『ルームメイトの服を着てナニしているのを見られちゃいました。』他、見られちゃった短編集

雨月 良夜

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『同級生に女装コスプレしてたのを見られちゃいました。』

彼女のフリ

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コスプレを終えて数日後、僕はのんびりとした昼休みを過ごしていた。

 
「おい、於莵。ちょっと来い。」

僕を呼びだしたのは、銀鏡泰我だ。
泰我とは中学校からの友達で、すごく親しいとは言えないが、ちょくちょく会話をする。


黒髪の高身長なイケメンだが、切れ長の目がどこか冷たい印象を与える。孤高の存在と言った感じで、あんまり人を寄せ付けない。

ピアスは両方の耳に空けているし、一見は怖いヤンキー風。

ちなみに、その風貌で他校の生徒に絡まれて喧嘩になったそうだが、腕っぷしが強いため返り討ちにしたとの噂がある。

 
僕にとっては、重いモノを運んでいると何気なく手伝ってくれるし、体育のときとかはよくペアになるので、本当は泰我が優しいのを知っている。

 
「なに?泰我。」

僕は泰我に呼ばれて後をついていくと、屋上に続く人気のない階段まで連れていかれた。


こんな人気のないところで、何を話すのだろう……。

 
「これ、お前だろ?」

そう言って、泰我は僕にスマートフォンの画面を見せてきた。その画面には、少し俯いて恥ずかしそうにしながら、杖を持っている魔女っ子が映っている。

 
………これ、僕じゃん。

 
なんで、泰我がこの写真持ってんの?
イベントにいなかったよね??

 
僕は、動揺を悟られない様にしながら、思いっきりとぼけることにした。


「…何?これ?」

少し言葉に詰まったかもしれないが、上手く誤魔化せただろうか?


「何って、於莵だろ。」

いやいや。
なんでそんなに自身満々なの。


「これ、女の子でしょ?僕なわけないじゃん。」

そうだ。この画像はどこから、どう見ても女の子がコスプレをしているようにしか見えない。

なんだか、自分で言っていて哀しくなってきたけど。

 
僕の言葉を聞いた泰我は、口角を片方だけ上げてニヤリと笑った後に、ふっと嘲笑うように吐息を溢した。

そして、スマートフォンを操作して、画像の女の子の首筋の後ろあたりと、右耳の部分を拡大して、画面に表示する。


「ここの首筋の後んとこ。二つのホクロが並んでるし、耳の窪みにもホクロがある。こんなに一致してて他人な訳ないだろ。」


ギクッ!


というか、泰我さんはなんで僕のホクロの位置を知ってるの?
まあ、体育で柔軟運動をするときに見えたのかもしれない。


さすがに、首のホクロまでは化粧で隠さないし、そんなところ誰も気にしないと思っていたんだ。


「それに他の画像で一緒に映ってるの、於莵の姉ちゃんだろ?中学の時会ったことあるから、すぐ分かった。」

 
ギクギクっ!!

 
姉ちゃんまで知られてるなんて……。
もう、逃れようがない。


「……誰にも言わないで…。僕だって好きでその格好したんじゃないんだ……。姉ちゃんに無理やり…。」

縋りつくように、僕は泰我の制服の裾を握って背の高い泰我の顔を仰ぎ見た。
面白がってばらすような性格ではないことを知っている。

それなら、何で僕のことを呼び出したのだろうか。

 
泰我は僕を見下ろして何か考えた後に、口を開いた。


「分かった。その代わり俺の言うこと聞けよ。」

無表情なことが多い泰我には珍しく、機嫌が良さそうで目を細めている。


なんだろう。
購買のパン買ってこいよ、だろうか。
コーヒー牛乳も忘れてはいけないんだっけ?

 
そんなバカみたいに現実逃避していた頭の中に、泰我は爆弾を落とした。

 

「週末、女装して俺の彼女のフリをしろ。」

「……はい?!」

驚きのあまり声が裏返ってしまった。今、何って言った?


「よし。じゃあ、決まりな。」

一人で納得している泰我に、俺はぽかんとしてしまったが、そのあとに我に返って問い詰めた。


「待って待って!どうしてそうなるの?なんで??」

僕、女装することになってるし、彼女としてって聞こえたんですけど…。
 

「……今『はい』つっただろうが……。」

機嫌が悪そうにしかめっ面をしているが、いやいや、そっちがオカシイから!


「そうじゃなくて!ちゃんと説明して!事情を知らないと、どんな服選んだらいいか分からないし……。」


というか、泰我なら彼女の一人や、二人、簡単にできるだろうに。

 
「……いつも、しつこく合コンに誘われんだよ。彼女といるところ見せたら、誘いがなくなんだろ?普通の女子には、面倒なことになりそうだから頼めねえし。」

 
つまり、俺を彼女役にして、合コンの誘いが来ないようにしたいわけか。

 
えっ。
以外だな。泰我は彼女いなかったのか。


派手な見た目で勘違いされることも多いけど、こう見えて武骨なんだよな。

その愛想のないクールな感じが、女子的には堪らないらしいけど。

 
「女装して、俺の家で一緒に写真録るだけ。簡単だろ?」

写真は彼女がいるという証拠写真だろう。でも、これ以上自分の女装する姿を保存されるのは嫌だな……。


「……もし、やらなかったら?」

一縷の望みをかけて、泰我に聞いて見る。

 
「この魔女っ子がお前だってバラす。」

そう言って俺がコスプレしてる画面を、再度俺に見せてくる。


ですよねー。拒否権ないですよねー。

 
「分かった。じゃあ、普段着でいいんだね?コーディネートは姉ちゃんにお任せでいいでしょ?」

ズボンにしてもらおう。うん、そうしよう。


「スカート着て来いよ。その方が女に見えんだろ。」

僕の企みは意図も簡単に崩れ去った。くそー、絶対面白がってるな。


「あとで待ち合わせ場所とか連絡すっから。じゃあ、よろしく。」

そう言うと、俯いている僕の頭をポンッと一撫でして、泰我は去っていった。

 
姉ちゃんのバカ!
バレないって言ってたのに!
早々に同級生にバレてしまったではないか。

 
それに……。

姉に服を借りたり、メイクをしてもらわなければいけなくなった。

 
理由をどう説明しよう……。

姉のことだから、ありのままを説明すると、腐女子の能力を遺憾なく発揮するだろう。

 
『写真で脅されてとか女装とか、王道じゃん!』って言ってノリノリになると思う。

 
だからと言って、良い言い訳が思い付かない……。

 
週末の約束と、姉への女装の言い訳のことを考えて、がっくりと僕は項垂れた。
 
家に帰って早速姉に、女装するから手伝ってほしいとお願いをした。
さんざん考えた末、姉への言い訳は『友達の彼女役をやることになったから。』。

 
半分は本当のことだ。

『友達がダブルデートをする予定だったのだが、直前で別れたから、彼女役にとどうしても頼まれた。』という作り話を添えた。


姉は、それはそれは大層お喜びになられた。
なんだか、発狂していたように思うのは気のせいか……。
いや、気のせいじゃなかった。


当日は、姉の気合いがとことん入って、メイクのために早起きをさせられた。


服もデートということで、お洒落で可愛いやつだ。
黒髪で胸辺りまでの長さのロングヘアーのカツラも被っている。
左側は髪が邪魔になるからヘアピンで留めた。

 
もう、セッティングされているときから、僕の魂は死んでいた。お好きにしてください状態だった。


「できたよー。チョー可愛い!」

出来上がった姿を見て、一人の女の子にしか見えないその姿に、複雑な感情を抱いたのは言うまでもない。


もっと筋トレとかして筋肉つけるかな…。
 

僕は自分の感情を押し殺しながら、泰我との待ち合わせ場所である駅に向かった。

駅まで泰我が迎えに来て、一緒に泰我の家に行くことにしたのだ。
待ち合わせの時間の10分前に着いたのに、泰我は既に待っていた。


「ごめん。待った?」

僕が声をかけると、泰我は目を見張って固まった。なんだよ。泰我がこの恰好をするように言ったんだよ。

 
服は結構シンプル目だった。
少しダボっとした薄手の長袖のニット。
下はフリルが少し着いたスカート。だいぶ膝上の。
もはやミニスカートだ。


「…やっぱり、変?」

実は、歩いていてもチラチラと視線を感じていた。男だってバレていないかとても不安だった。


僕に問いかけられて、固まっていた泰我がはっとしていた。

「…いや……。」

短くそう答えると、泰我は僕の手を引っ張ってスタスタと歩いていく。

 
泰我の家に着くまで、僕と泰我はずっと無言だった。



・。・。・。・。・。・。・。・。・。・
4月30日

いつも御愛読頂き、ありがとうございます🙇
都合により一部文章を修正しました😅
ご了承ください(>_<)

最後までお楽しみ頂けると嬉しいです😃


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