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第三章『魅了H。駆出し淫魔は大悪魔に誘惑され、黒い天使は嫉妬する』

第七十話「何回シても緊張する」

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挿入れるよ……」

「うん……ってもう同じこと三回言ってるし」

 両足を広げたシトラスの正面で固まる僕。
 屈んだ状態のペニスは、一直線にシトラスの秘部に向かって隆起していた。

 僕は押さえつけるようにペニスを掴み、ゆっくりと蜜の滴る泉へと踏み込んでいく。
 
 どうしてだろう。
 挿入はもう何度もしているハズなのに、初めての時みたいに緊張する。

 シトラスが初めてだから、入り口が小さくて挿入(はい)らないかもしれないからか。
 それとも、心の底の底から、本気で好きと思えた相手だからだろうか。

「緊張してるの?」

「う、うん」

「もう、一番緊張してるのは私なんだからね」

「はい、その通りです……。でも、どうしてだろう、自分でもよくわからないんだ」

 やばい。
 さすがにこの間は不自然だ。
 白けてしまうし、僕のペニスを萎えてしまう。
 なにより、そんなことになったら、シトラスを傷つけてしまうかもしれない。

 ああ、どうして。
 何が不安なんだ、僕は。
 何が……。

「私は、宋真から離れたりしないよ?」

 ぐちゃぐちゃに絡み合った思考の糸を切り飛ばすような一閃。
 シトラスは起き上がると、僕に抱き着き、衝撃で背中からベッドに倒れ込む。

「宋真は迷ってるんだよ。【魅了魔法】で、女の子といつだって自由にエッチできる。でも、『それで終わり』で済ましていいのかなって」

「……! そう、かも」

 自分でも分からなかった問を完璧に答えて見せた。

 そうだ。
 僕は、戸惑っていた。

 【魅了魔法】で、僕は好きだった倉林さんとセックスできた。
 けど、倉林さんは僕の事を好きじゃなかった。

 果たして、片思いをしてたあの頃と今、どちらが幸せだったのか。

 ミカエリや紫織とセックスできた。そればかりか、僕に対して並々ならぬ好意を寄せている。
 それはとっても嬉しいけど、何か騙しているような気分になってしまう。

 それは多分、【魅了魔法】の力であって、僕の実力じゃないから。

 つまり、だ。
 魔法がなかったら。
 いや、魔法が消えてしまったら。

 僕とシトラスのこの関係も、壊れてしまうのではないか?

「なくなったりしないよ」

 心を見透かしたかのように、シトラスは迷うことなく告げる。

「私の鼓動、聞こえる?」

 対面座位で抱き着くシトラス。
 胸と胸がくっつきあい、互いの鼓動が伝わってくる。

「【魅了魔法】も、私も、確かにここに在るんだよ。勝手に消えたりしない。後は、宋真がそれを信じるかどうかだよ」

「僕が……?」

「うん。私の言葉と、宋真の不安。宋真が信じる方が、現実になる。私と初めて会った時のこと、もう一度思い出して。私と宋真が出会ったのは、ただの偶然?」

「偶然、だけど……」

 思い出す。
 初めてシトラスと会った時。まだシトラスを知らなかった時。
 僕は、どうしてシトラスと会えたんだ?

 あの時は自暴自棄になっていた。
 氷川先輩に侮辱され、倉林さんに軽蔑されて。
 人生楽しいことなんて何一つなくて。
 誰よりも性欲が強いのに童貞で。
 だから、死ぬまでに一度でいいから、セックスしてみたい。そう──。

「そう、思ったんだ」

 ハっとする。

「わかった?」

「うん、わかったよ。僕は、シトラスに導かれて、【魅了魔法】があったからこうしているんじゃない。僕が、強く信じたんだ」

「そう。そして、私の存在は、宋真の思い込みじゃなくて現実だから。だったら、後は宋真の気持ち次第だよ」

「……ごめん。僕、シトラスが、その内勝手にいなくなるんじゃないかって、不安だったんだ。また一人になるのが、何もできない自分になるのが怖かったんだ」

「でも、今の宋真には私がいるし、なんでもできる。今も、これからも。それじゃダメ?」

「ダメじゃない」

「けど、不安なんだよね」

 僕はこくりと頷いた。

「だったら、私が確かめさせてあげる」

 シトラスは、すっかり萎んでしまった僕のペニスを手に取ると、小さな口で包み込んでいった。
 

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