8 / 95
第一章『性なる力に目覚めた勇者!?』
第8話 ヒミカの妹・ユミカ
しおりを挟む
『ヒミカ様! 好きだ!』
『もう剣や拳で戦う時代は終わりですよね。これからは、ヒミカ様みたいに冒険者も芸術的教養が求められる時代ですわ』
『貴女の踊りは世界で一番素晴らしい! 是非、我が王の妃へお迎えしたいのですが』
『ごめんなさいね、私にはかねてより心に決めた人がいるんです』
「ふふ、うふふ」
気を紛らわすように現実逃避しながら歩き続けて、気付くと我が家にたどり着いていた。
この辺りでは家賃が一番安い、ボロ家だ。
音を立てないように扉を開ける。普段は早朝に帰宅するが、今はまだ深夜だ。寝ている妹を起こしたくなかった。
「お姉ちゃん? おかえり、お姉ちゃん! 今日は早かったんだね!」
ひょこりと顔を覗かせた妹が、姉の姿を捉えると花のように満開の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
「ただいま。ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん。ユミカね、剣術のお勉強をしていたの。あと一年で、冒険者登録するでしょ。今のうちにもっと強くならなくちゃって」
安物のランプの明かりの下、図書館で借りてきた弓術の指南書を何冊も読み込んでいたようだ。
「よしよしえらいぞ~。来年、ユミカはエリ―ト弓士だ」
愛しい妹をぎゅっと抱きしめる。
十五歳になると成人になり、冒険者登録が可能になる。
十四歳の時点で誰もが生まれ持った適正職を発現し、能力が飛躍的に向上する。【剣士】なら筋力や剣術、【魔術師】なら知能や魔力といった具合に。
自身の適正職が定まると、成人までの残り一年は個人に応じた鍛錬をして過ごす。それが学び舎に通う生徒の一般的なカリキュラムだ。
役に立たない【踊り子】ジョブのヒミカと違い、ユミカは冒険者にとって有用な【弓士】の才能があった。
実際、学び舎での弓術授業では優秀な成績を残し、教師や友人からも一目置かれている。
きっと、ユミカは立派な冒険者になれる。
だからこそ、姉のヒミカはユミカが金銭的に困らないためにも、給料の高い娼館で働いている。
冒険者登録にもお金がかかるし、【弓士】であれば何より弓と矢を用意する必要がある。
お金が無いからって、命を守るものだから安物買いはできない。
「どうかした、お姉ちゃん?」
「ううん、別に」
ユミカを抱きしめていたら憂鬱な気持ちが吹き飛んだ。
妹が立派に生きてくれることがヒミカにとって何より大事で、そのためなら娼館だろうがいくらでも働いてやると思った。
「ユミカね、冒険者になってお金をたくさん稼いだら、お姉ちゃんに恩返しするんだ。大きな街でホテルみたいな家を建てて、毎日ご馳走を食べられるの!」
「ううっ。私はなんて幸せなお姉ちゃんなのかしら!」
「わっ。お姉ちゃんちょっと苦しいよ」
感極まってつい抱きしめる力を強くしてしまった。
「ごめんね、ユミカが可愛くてつい」
「えへへ。お姉ちゃんにほめられちゃった」
愛しい妹からもハグを返される。
「ユミカ?」
抱き着いているユミカが、しきりにヒミカの匂いを嗅いでいた。
「お姉ちゃん、なんだかいつもよりいい匂いがするよ?」
「えっ、やだ、汗の匂いなんじゃ」
腕や服の匂いを嗅いでみたけど、よくわからない。
香水もお金が無くて安物の柑橘系のリキッドを水で薄めて使っているくらいだ。
「んーとね、ベリーとクリームがたっぷりのパンナコッタみたい」
「そうなの? でもそれ、ユミカが食べたいものでしょ。今日お給料入ったから、明日お菓子屋さんで買ってきて一緒に食べよ」
「ほんと!?」
「もちろん。明日はお仕事お休みだから、二人でゆっくりしましょ」
「やった! パンナコッタパンナコッタ!」
あと一年で成人なのに、小さい子供みたいなはしゃぎっぷり。
けれど、貧乏で嗜好品なんて滅多に買えないのだからこの喜びようは当然だ。
「それじゃシャワー浴びてくるから、夜更かししないで早く寝るのよ」
「はーい。おやすみお姉ちゃん」
ユミカは鼻歌を口ずさみながらベッドに潜ったのを確認する。
(結局、いい匂いってなんだろう)
多分、ミルキィフラワーで他のキャストが使っていた香水か、オイルが移ったのだろう。
ユミカには、娼館ではなく酒場で働いていると嘘を吐いている。感づかれたらまずい。
(あと、ドロドロの水着も洗濯しなきゃ)
ヒミカは足早で浴室へと向かった。
『もう剣や拳で戦う時代は終わりですよね。これからは、ヒミカ様みたいに冒険者も芸術的教養が求められる時代ですわ』
『貴女の踊りは世界で一番素晴らしい! 是非、我が王の妃へお迎えしたいのですが』
『ごめんなさいね、私にはかねてより心に決めた人がいるんです』
「ふふ、うふふ」
気を紛らわすように現実逃避しながら歩き続けて、気付くと我が家にたどり着いていた。
この辺りでは家賃が一番安い、ボロ家だ。
音を立てないように扉を開ける。普段は早朝に帰宅するが、今はまだ深夜だ。寝ている妹を起こしたくなかった。
「お姉ちゃん? おかえり、お姉ちゃん! 今日は早かったんだね!」
ひょこりと顔を覗かせた妹が、姉の姿を捉えると花のように満開の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
「ただいま。ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん。ユミカね、剣術のお勉強をしていたの。あと一年で、冒険者登録するでしょ。今のうちにもっと強くならなくちゃって」
安物のランプの明かりの下、図書館で借りてきた弓術の指南書を何冊も読み込んでいたようだ。
「よしよしえらいぞ~。来年、ユミカはエリ―ト弓士だ」
愛しい妹をぎゅっと抱きしめる。
十五歳になると成人になり、冒険者登録が可能になる。
十四歳の時点で誰もが生まれ持った適正職を発現し、能力が飛躍的に向上する。【剣士】なら筋力や剣術、【魔術師】なら知能や魔力といった具合に。
自身の適正職が定まると、成人までの残り一年は個人に応じた鍛錬をして過ごす。それが学び舎に通う生徒の一般的なカリキュラムだ。
役に立たない【踊り子】ジョブのヒミカと違い、ユミカは冒険者にとって有用な【弓士】の才能があった。
実際、学び舎での弓術授業では優秀な成績を残し、教師や友人からも一目置かれている。
きっと、ユミカは立派な冒険者になれる。
だからこそ、姉のヒミカはユミカが金銭的に困らないためにも、給料の高い娼館で働いている。
冒険者登録にもお金がかかるし、【弓士】であれば何より弓と矢を用意する必要がある。
お金が無いからって、命を守るものだから安物買いはできない。
「どうかした、お姉ちゃん?」
「ううん、別に」
ユミカを抱きしめていたら憂鬱な気持ちが吹き飛んだ。
妹が立派に生きてくれることがヒミカにとって何より大事で、そのためなら娼館だろうがいくらでも働いてやると思った。
「ユミカね、冒険者になってお金をたくさん稼いだら、お姉ちゃんに恩返しするんだ。大きな街でホテルみたいな家を建てて、毎日ご馳走を食べられるの!」
「ううっ。私はなんて幸せなお姉ちゃんなのかしら!」
「わっ。お姉ちゃんちょっと苦しいよ」
感極まってつい抱きしめる力を強くしてしまった。
「ごめんね、ユミカが可愛くてつい」
「えへへ。お姉ちゃんにほめられちゃった」
愛しい妹からもハグを返される。
「ユミカ?」
抱き着いているユミカが、しきりにヒミカの匂いを嗅いでいた。
「お姉ちゃん、なんだかいつもよりいい匂いがするよ?」
「えっ、やだ、汗の匂いなんじゃ」
腕や服の匂いを嗅いでみたけど、よくわからない。
香水もお金が無くて安物の柑橘系のリキッドを水で薄めて使っているくらいだ。
「んーとね、ベリーとクリームがたっぷりのパンナコッタみたい」
「そうなの? でもそれ、ユミカが食べたいものでしょ。今日お給料入ったから、明日お菓子屋さんで買ってきて一緒に食べよ」
「ほんと!?」
「もちろん。明日はお仕事お休みだから、二人でゆっくりしましょ」
「やった! パンナコッタパンナコッタ!」
あと一年で成人なのに、小さい子供みたいなはしゃぎっぷり。
けれど、貧乏で嗜好品なんて滅多に買えないのだからこの喜びようは当然だ。
「それじゃシャワー浴びてくるから、夜更かししないで早く寝るのよ」
「はーい。おやすみお姉ちゃん」
ユミカは鼻歌を口ずさみながらベッドに潜ったのを確認する。
(結局、いい匂いってなんだろう)
多分、ミルキィフラワーで他のキャストが使っていた香水か、オイルが移ったのだろう。
ユミカには、娼館ではなく酒場で働いていると嘘を吐いている。感づかれたらまずい。
(あと、ドロドロの水着も洗濯しなきゃ)
ヒミカは足早で浴室へと向かった。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる