異世界で魔道具にされた僕は、暗殺者に愛される

雨月 良夜

文字の大きさ
上 下
48 / 72
第五章 それぞれの想い

作戦

しおりを挟む



「……それに呪いの宝珠を人間に飲ませるなど、正気じゃない。遵従(じゅんじゅう)の首輪』に監禁……。サエ、本当に良く耐えてくれた……。」

セルカ殿下は両膝に置いた拳をぐっと握って、苦し気な顔をした。


そんな顔をしないでほしい。
セルカ殿下が悪いわけでは決してないのだから……。


「今まで僕の聖魔術は不完全でした……。でも、今は完全な聖魔術を使用できます。ラディウス国内の穢れも払うことができる……。そして、僕自身の中にある『暗黒の種』も消滅できるかもしれません……。」


出来ると言いきれなかったのは、自分だけの力では到底足りないからだ。


「『暗黒の種』は、人間が欲のために滅ぼした『魔族』という種族の、長の魂です。魔王と呼ばれていたその長は、自らの魂に呪いをかけて宝珠になった……。」


人間によって数奇な運命を辿った魔王。その魂を救えるのは魔王を愛し、彼の弱点でもある聖魔術を使えた恋人の魂だけ。


「『暗黒の種』を壊すには、古の聖魔術師の魂が必要なんです。ラディウス国内の泉に眠っている、聖魔術師の魂と共に『暗黒の種』を消滅させます。」

死んでもなお、2人の魂は離れたまま。セレーネは彼の魂を呪いから解放するために、自分の魂を消失させて救おうとしている。


どうして、こうも2人の運命は残酷なのだろうか。


僕の話を聞いていたセルカ殿下は、顎に指を当てながら思案気に考えこんでいた。そして、おもむろに口を開く。


「聖魔術師……。もしや、それはセレーネ王女か?」

「っ!!ご存知だったんですか?」


セリカ殿下の口から、セレーネの名前が出てきたことに心底驚いた。


「王城に聖魔術についての資料がある。……あれは、資料というより日記だな……。セレーネ王女は聖魔術の師として名前が出てくる。日記の持ち主は、彼女に聖魔術を教わった生徒だったようだ。……なるほど……。」

そこで一度、セルカ殿下は言葉を切った。


「その日記には、セレーネ王女は泉に身を投げて命を落としたと記載されていた。……目的地はその泉か?」

「……そうです。」


その泉は2人の思い出の地でもあり、哀しみの地でもある。


一度、セルカ殿下は静かに瞳を閉じた。ゆっくりと時間を掛けて思案に耽る。僕はその間、緊張で身体が強張って冷たくなっていた。


今までの話を聞いて、セルカ殿下は何と言う?


暗黒魔術を消滅させるな。ラディウス国のために働け。
ロイラック王国に暗黒魔術を施せと言うだろうか?


レイル、カレンさん、シエル、ステラを人質に取られたら、僕はどうすればいいだろう。
今度はラディウス国に囲われてしまうのかな……。


でも、それでもいい。
皆が無事で済むのなら。


美しいエメラルドの瞳が、僕を真摯にまっすぐと見つめた。


「……分かった。暗黒魔術を消滅させることに協力する。人数が多い方が何かとやり易いだろう?」

「……っ?!」

あまりにもすんなりと、セルカ殿下が助力をくれるということが信じられない。人間不振に陥っている僕の思考が、口を突いた。


「……セルカ殿下は、僕のことを利用しようと思わないのですか……?」


思わず言葉に出てしまった本音に、僕はしまったと口を引き結んだ。セルカ殿下は僕の言葉に怒った様子もなく、僕の目を射貫いた。

その目は何処までも真剣で、強い意志を感じた。


「国の行政に関わる王子が何を、と思っているのだろう?……確かに、サエの力はとても貴重だ。世界をも掌握できるだろう。だが……。」


「……過ぎた力はいつでも争いの種になる。サエを手に入れたら、国外だけじゃなく国内でもサエを求めて争いが起こる。……内乱や戦いを招く力なら、そんなもの無い方がいい。」


セルカ殿下は、更に僕にこう告げたのだ。

例え、僕を囲って秘密裏に暗黒魔術を他国に仕掛け、聖魔術で恩を売ったとしても、いつかはからくりがバレる。抑圧による統制には、必ず報復があるのだと。


「それに、これは私にしかできない、重要な任務とも言えるな。……ラディウス国がロイラック王国に攻め入っている混乱に乗じて、2人は『暗黒の種』を消滅させればいい。……レイル、その作戦には私が打ってつけであろう?」


ずっと黙って話を聞いていたレイルは、セルカ殿下の言葉に逡巡したのちに頷いた。セルカ殿下は、ラディウス国の騎士団総括なのだという。

つまり、セルカ殿下の声一つで国中の騎士を操れる。

今考えた作戦だろうけど、何とも妙案だった。


「ただ、サエにお願いがある。……ラディウス国の暗黒魔術の穢れを払ってほしい。これだけは、国民を守るためにお願いしたい。……あとは協力を惜しまない。」


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

処理中です...