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『同級生に女装コスプレしてたのを見られちゃいました。』
白い花
しおりを挟む「……起きたか?」
「ひゃいっ!」
気が付くと、僕は泰我のベッドの上で腕枕をされていた。目を開けた瞬間に美形のドアップが見えて、変な声が出る。
僕の服は女装していたものからすっかり変わっていて、ぶかぶかのシャツにスエットのズボンを履いている。
身体も汚れていないから、きっと泰我が着替えさせてくれたのだろう。
泰我は僕から身体を離すと、そっと僕を抱き起してベッドに座らせてくれた。
泰我はベッドから降りると、近くの机に置いてあるペットボトルの水を僕に差し出した。
「……水、飲めよ。」
ペットボトルを手に渡され、素直に一口飲む。喘いで枯れていた喉が潤されていった。
そこで、少し頭が冷静になっていく。
いくら、写真で脅されていたとしても、これはやりすぎだと思う……。
でも、泰我にエッチなことをされても、嫌な感じがしなかったし。
自分も快感に流されてしまったのもいけないんだよな……。
頭の中がぐるぐると忙しいなか、僕はベッドの近くにある机にふと目がいった。
机の上にあるフォトスタンドが飾られているのだが、中が写真ではない。
淡い水色の背景に一輪の押し花が飾られていた。
小さくて、花びらが多く全体的に丸みを帯びた花。
これって……。
「……懐かしい。」
ぽつりと、僕は考えに耽りながら呟いていた。
僕はその飾られた押し花を見て、昔の温かな思い出がよみがえってきた。
僕が子供の時、家の近くの公園でいつも一緒に遊んでいた男の子がいた。
姉にくっついて公園に遊びに行ったけど、人見知りだった僕は、他の子供たちに話しかけるタイミングがつかめなくて……。
遊んでいる皆から取り残されてしまったのだ。
そんなとき、一人の男の子が話しかけてくれて、ずっと砂場で一緒に遊んでくれた。
その子もあんまり会話が得意じゃないみたいだったけど、僕が困っているのに気が付いてくれて、手を引っ張って遊びに誘ってくれたのだ。
その公園には、白い花がたくさん咲いていて、僕は白い花を摘んで花冠を作って遊んだ。
僕は仲良くなった印に、花冠を男の子に渡したのを覚えている。
母と姉に教わったのだ。
花冠と花の指輪は、仲良しになった子にプレゼントするものだと。
僕が花冠を男の子にあげると、男の子はとても嬉しそうに笑ってお礼を言ってくれた。
だから、僕も嬉しくなって花の指輪も作って指につけてあげたのだ。
その後も、僕と男の子は公園でよく遊んでいたけど、僕が親の仕事の都合で引っ越しをしたために会えなくなってしまった。
僕のことを『可愛い』と言って、よく僕の頭を撫でるのが好きだった男の子。
ちょっぴり無愛想で、でも優しくて。
……あれ?誰かに似てる……??
こちらを向いて、机の椅子に座っていた泰我は、僕の呟きに目を見張って息を飲んでいた。
そのあとゆっくりと、僕に告げたのだ。
「………これ、於菟がくれたんだ。子供んときに。」
「……え?」
泰我と僕は中学校の頃からの付き合いだったはずだ。
僕の疑問の声に、泰我は少し寂しそうな顔をしながら、話を進める。
「……於菟は覚えてねえかも知んねえけど……。この家の近くに公園があって、そこで一緒によく遊んでたんだ。それは、そんときに貰った花の指輪。」
僕の考えは正しかったらしい。
あの、一緒に遊んでいた男の子は泰我だったのか。
あげた指輪も、押し花にしてまで大切にしてくれるなんて……。
僕が花冠と指輪をあげたのは、
あとにも先にも泰我一人だけだった。
それぐらい、僕も泰我のことを特別だと思っていたんだろう。
「俺は、於菟のことが忘れられなかった。ずっと、ずっと会いたかった。於菟が転校してきて、すぐに一緒に遊んでいた子だって分かった。会えてすげえ嬉しかった。」
そう言うと、泰我は僕にぐっと拳を握って両膝の上に置いた。
普段は強くて孤高の雰囲気の泰我が、今は緊張した面持ちだった。
「でも、なかなか距離が縮まらねえし、於菟と二人っきりになれねえから……。今回が最初で最後のチャンスだと思った。」
「……画像のことはバラすつもりなんて、さらさらなかった。……脅して、怖い思いをさせて悪かった。」
頭を下げて僕に謝る泰我。
しばらく頭を下げたあとに、意を決したように顔を上げて、僕を見つめ返した。
「相変わらず人見知りで気弱だけど、俺みたいなやつにも分け隔てなく接してくれる。目を見て素直な感情を言ってくれる。」
「子供のころも好きだったけど、今の於菟が、俺は好きだ。」
意志の強い、真剣な眼差しで僕に言葉を紡いでくれる。
「……於菟、お前が好きだ。」
愛を伝えてくれたその声音は、あまりにも真摯でまっすぐだった。
こんなにも、僕のことを想っていてくれる。
泰我の言葉は僕の胸をトクンと揺らして、水面に波紋が広がるように心を満たし。
僕も、この想いに真剣に答えないと。
「……僕は、今まで、誰かを好きになったり、付き合ったことが無くて……。好きとか、恋愛とかそういうのが上手く分からないんだ……。」
今までに、女の子でも男の子でも、恋愛感情を抱いたことはない。
恋焦がれるとか、そういうことが僕にはまだ分からない。
僕の言葉に泰我は身体と固くした。
瞳が不安げに揺らめいている。
「でも、泰我にいろんなこと……。その、エッチなことされたけど、全然嫌じゃなかった。」
気持ち良すぎる快感は怖かったけど、泰我に触れられるのは心地良かった。
「それに、いつも無愛想だけど、泰我が僕のことを助けてくれるのが嬉しくて。泰我に頭を撫でられるのも、実は結構好きなんだ。……本当は優しい性格なのも。」
何気なく僕のことを気にかけて、困っていると助けてくれて。
落ち込んでいると言葉は少ないけど、頭を撫でたりして慰めてくれる。
泰我が両膝で握っている左の拳を、僕はそっと両手で包み込んだ。そのまま、僕の胸元辺りの高さまで持ち上げると、ぎゅっと握る。
「泰我といると心地いい。もっと泰我と一緒に居たい。これから、泰我のことをいっぱい知りたい。だから…。」
僕も、まっすぐに泰我を見る。今の僕の精一杯の想いが、泰我に届いてほしい。
「……泰我が僕に、恋愛の『好き』を教えて…?」
まだ、恋愛の意味で『好き』という言葉は、
恥ずかしくて臆病で紡げないけれど。
きっと、それを言うのもそんなに遠くない未来な気がする。
心の中では、確実に温かな感情が芽吹いているから。
泰我は驚いた顔をした後に、嬉しそうに目を細めて微笑んだ。
「……覚悟しとけよ。絶対、於菟から俺を『好きだ』って言わせてやる。」
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