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第五章 それぞれの想い
作戦
しおりを挟む「……それに呪いの宝珠を人間に飲ませるなど、正気じゃない。遵従(じゅんじゅう)の首輪』に監禁……。サエ、本当に良く耐えてくれた……。」
セルカ殿下は両膝に置いた拳をぐっと握って、苦し気な顔をした。
そんな顔をしないでほしい。
セルカ殿下が悪いわけでは決してないのだから……。
「今まで僕の聖魔術は不完全でした……。でも、今は完全な聖魔術を使用できます。ラディウス国内の穢れも払うことができる……。そして、僕自身の中にある『暗黒の種』も消滅できるかもしれません……。」
出来ると言いきれなかったのは、自分だけの力では到底足りないからだ。
「『暗黒の種』は、人間が欲のために滅ぼした『魔族』という種族の、長の魂です。魔王と呼ばれていたその長は、自らの魂に呪いをかけて宝珠になった……。」
人間によって数奇な運命を辿った魔王。その魂を救えるのは魔王を愛し、彼の弱点でもある聖魔術を使えた恋人の魂だけ。
「『暗黒の種』を壊すには、古の聖魔術師の魂が必要なんです。ラディウス国内の泉に眠っている、聖魔術師の魂と共に『暗黒の種』を消滅させます。」
死んでもなお、2人の魂は離れたまま。セレーネは彼の魂を呪いから解放するために、自分の魂を消失させて救おうとしている。
どうして、こうも2人の運命は残酷なのだろうか。
僕の話を聞いていたセルカ殿下は、顎に指を当てながら思案気に考えこんでいた。そして、おもむろに口を開く。
「聖魔術師……。もしや、それはセレーネ王女か?」
「っ!!ご存知だったんですか?」
セリカ殿下の口から、セレーネの名前が出てきたことに心底驚いた。
「王城に聖魔術についての資料がある。……あれは、資料というより日記だな……。セレーネ王女は聖魔術の師として名前が出てくる。日記の持ち主は、彼女に聖魔術を教わった生徒だったようだ。……なるほど……。」
そこで一度、セルカ殿下は言葉を切った。
「その日記には、セレーネ王女は泉に身を投げて命を落としたと記載されていた。……目的地はその泉か?」
「……そうです。」
その泉は2人の思い出の地でもあり、哀しみの地でもある。
一度、セルカ殿下は静かに瞳を閉じた。ゆっくりと時間を掛けて思案に耽る。僕はその間、緊張で身体が強張って冷たくなっていた。
今までの話を聞いて、セルカ殿下は何と言う?
暗黒魔術を消滅させるな。ラディウス国のために働け。
ロイラック王国に暗黒魔術を施せと言うだろうか?
レイル、カレンさん、シエル、ステラを人質に取られたら、僕はどうすればいいだろう。
今度はラディウス国に囲われてしまうのかな……。
でも、それでもいい。
皆が無事で済むのなら。
美しいエメラルドの瞳が、僕を真摯にまっすぐと見つめた。
「……分かった。暗黒魔術を消滅させることに協力する。人数が多い方が何かとやり易いだろう?」
「……っ?!」
あまりにもすんなりと、セルカ殿下が助力をくれるということが信じられない。人間不振に陥っている僕の思考が、口を突いた。
「……セルカ殿下は、僕のことを利用しようと思わないのですか……?」
思わず言葉に出てしまった本音に、僕はしまったと口を引き結んだ。セルカ殿下は僕の言葉に怒った様子もなく、僕の目を射貫いた。
その目は何処までも真剣で、強い意志を感じた。
「国の行政に関わる王子が何を、と思っているのだろう?……確かに、サエの力はとても貴重だ。世界をも掌握できるだろう。だが……。」
「……過ぎた力はいつでも争いの種になる。サエを手に入れたら、国外だけじゃなく国内でもサエを求めて争いが起こる。……内乱や戦いを招く力なら、そんなもの無い方がいい。」
セルカ殿下は、更に僕にこう告げたのだ。
例え、僕を囲って秘密裏に暗黒魔術を他国に仕掛け、聖魔術で恩を売ったとしても、いつかはからくりがバレる。抑圧による統制には、必ず報復があるのだと。
「それに、これは私にしかできない、重要な任務とも言えるな。……ラディウス国がロイラック王国に攻め入っている混乱に乗じて、2人は『暗黒の種』を消滅させればいい。……レイル、その作戦には私が打ってつけであろう?」
ずっと黙って話を聞いていたレイルは、セルカ殿下の言葉に逡巡したのちに頷いた。セルカ殿下は、ラディウス国の騎士団総括なのだという。
つまり、セルカ殿下の声一つで国中の騎士を操れる。
今考えた作戦だろうけど、何とも妙案だった。
「ただ、サエにお願いがある。……ラディウス国の暗黒魔術の穢れを払ってほしい。これだけは、国民を守るためにお願いしたい。……あとは協力を惜しまない。」
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