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第六章 決戦の地へ

双子の願い(カレンside)

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「大丈夫、カレン。ぼくたちが、助けるから」
「……時魔法を使って、二人を助ける」

「ちょいっ待ち!!あんたたち、今『時魔法』って言った??」

聞き捨てならない言葉に、私は思わず大きな声を出して問いす。『時魔法』なんて、おとぎ話や古代書で出てくる幻の魔法だ。文献もあまりにも少なく、本当にあったかどうかお疑わしい代物なのに、この双子ちゃんは何を淡々と言ってるの?

驚く私を他所に、双子たちは迷惑そうに顔を顰めた。


「カレン、うるさい。だまってて!」
「……集中してるの。カレンのばか」

「辛辣!!」

サエちゃんに対する態度と全く違うんですけど!特に双子の水色のほう、シエルは大人しそうに見えて良い性格してんのよね。


「ぼくら、親がハイエルフだから。いろいろできる」
「……でも、しばらく寝ちゃうと思う」

精霊種のエルフは魔法が得意な種族だ。そのさらに上位種であるハイエルフは、使用する魔法の格が違う。それこそ、物事の事象に関わってくる魔法を出来る血筋だ。

私としたことが、空間の次元を歪めて移動する転移魔法が出来る時点で、この双子ちゃんの異様さに気付くべきだったわ。


時間を戻すということは、起こった出来事をなかったことにもできる。それは偉大な魔法であると同時に、大きな対価を要求することは簡単に想像できるわ。転移魔法を使用したときでも、双子ちゃんは数日寝込んでいた。


「起きるのは、だいぶ先」
「……たぶん、数年後」

私は一つ溜息を吐くと、双子ちゃんに視線を合わせるためにしゃがみ込んだ。琥珀色の瞳と、空色の瞳が私をじっと見る。淡々と話をしているけど、双子のオッドアイの目が私の視線から逸れたいというように、少し揺れている。


本当は。
数年後に目覚めるかどうかも、確証がないんでしょ?
それぐらい、危険なことをしてでも助けたいのね。


「……あんたたち、黙っていたのは確信犯ね?」

私の言葉に、双子は小さく『ごめんなさい……』と謝った。その一言だけでも、この短い期間で私のことを少しは信頼してくれた証拠ね。私は嬉しいと思ったと同時に、胸がきゅっと切なくなった。


私の周りには自分の身を大切にしない子が、なんて多いのかしら……。大切な人の為ならば自分を厭わないという、怖いほど純粋で一途な心持ちの、優しい子たちばかりなんだから。


「サエが、生きていればいいの。」
「……サエが、幸せに生きてくれれば、それでいい」

そのためには、レイルもついでに助けなくっちゃ、と
にっこりと笑いあった双子は、意を決したように前を向いた。小さな手の平に魔力が集まっているのが分かる。本当に小さな、子供の手だ。


「……頑張んなさい。眠った双子ちゃんたちのことは、私がベッドまで運んであげる」

この小さな子供たちの背中に、言葉しかかけられない自分が情けない。私にできることは、魔力を使い過ぎて長い眠りにつくであろう子供たちを、ただ後ろから抱きしめることだけ。

安心して眠りにつけるように、この無駄にたくましい胸を広げて受け止めてあげること。


「ぼくたちは、『ばけものだ』とか、『人間じゃない』とか、色んな人に言われたけど」

「……サエがぼくたちを、『ぼくたち』として見てくれた。名前をくれた。……本当にうれしかった」

誰に聞かせるというでもなく、双子は湖の中へと語り掛ける。キンッという、高く澄み切った音が聞こえた直後に、湖のふちから小さな金と水色の歯車がぽろんっと浮き出てくる。

音がするたび、歯車は跳ねるように湧き出てきて、一つに、また一つと湖に落ちていった。透き通った水の中に、金と水色のかけらがゆっくりと落ちていくのが見える。


さらに膨大な魔力の放出を感じて、その源である双子の髪の毛がぶわりっと浮いた。露わになった額から汗が流れているのを、ハンカチでそっと拭ってあげる。双子の身体が僅かに震えているのを、後ろからぎゅっと抱きしめた。


早く回転する金色の小さな歯車が、星のようにキラキラと輝きながら、水面を徐々に覆っていく。空のように美しい水色の大きな歯車が、無数の金の歯車とかみ合って、ピッタリとはまった。

透明な水面に現れた、金と空の歯車の仕掛け。澄み切った青空に星が瞬いているような、神秘的で奇跡を思わせる美しい魔法。


「……なんて、綺麗なの……」

湖の水面を覆いつくした美しい歯車たちが、一斉に眩く光り出す。腕の中にいる双子ちゃんが、身体にグッと力を入れたのが伝わってきた。


「だいすき、サエ。起きたら僕たちに『おはよう』って言って!」
「……だいすき。サエ。起きたら僕たちをぎゅってして」


双子は最後の魔力を振り絞りながら、穏やかに微笑んだ。大好きな人に、可愛らしいお願いをしたのだ。数年越しになるであろうその願いは、実に純粋で子供らしいものだった。


「……サエちゃん、レイル。お願い、戻ってきて……」

私も、双子ちゃんも、あなた達が大好きで大切なの。
これ以上、自分たちだけを犠牲にしないで。

力が抜けた双子ちゃんの身体を支えながら、美しく水面に光る歯車たちを見つめて願いを口にした。




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