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『同級生に女装コスプレしてたのを見られちゃいました。』
姉のお願い
しおりを挟む僕は本宮於菟。
普通の何処にでもいる男子高校生だ。
今、少し困っている。
「お願い!どうしても、4人揃っていないとだめなの!」
僕の姉である本宮京子は、僕の部屋で土下座をかましている。綺麗に膝を折って、床に頭を擦りつけていた。その声は本当に切実だ。
「姉ちゃん、やだよー。だって魔女っ子でしょ?絶対男だってバレるよ…。それに、キャラが一人いなくったって、別に問題ないじゃん。」
姉は生粋のコスプレイヤー。しかも結構クオリティも高くて有名だ。
弟の僕が言うのもなんだがスタイルが良い。そして腐女子でもある。
なぜ、姉が土下座をしているのかというと、次のイベントに出るはずだったコスプレ仲間が、急遽仕事が入って来れなくなったのだとか。
今から一緒に参加してくれる人は募集できず、衣装のサイズも調度良いと、僕に代打をお願いしているのだ。
たしかに、僕は背が小さくて細い。
しかし、いくら何でも、高校生男子に可愛い魔女っ子は無理があるんじゃないかと思う。
「ダメよ!3人揃っているのに、一人だけいないなんておかしいじゃない!私のコスプレ精神が許さないわ!」
血走った目で、僕を見て力説する姉は、ちょっと怖い。
それくらい真剣に取り組んでいるのも知っているし、応援もしている。でも、僕がするのは話が別だ。
「衣装もブカッとしたやつだし、スカートも長いから大丈夫!キャラも控えめな感じにだから、ポーズそんな決めなくていいし。メイクで絶対に於菟って分からない様にするから!お願い!帰りに好きなチョコレートパフェ奢るから!」
ここまで、姉に一気に言葉を繋げて話された。
息継ぎどこでした?
このとおり!というように、両手を合わせて僕にお願いをしてくる。
女装をするのに、僕は、実はさほど抵抗はない。
姉の趣味に付き合わされて、何度か一緒にコスプレをしたことがあるのだ。しかも、全部女装だった。
俺は背が低いために、カッコイイキャラとかにはなれなかった。ちくしょう。
でも、高校生にもなって女装か……。
迷っていたとところに、姉が賄賂を追加した。
「パンケーキも奢る!」
僕は大の甘いもの好きだ。姉もそのことを良く知っているから、甘いもので僕を釣ろうとしている。
仕方ないなー。
「じゃあ、人気のピールルマルーのチョコレートパフェと、駅前の喫茶店のふわふわパンケーキね。」
どちらも女子に人気のお店で、男子高校生が入れるような雰囲気の場所ではない。
一度食べてみたいと思っていたし、姉と一緒に行くならお店に自信を持って入れる。ついでに奢ってくれるならいっぱい食べたい。
「やった!交渉成立ね!じゃあ、さっそく衣装合わせするから、私の部屋に来て!」
そう言うや否や、姉はシュバッと立ち上がって、俺の手を引っ張り自分の部屋へと連れていく。
年頃の姉の部屋に、思春期の男子高校生がこんな簡単に入って良いのだろうか?
昔から、姉は俺のことを男の子として見ていないと思う。顔が母に似て中性的な顔立ちだし、小さいころはよく女の子と間違えられていた。
姉と並ぶと本当に姉妹のようで、姉も面白がってスカートとかを僕に着させて一緒に外出していた。
哀しいかな。
強い姉を持つ弟は、姉のオモチャになる宿命なのである。
姉の部屋に入ると、そこは裁縫道具やら、コスプレ衣装やらで部屋がいっぱいになっていた。
僕は服を脱ぐように言われて、パンツ一丁になりメジャーでキビキビと採寸されていく。
もう、姉に羞恥心という言葉は皆無だ。
こっちが恥ずかしい。
「これなら、そんなに直さなくて済みそう。あとは、試しにこのカツラを被って。」
姉に渡されたカツラを被ると、姉はうんうんと何度か頷いていた。
「大丈夫そう。次の土曜日、よろしくね!」
姉はそういうと、手早く僕に服を着させて、部屋から僕を追い出した。
なんとも慌ただしい姉だ。でも、本人が生き生きして楽しそうだから、いいかな。
そんなことを思いながら、約束の日である土曜日になった。
僕は今、魔女っ子になっている。
題材になったアニメの内容は、魔女っ子たちが一人前の魔女になるために、現代にやってきて冒険をしたり、友情を深めたり、はたまたイケメンと恋をしたりするストーリーである。
僕のキャラは控えめで、恥ずかしがり屋な美少女。
白色の髪を短めのボブにして、左右に長い三つ編みをしている髪型。
頭には魔女特有の、先が尖がって折れている帽子をかぶっている。
瞳はカラコンで薄い水色。
黒っぽい色でフードの付きの、丈が膝くらいまでの長さのマントを羽織っている。
全体がセピア色のセーラー服の上下で、黒色のニーソックスを履いている。
スカートは、ギリギリ膝下である。
そう、ギリギリ膝下。
姉ちゃん、スカートの裾が長いって言ってたのに騙したな!
確かに、他の人たちよりは明らかに長いけど(姉たちのスカートは膝上である。)、僕にとってこれは長くない。
運動部ではないから足は細いけど、スースーして落ち着かない。
パンツは男物を履いて、その上から見えてもいいスパッツを履いていた。
万が一、男ってバレたら嫌だから!
そんなこんなで、撮影会が始まった。
僕はスカートで中がスースーするわ、女装していて恥ずかしいやらで、終始頬を赤く染めていた。
ポーズもお願いはされるものの、恥ずかしさのため姉にくっついたり、もじもじしたりと落ち着かない。
それでも、撮影していく人たちは優しくて、みんなお礼を言って立ち去っていく。
これが終われば、チョコレートパフェ。
これが終われば、ふわふわパンケーキ。
そんな呪文をずっと頭の中で唱えながら、僕はこの日を乗り切った。
この僕が恥ずかしがって、もじもじしていたそのポーズがファンの間で、
『恥ずかしがっている演技のクオリティがめちゃくちゃ高い。しかも、顔も可愛くて、まさに二次元が三次元に!』
と話題になって、コスプレ姿の僕の画像が拡散されていたなんて、このときは知るよしもなかった。
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