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第一章『性なる力に目覚めた勇者!?』
第7話 踊り子は冒険者の夢を見る
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自分が発情していることを自覚する。
恥ずかしくて死にたいくらいなのに、身体は自ら店長に触れようともたれかかっている。
(店長みたいな素敵な男性なら……。店長なら、私)
どくん。どくん。
鼓動がさらに高まる。
(……ほしい。触ってほしい)
気付けば、店長の手を取っていた。
両手で包み込むように握ると、自身の胸へと運んでいく。
この胸の痛みを鎮めてほしい。慰めてほしいとばかりに。
距離が近づくにつれ、触れてもない乳首がますます張りつめる。
年齢を刻んだ男の分厚い手が、汗ばむ若い柔肌に触れようとして。
『いらっしゃいませー! ご新規様ですね、こちらの席へどうぞ!』
お店の入り口で、別の若い男性キャストが新たな客の来訪を告げた。
ヒミカはハッとして冷静になった。
ここには他の客もキャストもいるのだ。それなのに、一体自分は何をしようとしてたのかと。
店の奥に消えていったトーマの影がちらついた。
同じだ。汚らわしいと思っていたあの男と。勝手に発情して、二人になった途端に誘惑して。
気付けば、泣いていた。
泣くことで、ぐちゃぐちゃになった心を洗い流すかのように。
そんなヒミカを見て、店長はそっとポケットからハンカチを取りだし、真っ赤に腫れた目元を拭ってくれた。
「よく頑張ったな」
涙で高級そうな生地が湿っていく。
「え……?」
「今まで一日たりとも休まず、今日まで働いてきただろう。溜め込んでいたものもあるはずだ。思いっきり泣きなさい」
「違います。そんなんじゃ」
「いいんだ。私から言いたい事は一つだけ。最近のヒミカ君は働き過ぎだ。顔色も悪いし、体調も優れないようだ。今日はもう帰って、明日も休みなさい」
「でも、私働かないと」
家では毎日、妹のユミカがお腹を空かしている。
一日たりとも休むことはできない。
「心配はいらないよ、ほら」
店長がひっこめた手を懐に入れると、小さな包みを取り出した。
「今日は給料日だ。もちろん、先月と同じ分入っているし、来月も同じだけ支払うよ。だから安心して休みなさい。この休暇は私からのお礼ってことでどうだろう」
「店長……! はいっ。ご迷惑をおかけします。お疲れさまでした!」
深々とお礼をして、給料袋と栄養剤の瓶を受け取る。
お言葉に甘えて今日は早退することにした。
これ以上店長の近くにいたら、自分を保てなくなるような気がしたから。
★
ミルキィフラワーを出ると、トーラスはまだ夜の帳に包まれていた。
明かりが点いているのは同じような娼館が、一日中営業している酒場くらいだ。
足早に家へと戻る。
夜風が熱を冷まし、だいぶ冷静さを取り戻した。
今日、常連客のトーマに犯されそうになった。
彼とは、もう会うことはないだろう。特に情もない。
頻繁に会っていたのにふと足が途絶える客は今まで何人もいた。
彼らが普段何をして、何を思ってお店に来て、どんな気持ちで店を後にするのかなんて知ったことではないし、どうでもよかった。
けれど、今回の件が理由で、ヒミカを指名してくれるお客さんが居なくなったらどうしよう。
(いや、心配するだけ馬鹿ね)
トーマがいなくなっても、また同じような客が現れる。
性欲は決して無くなるものではないのだから。
(うぅ。でも、これからどうしよう)
トーラスの町にはもう一つ娼館・エンジェルベッドがある。
こちらは最近できたばかりで、客とキャストがセックスするためのお店だ。
客が宿泊するとたまたま女性と相部屋になり、恋愛感情の末に行為に発展する……というコンセプトらしい。よくわからないけど。
エンジェルベッドがオープンしたことで、同じ娼館のミルキィフラワーが性的サービスを実施しないことに不満を漏らす客も少なくない。
売上が少なくなるのでは、と心配する声もある。
実際、トーマが言っていた通り、ミルキィフラワーのキャストの中には、男性客にこっそり胸を揉ませたり、口で奉仕したりして人気を保っている子も少数ながら存在する。
いつか私もそうしなきゃいけない時がくるかもしれない。
好きでもない男に奉仕するなんて嫌だ、と思った。その心に偽りはないのだが。
(でも、それだけじゃなくて)
怖いのだ。
ヒミカの身体が男に反応してしまうことが。
成人になっても純潔を保っていた若い肉体は、動物としての本能から雄を求めろと叫んでいる。
トーマに破瓜されそうになった時の、恐怖と期待が入り混じった矛盾した感情。
店長に手を触られただけで発情し、ましてや慰めてほしいとまで思ってしまった。
自分がまるで違う自分になってしまったかのようで。
(やっぱり、早く辞めて別の仕事を探さないと)
冒険者になれたら。
もしも、踊り子のジョブが、魔物の討伐に役立てるようになったら。
(あり得ない。分かってる、けど)
例えば、踊るだけで敵がバタバタと倒れていく。踊れば誰もがヒミカに魅了されて、なんでも言うことを聞くようになってしまう。
そんな力があったなら。
(妄想するくらいなら……いいよね)
恥ずかしくて死にたいくらいなのに、身体は自ら店長に触れようともたれかかっている。
(店長みたいな素敵な男性なら……。店長なら、私)
どくん。どくん。
鼓動がさらに高まる。
(……ほしい。触ってほしい)
気付けば、店長の手を取っていた。
両手で包み込むように握ると、自身の胸へと運んでいく。
この胸の痛みを鎮めてほしい。慰めてほしいとばかりに。
距離が近づくにつれ、触れてもない乳首がますます張りつめる。
年齢を刻んだ男の分厚い手が、汗ばむ若い柔肌に触れようとして。
『いらっしゃいませー! ご新規様ですね、こちらの席へどうぞ!』
お店の入り口で、別の若い男性キャストが新たな客の来訪を告げた。
ヒミカはハッとして冷静になった。
ここには他の客もキャストもいるのだ。それなのに、一体自分は何をしようとしてたのかと。
店の奥に消えていったトーマの影がちらついた。
同じだ。汚らわしいと思っていたあの男と。勝手に発情して、二人になった途端に誘惑して。
気付けば、泣いていた。
泣くことで、ぐちゃぐちゃになった心を洗い流すかのように。
そんなヒミカを見て、店長はそっとポケットからハンカチを取りだし、真っ赤に腫れた目元を拭ってくれた。
「よく頑張ったな」
涙で高級そうな生地が湿っていく。
「え……?」
「今まで一日たりとも休まず、今日まで働いてきただろう。溜め込んでいたものもあるはずだ。思いっきり泣きなさい」
「違います。そんなんじゃ」
「いいんだ。私から言いたい事は一つだけ。最近のヒミカ君は働き過ぎだ。顔色も悪いし、体調も優れないようだ。今日はもう帰って、明日も休みなさい」
「でも、私働かないと」
家では毎日、妹のユミカがお腹を空かしている。
一日たりとも休むことはできない。
「心配はいらないよ、ほら」
店長がひっこめた手を懐に入れると、小さな包みを取り出した。
「今日は給料日だ。もちろん、先月と同じ分入っているし、来月も同じだけ支払うよ。だから安心して休みなさい。この休暇は私からのお礼ってことでどうだろう」
「店長……! はいっ。ご迷惑をおかけします。お疲れさまでした!」
深々とお礼をして、給料袋と栄養剤の瓶を受け取る。
お言葉に甘えて今日は早退することにした。
これ以上店長の近くにいたら、自分を保てなくなるような気がしたから。
★
ミルキィフラワーを出ると、トーラスはまだ夜の帳に包まれていた。
明かりが点いているのは同じような娼館が、一日中営業している酒場くらいだ。
足早に家へと戻る。
夜風が熱を冷まし、だいぶ冷静さを取り戻した。
今日、常連客のトーマに犯されそうになった。
彼とは、もう会うことはないだろう。特に情もない。
頻繁に会っていたのにふと足が途絶える客は今まで何人もいた。
彼らが普段何をして、何を思ってお店に来て、どんな気持ちで店を後にするのかなんて知ったことではないし、どうでもよかった。
けれど、今回の件が理由で、ヒミカを指名してくれるお客さんが居なくなったらどうしよう。
(いや、心配するだけ馬鹿ね)
トーマがいなくなっても、また同じような客が現れる。
性欲は決して無くなるものではないのだから。
(うぅ。でも、これからどうしよう)
トーラスの町にはもう一つ娼館・エンジェルベッドがある。
こちらは最近できたばかりで、客とキャストがセックスするためのお店だ。
客が宿泊するとたまたま女性と相部屋になり、恋愛感情の末に行為に発展する……というコンセプトらしい。よくわからないけど。
エンジェルベッドがオープンしたことで、同じ娼館のミルキィフラワーが性的サービスを実施しないことに不満を漏らす客も少なくない。
売上が少なくなるのでは、と心配する声もある。
実際、トーマが言っていた通り、ミルキィフラワーのキャストの中には、男性客にこっそり胸を揉ませたり、口で奉仕したりして人気を保っている子も少数ながら存在する。
いつか私もそうしなきゃいけない時がくるかもしれない。
好きでもない男に奉仕するなんて嫌だ、と思った。その心に偽りはないのだが。
(でも、それだけじゃなくて)
怖いのだ。
ヒミカの身体が男に反応してしまうことが。
成人になっても純潔を保っていた若い肉体は、動物としての本能から雄を求めろと叫んでいる。
トーマに破瓜されそうになった時の、恐怖と期待が入り混じった矛盾した感情。
店長に手を触られただけで発情し、ましてや慰めてほしいとまで思ってしまった。
自分がまるで違う自分になってしまったかのようで。
(やっぱり、早く辞めて別の仕事を探さないと)
冒険者になれたら。
もしも、踊り子のジョブが、魔物の討伐に役立てるようになったら。
(あり得ない。分かってる、けど)
例えば、踊るだけで敵がバタバタと倒れていく。踊れば誰もがヒミカに魅了されて、なんでも言うことを聞くようになってしまう。
そんな力があったなら。
(妄想するくらいなら……いいよね)
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