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第六章 決戦の地へ
不気味な余裕
しおりを挟む「お前の魔力と古の聖魔術師の血液の魔力が、驚くほどに一致したのだよ。」
「っ!!」
いつの間に血液検査を……。さすがにレイルも血の保管までは想定外だったようだ。驚きの表情をしている。
「私は確信した。お前の中に、聖魔術師の魂が紛れ込んでいると……。だが、反応が僅かだったから、極一部だけだろうと突き止めた。」
魔力というのは、魂の色とも言われているのだ。魂が魔力を生み出し、魔法を使用できるようになる。2つとして同じ魔力がないということは、魂が唯一無二であることに他ならない。
僕の魂は今、セレーネの魂に包み込まれている。それは、『暗黒の種』から僕自身を守るためだ。
ひた隠しにされた僕の魂は、この世界の者ではない。
だから、本来は魔力なんて持っていないし、魔法も使えないはずなんだ。下手をすれば、この世界に転移させられた時点で、環境に適応できず、死んでいるかもしれなかった。
僕の魔力は、セレーネの魔力そのもの。
宰相に、それを見抜かれてしまった。
「これほどまでに、心が踊ったことなどない!!聖魔術と暗黒魔術を同時に操れるなど、この世を掌握したも同然だ!……しかし、気が付いたときにはお前はいなかった。……激しい憤りを感じたよ。」
完成させるはずだった道具が、何者かに持っていかれた。
それは、それは、残念でならなかった。
そう言った宰相は、実に芝居がかって肩をすくめた。僕は、宰相にとって何処までも道具でしかないのだろう。
「……ここは、聖魔術師の思い入れが強い場所だ。ここに魂が眠っていると推測した。お前が聖魔術師の残りの魂を回収しに来ると踏んで、待ち伏せしたというわけさ。」
一通り説明したあとに、宰相は俺へと手を伸ばした。
「……さあ、私の元に帰るがいい。私の最高傑作よ。」
不気味なまでに細い手首に、蒼白の筋張った手は、まるで魔女や悪魔のようだと感じて怖気がした。手を伸ばしたら最後。無理矢理に引っ張られて、引きずり込まれる。
宰相のドロリとした陰湿な言葉に、レイルは魔力をぶわりと逆立てて威嚇した。宙に浮く黒色の短剣たちが、キリキリ音を立てて標的を射貫こうと狙う。
「この下衆が……!誰が、サエを渡すか。ここで死ね。」
今まで聞いたことのない、レイルの低い声を聞いた。怒気を隠さない呻き声と、重圧を感じさせるほどの殺気が宰相に向けられる。
そんな、百戦錬磨の暗殺者から放たれた本気の殺気を、宰相はギョロリした目で一瞥した。
ニターッという音が聞こえそうなほど、粘りつくように。さもゆっくりと唇を左右に引いて、厭らしく弧を描く口角。血走った目も異様に細めて、道化師のように態とらしく歪んだ。
なぜ、今にも殺されそうなのに、そんな余裕なんだ?
ゾクッと、その道化師のような歪な笑みに恐怖した。
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