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『同級生に女装コスプレしてたのを見られちゃいました。』
花冠のあの子(泰我side)
しおりを挟む泰我side
本当に小さい頃、幼稚園ぐらいだっただろうか。
俺は、人生で初めて恋に落ちた。
幼いながらも、明確に『好きだ』と自覚したのだ。
母に連れられて、近所の公園で遊んでいた時だった。その公園は家の近くにあって、顔見知りの近所の子供たちと一緒になって遊んでいた。
すると、二人の子供が俺の遊んでいた砂場にやって来たのだ。
一人は元気でお転婆そうな、髪を高い位置で二つ結びにした女の子。目もぱっちりとして大きい。
そして、その後ろに隠れるようにして、肩くらいの長さのボブヘアの子がついてきていた。
「いっしょにあーそぼ!」
二つ結びの子が元気よく俺に話かけてくる。
声も大きくていかにも快活な女の子だった。
ニパっと太陽のように笑った女の子に、周りの子供たちはキャっ、キャっと集まって遊び始める。
やがて、女の子とその子供たちはどこかに行ってしまい、砂場には俺と取り残されたボブヘアの子だけになった。
女の子と離れてしまったその子は、寂しそうにしながら、どうすればいいか分からない様子だった。
不安げに瞳が揺れていて、やがて俯いてしまう。
俺は、なんだかその子が放っておけなくて、気が付くとその子の左手をぎゅっと握っていた。
「こっちであそぼ。」
俯いていた子は、驚いたように目を瞬いたけど、コクンと頷いてぎゅっと手を握り返してくれた。
砂場の奥のほうに一緒にしゃがみ、泥団子を作ったり、砂の山を作ったりして遊んでいた。
最初は元気がなかったけど、遊んでいるうちに楽しくなったのか、嬉しそうに俺と砂の山をぺたぺた触っていた。
それを見た俺もなんだか嬉しくなって、二人で色んなものを砂で作った。
砂場の近くには白い花がたくさん咲いていて、ちょっとした花畑のようになっていた。
その子は、砂場の近くに咲いている白い花を見つけると、一つ一つを小さな手で摘んで何かを作り始めた。
何を作っているのか分からなかったが、その子が楽しそうにしているのを見て、俺はずっとその姿を見ていた。
うんっとその子が満足そうに頷くと、俺の頭にポンと
何かを乗せた。
「おそろい。」
その子は自分の頭にも、白色の花でできた花冠を乗せて、俺に向かって嬉しそうに、微笑んだ。
さっきの女の子とは違う、花が静かに綻んで健気に咲くような。
少し恥ずかし気に、でも嬉しそうに頬をうっすらと染めて。
花かんむりの白い花のように、控えめだけどとても可愛らしい微笑だった。
……かわいい。すごくかわいい。
俺はその可愛く微笑んだ子に、思わず見惚れてしまった。
こんなの可愛い子なんて、見たことない。
白い花冠が、その子を天使のように見せていた。
ふわふわとした羽根が生えていそうだと思った。
「ありがとう」
その子が俺に、おそろいだと言ってくれたのがすごく嬉しくて、俺とその子は顔を見合わせてお互いに笑い合った。
俺にお礼を言われたのがよっぽど嬉しかったのか、その子は小さな鼻歌を歌いながら、また白い花を一つ摘んだ。
「…ゆび、だして?」
俺はその子の言うとおりに右手を差し出すと、その子は違うと言って左手を握った。
そして、俺の左手をそっと持ち上げると、薬指に先ほど摘み取った花を巻き付けていった。
もう一つ白い花を摘んで、今度は自分の左手の薬指にも巻き付けていた。
「なかよしのしるし。」
そう言って、その子は小さな両手で俺の左手を包み込んだ。
仲良しだと言われて、すごく嬉しくて。でも、なんだか落ち着かなくてそわそわした。
ずっとその子と手を握っていたくて、俺たちは砂遊びをやめて花畑に座って話をしていた。
俺の右手はその子の左手を握ったまま、色んな話をした。
その子の表情が変わっていくのをずっと見て、時折見せる笑顔が可愛くて。
俺はふわふわとした気分だった。
この子の、いろんな顔が見たい。
ずっと、一緒に居たい。
それが俺の初恋だった。
その日以降、その子は時々公園にやってきて一緒に遊ぶようになった。
俺はその子を誰にも取られたくなくて、公園にその子が来たら真っ先に手を握って連れて行った。
その子も人見知りをするみたいで、俺以外とはあんまり遊ばなかった。
なんだか、自分がその子の特別みたいで嬉しかった。
最初に会ったときに貰った花かんむりと指輪は、大切に部屋に飾った。
すると、俺の様子を見た母が、指輪を押し花にしてくれたのだ。
俺は毎日それを眺めては、あの子の笑顔を思い出していた。
仲良くなって、3年くらい経ったある日、その子は突然公園に遊びに来なくなった。
母に聞いたところ、父親の仕事の都合で隣町に引っ越してしまったとのことだった。
俺はその日、大声で泣き喚いたらしい。
会いたい。
一緒に遊びたい。
ずっとずっと、俺の近くで笑ってほしい。
母も父も、俺があんまり泣かない子供だったから驚いたと言っていた。
俺は、幼いながら失恋したのだった。
それでも、その子のことが忘れられなくて、押し花を大切に机の引き出しにしまっていた。
時々取り出しては眺めて、その子の笑顔を思い出してた。
そんな幼少期を経て、俺は中学生になった。
何気ない日常でぼんやりとしていた日、転校生が俺のクラスにやってきた。
「……本宮於菟です。よろしくお願いします…。」
その転校生を見たときに、俺は息を飲んだ。
似てる。
あの、公園で一緒に遊んでいた子と。
でも、着ている制服が俺と同じだ。
つまり、俺が好きだった子は男だったのだ。
相変わらず大人しそうで、目はくりっとしてて可愛らしい。顔も中性的で美少年といった感じだ。
背は俺よりも一回り小さい。身体の線も細くて華奢だった。
小さい頃のことは、於莵はうろ覚えだった。少し悲しかったけど、これからまた仲良くなればいい。
そう思っていたのだが、俺は少し嫌煙されていた。まあ、見た目が昔に比べて厳つくなったし、周りから冷たい印象を持たれる俺は、少し怖いもんな。
少しずつ、怖がられないように距離を縮めることにした。
まるで、臆病な小動物を手懐けるみたいだと思った。
於莵は本当にのんびり育ったと言うか、危なっかしい感じだった。
重いものも頑張って一人で運ぼうとするし、困ったことも一人で解決しようとする。
何よりも人の好意に気がつかない。
クラスの女子たちは美少年の於莵を可愛いと言って人気だったし、クラスの男子は『男同士でも誤作動起こしそう。』って抜かしてたやつもいたんだ。
俺は自然と身体が動いて、於莵が困っているときは手を貸していた。
手を貸したときは、いつも驚いたあとに、ふわりと笑って「ありがとう。」と言ってくれた。
その笑顔は、やっぱり幼少気の天使の面影があってドキリとしていた。
俺は、於莵と離れたくなくて、一緒の高校に通うことにしたのだ。
於莵が入学しようとしていた高校は結構偏差値が高くて、俺は必死に勉強した。
俺と於莵の関係は、本当にちょっとずつしか縮まっていかない。
体育のときには、よくペアになり、他の奴等に於莵の身体を触らせないようにした。
俺と於莵は身長差が有りすぎて、柔軟体操のときに両手を背中に乗せたら、足が浮いてらしい。慌てて足をパタパタしているのは可愛かった。
日常では何気なく声をかけて、たわいもない話をして。
この距離感が、本当にもどかしかった。
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