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第五章 それぞれの想い
話し合い
しおりを挟むラディウス国の騎士たちが駐留していたのは、僕達が魔王城から1時間ほど馬で駆けた距離にある町だった。小さな町の外れに、騎士団たちのテントがいくつも設置されて、中央は焚火を焚いている。
僕たちもその中に混じって、一緒に食事をさせてもらった。
僕が、聖魔術で拘束してしまったことを騎士の人たちに謝ると、皆驚いた顔をしたあとに「気にしないで。逆にありがたい。」と優しく声をかけてくれた。
幸い、僕が聖魔術で拘束した騎士の人たちに怪我はなく、むしろ負っていた怪我が治癒されていたそうだ。
皆が僕に、『治癒してくれてありがとう』と言ってくれて、面白いなとついつい声を出して笑ってしまった。
騎士の人達のテントの端っこに、自分たち用のテントを用意した。ここで分かったのは、シエルとステラは人見知りをする事。僕たちの側をあまり離れようとしない。
と言うよりは、大人に対してあんまり良い感情を持っていないようだった。レイルよりも身体が大きく、筋肉質な人には決して近づこうとしなかった。
安心してもらえるように、いっばいシエルとステラをぎゅっとして一緒に眠ろう。今日は夜も遅いため、皆で話し合うのは明日にしようと約束をして眠りについた。
翌日、セルカ殿下は僕を含めた5人を会議棟というテントに集めた。簡易的な机とテーブルが並べられたテントで、文字通り会議を行う場所らしい。
そこには、昨日レイルを攻撃した暗殺部隊隊長も同じテーブルに着いていた。全員が席に着くと、向かいに座っているセルカ殿下が話を始めた。
「今後について、皆で話し合おうと思う。……まずは、先に紹介しておこう。……こちらは、ラディウス国暗殺部隊隊長、シュティレヴォルト・モルゲンレーテ。レイルの上司だ。」
そう言うと、セリカ殿下は隣に座っている暗殺部隊隊長を手で示した。
以前と同じように、口元は緩く弧を描いて微笑んでいる。その微笑みは心からの笑みではなく、相手を威圧しないための仮面のように感じた。
何を考えているのか、分からない。
得体の知れないものを内側から感じるのは、僕だけかな……。
「改めまして、美しい君。私はラディウス国暗殺部隊隊長、シュティレヴォルト・モルゲンレーテ。レイルがお世話になっているね。……レイル、やるじゃないか。こんなに可憐で清らかな子を……。」
僕のほうを見てから、レイルに意地悪にも面白がっている目を向ける。僕の隣に座っていたレイルは、忌々し気にシュティレヴォル隊長を睨むと、ぼそっと呟いた。
「うるさいです。」
そういってそっぽを向くレイルに、シュティレヴォルト隊長はなおも面白いと、クスクスと声を出して笑った。
どうやら、レイルとシュティレヴォルト隊長は良好な関係らしい。レイルのことを冷酷に殺そうとしていたから、油断はできないけれど。
きっと、任務遂行には忠実な人なのではないのだろうか。部下も味方も、容赦なく切り捨てる感じがする。ほんの少し心細くなって、僕はレイルの服の裾をキュっと掴んでいた。
「……それに、サエ君は私の本質を見抜いているね。そちらの双子ちゃんも。……いいなあ、将来有望そうだ。」
シュティレヴォルト隊長に名呼ばれた2人は、きょとんっとした顔をすると、シュティレヴォルト隊長に真っすぐに目を向けた。
「魔力が濃い、すごく強い!」
「……冷たい心、けど綺麗。」
2人の言葉を聞いたシュティレヴォルト隊長は、満足げに片方の口端を吊り上げて笑った。ステラとシエルは、人の気持ちや内面にとても敏感だ。
シュティレヴォルト隊長の性格と実力を、2人は五感で感じ取り見抜いたのだろう。
「……では、話を進めるよ。ロイラック王国への侵攻は、1か月後。これは決定事項だ。既に準備を整えていて、ロイラック王国の王都に騎士を集結させる。」
今回の侵攻は、ラディウス国の国王陛下が音頭を取っているが、実際に騎士たちと行動を共にするのは、第一王子であるセルカ殿下だそうだ。
亡命しているロイラック王国の第三王子と共に、戦いに挑む。
この戦いには、決して国王陛下は立ち会わないらしい。
自分自身は安全な場所で高見の見物をして、美味しい場所だけ取ろうとする。セルカ殿下いわく、自分の父ではあるものの、国王陛下は結構な俗物だそうだ。
「サエが聖魔術を使えると父に知られれば、確実に囲われる。一生外に出してもらえなくなるぞ。」
セルカ殿下は、皮肉げに僕にそう告げた。
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