば帰してもらえるかもしれない。
王様は椅子に座っている今も、身体がぷるぷると小刻みに震えているくらいに耄碌だ。
あの状態じゃ冷静な判断なんてできないだろう。
騎士達の蛮行が誤りだったと分かれば、あっさりと解放してくれるかもしれない。
「そうか、そうか。ワシの騎士達が大層失礼した。で、あれば──」
ヒミカは期待して次の言葉を待つ。
「ここにいる役立たずの騎士ども、全員処刑するしかないのお」
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