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第六章 決戦の地へ

届けたい想い

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「……サエ、前を見ろ。先に進め。」


凄い早さで小さくなっていく壊れた崖。呆然と振り返って見ていた僕に、叱咤するようにレイルが言った。


そうだ。呆けてなどいられない。
今、出来ることをするんだ。


「_________♯________♭________♭」

僕はエストの背中に乗りながら、聖魔術を唱えた。握りしめた両手には、今までで以上に力が籠った。

両手の平の隙間から白銀色の光が漏れ出している。


カレンさんとラディウス国の騎士たちを守って。重く仄暗い闇を薙ぎ払い、元凶である暗黒魔術の魔石を破壊せよ。


握りしめていた手を開ける。無数の白銀の蝶が、僕の手の平で羽根をはためかせている。僕は、聖魔法が攻撃も出来ることを知っている。それはセレーネから教わっただけじゃない。

自分の本能でも感じ取っていた。僕が放つのは、強い光ではダメなんだ。


イメージするのは、身体からじんわりと暖まるような、春の木漏れ日。ポカポカとした日差し。穏やかな澄んだ風。そこに咲き誇る生命の息吹が、哀しい魂を優しく包み込む。


あの怨恨に苛まれ、この地上に縛り付けられた騎士の魂。

彼らは皆、家族や大切な人たちに会いたがっていた。
心安らぐ場所に帰りたがっていた。
その魂全てが、どうか大切な人のもとへ帰りますように。


銀色の蔦が宙に模様を描く。宙にはたくさんの白銀色に輝く蕾が現れた。僕は更にひたすらに祈った。この世界に来たときから抱いていた感情が、奥底から爆発した。


人間同士の戦いは嫌いだ。
血飛沫が宙に滴を撒いたり、苦しむ人の呻き声。
苦悶の表情と、命が途絶える瞬間の緊張と虚ろの狭間。

その中に入り交じる、怒りと恐怖、哀しみの複雑な感情。


これ以上戦って、何が残るの?
戦いたくないのに、何故剣を取らないといけないの?
僕たちはただ、穏やかに暮らしたいだけなんだ。


この戦いが、終わりますように。


白銀色の蕾が、一斉に花を咲かせた。

エストが駆け抜ける疾風に乗るように、大勢の蝶が花びらと共に後ろへと飛び立った。それは、今までに無いくらいの蝶の群れで、飛び立つときには僕の顔を覆うほどだった。

銀の鱗粉が、まるで天の川のように流れていく。


「……どうか、届いて。」

闇色に塗りつぶされた空にも、無数の蝶が羽ばたいていった。


エストのふわりとした毛並みが、風で後ろへと靡いていく。僕たち4人を乗せても、十分な余裕のあるエストの背中。僕はシエルとステラを抱きしめている。その後ろからは、レイルの暖かな体温を感じた。

後ろから僕たちを守るように、レイルが乗っている。腰に回された手に力が籠った。


「……サエ、森が見えてきた。」

「……うん。」


目視できる距離に鬱蒼とした森が見える。
あの森の中に、泉があるんだ。





    
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