異世界で魔道具にされた僕は、暗殺者に愛される

雨月 良夜

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第六章 決戦の地へ

この世のモノではない

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「この下衆が……!誰が、サエを渡すか。ここで死ね。」

レイルの殺気と怒気を交えた言葉に、宰相は道化師のような歪な笑みを浮かべた。カタカタと身体を震わせて、笑いを堪えるのに必死な様子だ。


「……他国の暗殺者風情が、私と言う最高魔導士に勝てるとでも……?」

ニヤリと口角を上げている宰相は、そう呟いたと同時に右手に拳大の大きな魔石を取り出した。その魔石は、暗黒魔術の魔力よりもさらに血みどろを連想させる、ドロッと濁った魔力だった。


「……愚鈍なお前たちに教えよう……。あの渓谷で魔力を集めた理由をな……。」

宰相はためらいもなく、その見るに耐えないほど穢れた魔石に魔力を流した。宰相の近くに大きな魔法陣がいきなり現れ、怪しげな赤色の光を放つ。

魔法陣から現れるであろうモノの姿を確認する前から、鳥肌が止まらない。耳を塞ぎたくなる。


もう、やめてくれ。

なぜ、宰相には魔方陣から発せられる声が聞こえない?
苦しげに藻搔いて、悲痛な叫びが分からない?
この憎悪と哀しみに染まった、どす黒い邪気を感じない??


「……異世界人をこの世に導いた私が、この世界の最凶の魔物を呼び出すことなど、実に簡単なことだ!」


……召喚魔法に使うだけのために、あのロイラック王国の騎士たちは命を落としたというのか……!


魔法陣から発せられたのは、凄まじい邪気だ。

赤黒い光がさらに天へと向かって強い光を放ち、魔法陣の中に影が生まれる。やがて、赤黒い光が収まるとその影の正体が、カタカタっと音を立てた。


目の当たりにした光景に、心からの恐怖の震えが止まらない。


僕達の目の前には、身体の数十倍はある巨大な一匹のドラゴンが現れた。地面に鋭い鉤爪を食い込ませ、大きな翼を広げて、牙が生え揃った口を威嚇するように大きく開ける。


ただ、見た目が普通のドラゴンではなかった。


その醜悪な見た目は、明らかにこの世のモノではなかった。

知能があるのか、無いのか全く分からない、得体の知れない真っ赤で大きな目は、もはや此方のことが見えているのかさえ怪しかった。

それほどまでに、落ち窪んで赤黒い穴が空いている。


背骨や胸骨をそのままに、羽根にも皮膚はなく骨が剥き出しになっていた。ドロリとヘドロのように骨に垂れてる黒色の物は、肉や血液だったものなのだろう。


そう、そのドラゴンは腐敗していた。


骨には血肉の痕である暗い赤色が不気味に色づき、ヘドロは滴って地面へと落ちていった。下草が滴った液体で音を立てて、じゅうっと黒く変色して溶けた。


カタカタと骨を軋ませて、発せられた咆哮は悲痛な色を帯びていた。


「……苦しんでる……っ。」


召喚は完璧ではなかった。

この地に無理矢理導かれたドラゴンは、魂と骨だけになっても強制的に生かされている屈辱を、怒りと呪いに変えていた。


「……素晴らしい……!さあ、邪魔者を消し去れ!!」


宰相の嬉々とした指示に、腐敗したドラゴンが動き出した。


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