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第五章 それぞれの想い

人の足音

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「っ?!!!」

「っな?!!」

再会した頃合いを見計らったように、ついさっきまで二人で座り込んでいた地面が、忽然と消えた。驚く暇もないまま、僕たちは2人で宙に投げ出された。


凄まじい風圧と一緒に、僕とレイルは高いところから地面へと落ちていく。真っ逆さまに頭から地面に向かっていった。

レイルは僕を抱きしめたまま、さらに腕に力を入れていた。僕を庇うように強く腕に力が籠る。服や髪は下からの風で勢いよく翻る。


落ちていく視界の中で確認できたのは、僕たちが夜空ではなく昼のように明るい空に投げ出されていること。

そして、先ほどまで僕たちのいたはずの黒い塔や、魔王城が何語も無かったかのように消えていること。眼下には、遺跡の跡地のような瓦礫が広がっている。


草が生えて所々しか見えない石畳に、このまま落下すれば直撃は免れない。地面が刻一刻と迫る仲、レイルが魔力を纏おうとして切羽詰まった声を上げた。


「……くそっ!魔力が……。」

僕の治癒では、魔力までは回復出来ない。おそらく、魔力が足りなくて魔法が使えないのだろう。


このままでは、地面に叩きつけられてしまう。僕は、身体の奥底から魔力を呼び起こした。白銀色の光が僕の全身を包み込む。

この聖魔術は、イメージがとっても大事なのよと、セレーネに教わった。


「__#、__♪___!」

僕が呟いた音に、近くにいた精霊たちが反応する。僕たちの身体を襲っていた急降下していく風が止み、ぐるんっと頭と足が逆になった。


そのまま宙に二人とも留まる。バサバサという音が聞こえて、僕は音のする自分の背中を振り返った。


「良かった……。」

僕は聖魔術を発動した。
空を飛ぶ、翼がほしいと歌ったのだ。


この歌を歌うときは、自分が空を飛んでいることと、空を飛ぶための羽根をイメージすることが大事。羽根は蝶でも、コウモリでも、虫でもなんでもいい。


でも、僕が一番イメージしやすいのが純白の鳥の羽根だった。
僕の背中には今、純白の鳥の翼が生えている。

セレーネと一緒に練習したときには「サエにピッタリね!とても似合っているわ。」と言われて、居た堪れなくなったのを覚えてる。


僕は風を器用に掴みながら、空中ではためいて止まった。


「……なっ?!……そうか、サエは天使だったのか……。」

レイルは僕の背中ではためく純白の羽根を見て、目を見張ったあとになぜか納得していた。


ちょっと、なんで納得するの?!

僕はそんなんじゃないよ。
それに、この羽根はちょっと恥ずかしいんだ。


「違うよ。聖魔術。……もう、恥ずかしいんだってば……。」

僕はレイルの背中に腕を回しながら、ゆっくりと地面に着地した。周囲を確認して、改めてここがどこなのかと混乱する。


支えるものを失った折れた石柱に、行き先のない螺旋状の階段。地面には陽の光を反射してキラキラと散る、紫色の粒が見えた。


僕たちは荘厳な魔王城にいたけれど、今のここは朽ちた石柱に、草に埋まった石畳しかない。倒れている石柱を見てみると、魔王城で見た装飾が施されていた。


ここは、魔王城の跡地。遺跡なのだろう。


まるで、狐につままれたような、白昼夢を見ていたような、不思議な感覚だった。きっと、僕たちが最初に見た荘厳な魔王城は幻想で、これが今現在の魔王城の姿だ。


2人で周囲を見回していた、その時だ。

レイルが突然、素早く僕にフードを被せた。そのまま、瞬き一つの間に双剣を握って、横に薙ぎ払う。


カキンッ!という甲高い音とともに、火花を散らして何かが弾かれる。カランっと地面を滑っていったものは、ギラりと光る刃物だった。


「……サエ、動くな。」

レイルは背中に僕を庇うように立ち上がって、両手に双剣を構えていた。頭上にはレイルが作り出したのか、何本もの短剣が並んでいる。


さっき治癒したばかりだから、まだ無理しちゃだめだ。
それに、魔力もほんの少ししか回復していないのに……。


コツ、コツ、と朽ちた石畳に足音が響いた。
その音は複数人のようで、不規則に鳴り響く。レイルの背中で見えないけれど、大勢の人の気配を感じた。


レイルの背中から顔を出して、フード越しに前方を確認する。


「……レイル、随分と勝手をしてくれたな。おかげで仕事が山のように増えた。」

冷淡な知らない男性の声が、レイル越しに聞こえた。レイルの背中に隠れながら正面を見遣ると、そこには黒色の制服を着た中年男性が立っていた。


「……隊長。」


ラディウス国暗殺部隊隊長。レイルの上司。

呟いたレイルの声音は、いつになく張り詰めていた。レイルのこんなにも警戒した声を、僕は今まで聞いたことが無い。


それほどまでに、目の前の人物が危険だということが窺えた。


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