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第一章『性なる力に目覚めた勇者!?』

第8話 ヒミカの妹・ユミカ

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『ヒミカ様! 好きだ!』

『もう剣や拳で戦う時代は終わりですよね。これからは、ヒミカ様みたいに冒険者も芸術的教養が求められる時代ですわ』

『貴女の踊りは世界で一番素晴らしい! 是非、我が王の妃へお迎えしたいのですが』

『ごめんなさいね、私にはかねてより心に決めた人がいるんです』

「ふふ、うふふ」

 気を紛らわすように現実逃避しながら歩き続けて、気付くと我が家にたどり着いていた。
 
 この辺りでは家賃が一番安い、ボロ家だ。
 音を立てないように扉を開ける。普段は早朝に帰宅するが、今はまだ深夜だ。寝ている妹を起こしたくなかった。

「お姉ちゃん? おかえり、お姉ちゃん! 今日は早かったんだね!」

 ひょこりと顔を覗かせた妹が、姉の姿を捉えると花のように満開の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。

「ただいま。ごめんね、起こしちゃった?」

「ううん。ユミカね、剣術のお勉強をしていたの。あと一年で、冒険者登録するでしょ。今のうちにもっと強くならなくちゃって」

 安物のランプの明かりの下、図書館で借りてきた弓術の指南書を何冊も読み込んでいたようだ。

「よしよしえらいぞ~。来年、ユミカはエリ―ト弓士だ」

 愛しい妹をぎゅっと抱きしめる。

 十五歳になると成人になり、冒険者登録が可能になる。
 
 十四歳の時点で誰もが生まれ持った適正職センスを発現し、能力が飛躍的に向上する。【剣士】なら筋力や剣術、【魔術師】なら知能や魔力といった具合に。
 自身の適正職センスが定まると、成人までの残り一年は個人に応じた鍛錬をして過ごす。それが学び舎スクールに通う生徒の一般的なカリキュラムだ。
 
 役に立たない【踊り子】ジョブのヒミカと違い、ユミカは冒険者にとって有用な【弓士】の才能があった。
 実際、学び舎スクールでの弓術授業では優秀な成績を残し、教師や友人からも一目置かれている。

 きっと、ユミカは立派な冒険者になれる。 
 
 だからこそ、姉のヒミカはユミカが金銭的に困らないためにも、給料の高い娼館で働いている。
  冒険者登録にもお金がかかるし、【弓士】であれば何より弓と矢を用意する必要がある。
 お金が無いからって、命を守るものだから安物買いはできない。

「どうかした、お姉ちゃん?」

「ううん、別に」

 ユミカを抱きしめていたら憂鬱な気持ちが吹き飛んだ。
 妹が立派に生きてくれることがヒミカにとって何より大事で、そのためなら娼館だろうがいくらでも働いてやると思った。

「ユミカね、冒険者になってお金をたくさん稼いだら、お姉ちゃんに恩返しするんだ。大きな街でホテルみたいな家を建てて、毎日ご馳走を食べられるの!」

「ううっ。私はなんて幸せなお姉ちゃんなのかしら!」

「わっ。お姉ちゃんちょっと苦しいよ」

 感極まってつい抱きしめる力を強くしてしまった。

「ごめんね、ユミカが可愛くてつい」

「えへへ。お姉ちゃんにほめられちゃった」

 愛しい妹からもハグを返される。

「ユミカ?」

 抱き着いているユミカが、しきりにヒミカの匂いを嗅いでいた。

「お姉ちゃん、なんだかいつもよりいい匂いがするよ?」

「えっ、やだ、汗の匂いなんじゃ」

 腕や服の匂いを嗅いでみたけど、よくわからない。
 香水もお金が無くて安物の柑橘系のリキッドを水で薄めて使っているくらいだ。

「んーとね、ベリーとクリームがたっぷりのパンナコッタみたい」

「そうなの? でもそれ、ユミカが食べたいものでしょ。今日お給料入ったから、明日お菓子屋さんで買ってきて一緒に食べよ」

「ほんと!?」

「もちろん。明日はお仕事お休みだから、二人でゆっくりしましょ」

「やった! パンナコッタパンナコッタ!」

 あと一年で成人なのに、小さい子供みたいなはしゃぎっぷり。
 けれど、貧乏で嗜好品なんて滅多に買えないのだからこの喜びようは当然だ。

「それじゃシャワー浴びてくるから、夜更かししないで早く寝るのよ」

「はーい。おやすみお姉ちゃん」

 ユミカは鼻歌を口ずさみながらベッドに潜ったのを確認する。

(結局、いい匂いってなんだろう)

 多分、ミルキィフラワーで他のキャストが使っていた香水か、オイルが移ったのだろう。
 ユミカには、娼館ではなく酒場で働いていると嘘を吐いている。感づかれたらまずい。
 
(あと、ドロドロの水着も洗濯しなきゃ)

 ヒミカは足早で浴室へと向かった。
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