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第六章 決戦の地へ

脅威

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駆ける速度を緩めないまま、エストは暗い森の中へと突っこんでいった。馬とは違って、エストの動きは実にしなやかだ。道などない森の中を、時には地面から隆起した根っこを足場にして駆けて行く。

エスト自身が風魔法で僕たちを包み込んでいるのか、振り落とされることは決してない。


「__!__!!」

待って!戻って!!


森に入ってほどなくして、僕の周りをほわほわとした綿毛のような光が舞っては通り過ぎていった。エストの速さについていけない精霊たちの光が、僕に何かを訴えているけど良く聞こえない。


ほわり、ふわりと遊ぶように宙を舞うはずの精霊たちが、どこか落ち着きがない。僕たちの後を追うように、必死に飛んでいるように見えた。


月明りさえも遮るほど葉が重なっている森の中を跳躍しながら、ようやく目の前に月光の光が漏れ始めた。楽譜に描かれた地図でも、この辺りを示していたから間違いない。


「……泉だ!」

歓喜のあまり僕が声を上げると同時に、ツーツーっという音声伝達があったことを知らせる電子音に似た音が鳴った。


僕の左耳に付けている、音声伝達の魔道具である銀色のイヤーカフから、セルカ殿下の訝し気な声が聞こえてきた。セルカ殿下は予定よりもだいぶ早く王城に到着して、王城内を掌握したようだ。


「サエ、レイル。……王城の中を隈なく探したが、宰相の姿がない。……もしかしたら___」


途中の言葉は、僕の耳に入ってこなかった。
周囲の音が、頭の中で消えた。


月光の元に躍り出た僕たちの目の前からは、突如として木々が無くなる。蒼白の月光を受けて、影を作る下草がざわざわと騒めいている。

嵐の前触れかのように風が強く靡いて、下草だけではなく森の木々も不穏にざわついた。


コバルトブルーの水面は、白色の三日月を映して大きく歪ませる。もはや、三日月を映しているのかも怪しいほどだ。


その重く淀んだ雰囲気が、魔王城で見た暖かな場所とはまるで違う場所にさえ思えた。暗闇の中には変に浮き出たような、人の顔面ほどの白色が見える。


目の前にいる人物に、目を見張る。
できれば二度と会いたくなかった。

カタカタと身体が勝手に震え出す。ロイラック王国に来て、最初に味わった恐怖と緊張を思い出す。息がうまく出来ない。


「……待っていたぞ。私の最高傑作よ。」


気味が悪いほど青白い顔に、目だけがギョロリと欲望を称えた顔。

薄く紫色の唇は、細い三日月のように歪な弧を描く。口が左右に裂けているのではと思うほど、その笑みはドロリと醜悪だった。


……どうして、この人がここに……。


貴族然とした装飾の多い服装は、僕が召喚されたときに着ていたものだ。それがまた、恐怖と絶望の記憶を僕の頭に蘇らせる。


「私はやはり天才だ。……お前がここに来ることを、予想していたのだから!」


そう言った細身の男性、ロイラック王国宰相は高らかに笑った。自身の才能に酔いしれ、とても愉快だというように。

人の皮を被った悪魔が、そこにいた。


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