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『ゲイバーにいるのを生徒に見られちゃいました。』
ゲイバーから先生が出てきた。(零次side)
しおりを挟む零次side
生物担当のひな先生は、可愛い人だった。
最初はただの副担任だと思っていたし、男なのに綺麗で細くて、物腰の柔らかい人だなという印象だった。
そんな先生が可愛いと気がついたのは、俺が先生の資料運びを手伝ったときだ。
日直の仕事で、生物準備室まで荷物を運んだ。本音を言うとめんどくさくて、早く終わらないかなーくらいにしか考えてなかった。
荷物を運び終えた俺に向かって、先生がお礼を行ったときだ。
「ありがとう、助かったよ。」
ひな先生の穏やかで美しい顔が、ゆるりと目を細めて微笑んだのだ。
周囲の花が綻んだような優美な微笑みで、俺は思わず赤面してしまったと思う。
美しい人の微笑みって、こんなに強烈なのか。
天使がいる。
可愛すぎか。
至近距離で見てしまった俺は、ひな先生の美貌に当てられてしまった。
そのとき、俺はひな先生に惚れた。
何も言わない俺を不審に思ったのだろう。どうしたのかとひな先生に聞かれて、とっさに生物準備室にあった水槽にバッと視線を反らした。
水槽のピンクでアホ面な生物と目が合う。
ひな先生は、俺がその珍妙な生物が好きだと勘違いしたようだった。この際、勘違いでもいいから、どうにかして先生と接点が欲しかった。
だから、珍妙な生物に興味があるフリをした。
ひな先生が監督している生物部にも所属して、少しでも先生と長く居れる時間を作った。
ひな先生は、面倒見も良いし、授業も分かりやすいから生徒に人気だ。姿もそこらにいる女性より綺麗だから、自然と生徒も魅力に惹かれていく。
俺も最初は顔が好みだった。
だけど、生物部の活動を通して、ひな先生と一緒にいるうちに、見かけのわりに男気があってカッコいいことを知った。
綺麗なのに男前。
そのギャップがたまらなく愛しかった。
俺はもっと貪欲になって、珍妙な生き物のウーパールーパーの様子を見ると理由をつけて、毎日昼休みに生物準備室を訪れた。
先生は最初戸惑っていたけど、「仕方ないなあ。」というように、毎回カフェオレを淹れてくれた。ほんの15分くらいだけど、先生と二人きりになれるその時間が大好きだった。
夏休みの直前、いつも通り生物準備室で先生とお茶を飲みながら雑談をしていた。
俺ははそれとなく、ひな先生の予定を聞いてみた。
「先生は夏休み出かけないんですか?」
「そうだな……。お盆には旅行に行こうと思ってるよ。」
先生はすんなりと予定を教えてくれる。
旅行?誰と?
前に先生に聞いたときは、彼女はいないと言っていた。
もしかして、最近付き合い始めたとか?
顔を見たこともない、ひな先生の彼女に、ドロリと黒く重い感情が沸いた。
「旅行ですか……。いいなぁ。……彼女とどこに行くんです?」
先生に探りを入れてみる。
「彼女いないの知ってるだろ。……まったく。男の独り身のプライベートなんて聞いても楽しくないぞー。」
なんだ。ひとり旅か。俺は肩から力を抜いてほっと息をはいた。
そして、ひな先生がまだフリーなことを知れた。まだ、しばらくはひな先生のことを独占できる。
ひな先生と旅行かー。いいなー。
一緒に行きたい……。
従兄の店の手伝いがなければ、一緒に行けたのに……。
ひな先生も俺に夏休みの予定を聞いてきた。
俺は素直に従兄の経営するカフェを手伝うことを伝えた。
嘘は言っていない。
昼間はお洒落な普通のカフェ。
夜は出会いを求める人たちが集まるバーに変わる。
それを言うとひな先生に心配されそうだから、黙っておいた。
今考えると、これはフラグだったのかもしれない。
____________
あれって、ひな先生じゃないか。
この店は、昼間は普通のおしゃれなカフェ。
夜は、一夜の出会いを求め集まるバーだ。
しかも、男性が男性客を口説くバーに変わる。
簡単に言うとゲイバーだ。
従兄に、忘れ物を届けてほしいと頼まれて届けに来た時だった。店から、ひな先生に似た人が出てきて、男性と一緒に歩いている。
男性の片手はひな先生の腰を触っていた。
オレは、醜くてほの暗い、ドロリとした感情が身体に渦巻くのを止められなかった。
自分でも分かる。これは激しい嫉妬だ。
先生が、他の男に誘われている。そのまま何処に行くのかなんて、分かり切っている。
ひな先生。ずるいよ。
俺はこんなにも、先生のことを恋焦がれているのに。
半ば、諦めかけていた夢なのに。
それなのに、ひな先生は簡単にほかの男に抱かれてしまうの?
誰にも触らせない。
誰にも渡さない。
ひな先生は、オレのものだ。
____どんな手を使ってでも、ひな先生を手に入れる____。
今の状況はまさに好機だ。ひな先生が連れていかれる前に。
最初は緊張のあまり、ひな先生の名前を呼ぶ声が震えてしまった。ひな先生は、俺の呼ぶ声が聞こえなかったのか、そのまま男性と夜の街へ消えていこうとする。
「ひな先生」
今度は確実に先生にも届くように、声を大きくした。先生の身体がびくっと跳ね上がり、ゆっくりとこちらを振り返る。
「______佐々木……。」
不安で苦しそうな顔をして振り返ったひな先生。きっと今後の生活のこととか、俺にバラされるとか、そんなことを考えているのだと思う。
大丈夫。ひな先生の悪いようにはしないよ。
ただ、俺の恋人になってもらうけど。
恋人になってくれたら、一生大切にする。
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