上 下
53 / 72
第六章 決戦の地へ

中継地点

しおりを挟む



半日ほど馬を駆けたところで、僕たちは中継地点に辿り着いた。途中で敵からの攻撃はあったものの、道なき道を行き敵の目を掻い潜ったり返り討ちにしてひたすら進んだ。

ここまでは、騎士の人も含めて全員が怪我なく済んでほっとする。


廃れた町から離れた鉱山地帯の隅に、古びた山小屋が隠れるように建てられている。合流地点はその山小屋だ。山小屋の隣にはぽっかりと口を開いた洞窟があって、中で馬たちが大人しく手綱を握られて待っていた。


「……ここまで、ありがとう。」

僕たちを乗せてくれた馬に、お礼を言って頭を触る。プルルルっと小さな声で戦慄くと、黒色の馬は僕の手に甘えて鼻を摺り寄せてくる。

暖かい体温とその仕草に、緊張していた心がほんの少し和らいだ。


レイルも騎士の人達も、短くお互いに報告しあうと各々馬を乗り換える。僕たちと一緒に来ていた騎士の人たちは、ここでロイラック王国内に潜伏していた人達に変わる。


「……皆さん、ありがとうございました。……どうかご無事で。」

道中を共に駆け抜けた騎士の人たちに、僕は癒しと祈りを捧げた。僅かな期間ではあったけど、見ず知らずの僕たちに親切にしてくれた人たち。

そして、命を懸けて僕たちを守ってくれた戦士たち。


僕の言葉に、この騎士たちの中でも指揮官の任に就いていた中年男性が近づいてきた。この人は、出会ったときから僕のことを随分と気にかけ、優しく声を掛けてくれた部隊長さんだ。


「……サエ君は本当に人の心配ばかりだね。……どうか自分も大切にして。君の無事も、私たちは願っているんだよ。」

そう言いながら、穏やかな瞳を細めて僕の頭に大きく優しい手を乗せた。数回ポンポンと幼い子供に言い聞かせるように、頭を撫でられる。

部隊長さんの言葉に、周りにいた他の騎士の人たちも力強く頷いていた。こんなにも、僕に温かな心を向けてくれることに、視界が滲んだ。


「……はい。」


涙が出そうになるのをグッと堪える。
泣くのはすべてを終えてからだ。


ものの数分で、僕たちは中間地点をそれぞれの戦いへと旅立った。

レイルによると、殿下たち以外にもラディウス国の騎士たちが各場所の結界を壊して、主要な街を制圧したらしい。
ここまでは順調だ。


「……セルカ殿下たちが、1日早く王都に着くかもしれないと言っていたわね……。」

隠蔽魔法で姿を隠しながら並走しているカレンさんが、思案気に口を開いた。


「……何か、様子がおかしい。」

レイルがぽつりと呟いた。先ほどの中継地点で、レイルたちは戦況を報告しあっていた。その中で何か引っ掛かることがあるようだ。


「……ラディウス国の戦況が有利過ぎる。確かに圧倒的にラディウス国のほうが武力は勝っているし、火力も十分にある。……ただ、主要都市がこんなにも簡単に制圧できるはずがない。」


大きな街には、必ず国立騎士団の支部があり、かつ領地を治めている貴族の自警団もいるという。しかし、戦闘状況の報告を聞くと、都市の制圧に苦戦した様子が見られないと言うのだ。


「国力が落ちているとはいえ、これだけの大国なら相当数の騎士がいるはずだ。だが聞いた話ではどこの街も、圧倒的に騎士の数が少ない。」

「……それって、王都に騎士を集結させて待ち伏せているとか……かな?」


王都は、国王がいる最重要拠点だ。防衛するために、多くの騎士を集めるのは当然だと言える。ラディウス国を向かい討つべく、王都に最大の戦闘力を集結させ一気にケリをつけるという作戦かもしれない。

セルカ殿下は、待ち伏せされることも当然視野に入れている。


「それとも、……何か別のことを企んでいるかだ。」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

追放されたボク、もう怒りました…

猫いちご
BL
頑張って働いた。 5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。 でもある日…突然追放された。 いつも通り祈っていたボクに、 「新しい聖女を我々は手に入れた!」 「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」 と言ってきた。もう嫌だ。 そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。 世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです! 主人公は最初不遇です。 更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ 誤字・脱字報告お願いします!

【完結】雨を待つ隠れ家

エウラ
BL
VRMMO 『Free Fantasy online』通称FFOのログイン中に、異世界召喚された桜庭六花。しかし、それはその異世界では禁忌魔法で欠陥もあり、魂だけが召喚された為、見かねた異世界の神が急遽アバターをかたどった身体を創って魂を容れたが、馴染む前に召喚陣に転移してしまう。 結果、隷属の首輪で奴隷として生きることになり・・・。 主人公の待遇はかなり酷いです。(身体的にも精神的にも辛い) 後に救い出され、溺愛されてハッピーエンド予定。 設定が仕事しませんでした。全員キャラが暴走。ノリと勢いで書いてるので、それでもよかったら読んで下さい。 番外編を追加していましたが、長くなって収拾つかなくなりそうなのでこちらは完結にします。 読んでくださってありがとう御座いました。 別タイトルで番外編を書く予定です。

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

ようこそ異世界縁結び結婚相談所~神様が導く運命の出会い~

てんつぶ
BL
「異世界……縁結び結婚相談所?」 仕事帰りに力なく見上げたそこには、そんなおかしな看板が出ていた。 フラフラと中に入ると、そこにいた自称「神様」が俺を運命の相手がいるという異世界へと飛ばしたのだ。 銀髪のテイルと赤毛のシヴァン。 愛を司るという神様は、世界を超えた先にある運命の相手と出会わせる。 それにより神の力が高まるのだという。そして彼らの目的の先にあるものは――。 オムニバス形式で進む物語。六組のカップルと神様たちのお話です。 イラスト:imooo様 【二日に一回0時更新】 手元のデータは完結済みです。 ・・・・・・・・・・・・・・ ※以下、各CPのネタバレあらすじです ①竜人✕社畜   異世界へと飛ばされた先では奴隷商人に捕まって――? ②魔人✕学生   日本のようで日本と違う、魔物と魔人が現われるようになった世界で、平凡な「僕」がアイドルにならないと死ぬ!? ③王子・魔王✕平凡学生  召喚された先では王子サマに愛される。魔王を倒すべく王子と旅をするけれど、愛されている喜びと一緒にどこか心に穴が開いているのは何故――? 総愛されの3P。 ④獣人✕社会人 案内された世界にいたのは、ぐうたら亭主の見本のようなライオン獣人のレイ。顔が獣だけど身体は人間と同じ。気の良い町の人たちと、和風ファンタジーな世界を謳歌していると――? ⑤神様✕○○ テイルとシヴァン。この話のナビゲーターであり中心人物。

[長編版]異世界転移したら九尾の子狐のパパ認定されました

ミクリ21
BL
長編版では、子狐と主人公加藤 純也(カトウ ジュンヤ)の恋愛をメインにします。(BL) ショートショート版は、一話読み切りとなっています。(ファンタジー)

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

処理中です...