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第五章 それぞれの想い

武器展開 (レイルside)

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死霊たちはそれぞれの手に、杖や長剣、弓矢を握っている。姿勢を低く構えながら、俺は魔力を練り出して集中する。


漆黒の騎士が、深紅のマントを翻しながら素早く突進してきた。瞬く間に間合いに入って来たかと思うと、ブンっ!という音とともに俺目掛けて槍を振り降ろす。


「……早い。」

歴戦の猛者を思わせるほど、黒騎士の動きは迷いがなく俊敏だ。振り下ろされた槍の先からは、灰色の炎がゆらりと舞い、部屋の霞をさらに白くする。


上体を低くして攻撃を躱し、短剣で槍をはじき返した。すぐに鎧騎士は体勢を整えて、俺に何度も切りかかる。

視界の端では魔導士と思われる杖を持った死霊が、杖を高々と上に持ち上げ魔法を発動しようとしているのが見えた。


死してなお、この地に地張り付けられている騎士と魔導士。長剣と槍を構えた死霊が、鎧騎士の攻撃の合間にこちらへ切り掛かってくる。


鎧騎士と死霊たちを、同時に相手をするのは面倒だ。
まずは、死霊たちを黙らせることにしよう。


「……魔力喰らい」

魔力を練り上げた俺は、紫色の雷を帯びた球体を3つ部屋に出現させる。死霊の数に合わせて作り出したそれは、黒色の突風を起こして死霊たちを吸い上げていった。


グワァァァァっー!!!

人間の呻き声のような悲鳴を上げながら、魔力喰らいの球体に吸い込まれていく。死霊たちの手に持っていた武器が、カラカランっと軽い音を立てて地面を滑った。

紫色の球体は死霊たちを飲み込むと、一気に圧縮して姿を消す。


魔力喰らいは、文字通り魔力を吸収する魔法だ。魔力のあるものを独りでに感知して吸い上げる。魔力が少ない死霊達ならば、消滅できるだろうと踏んだ。


目の前の黒騎士が、宙に浮く球体を見るように首を動かす。そして、静かに槍を再び構え直した。

風切り音とともに、鎧騎士は槍を横に薙ぎ払う。槍の刃体から灰色の炎が燻り、人間の頭部の骨のような形をした斬撃が周囲へと飛んだ。

程なくして灰色の頭部は、火の玉のように宙に揺らめき、部屋を満たしている霧が炎に吸い寄せられる。


ほどなくして、先ほど姿を消した死霊たちが再び姿を現した。地面に落ちていた武器たちは、吸い寄せられるように死霊たち手へと戻っていく。俺はその様子に思わず舌打ちをした。


「……厄介だな。」

鎧騎士を倒さなければ、死霊たちは永遠に蘇ってくる。

俺は宙に複数個、紫色の怪しげな球体を作り出した。魔力喰らいの球体は、死霊たちを勝手に吸い込んでは消滅させていく。しばらくは、これで持つだろう。


それを横目に見ながら、俺は目の前の鎧騎士の動きに集中する。鎧騎士は灰色の炎を槍に纏わせながら、次々と俺に攻撃を仕掛けてくる。

槍での打突に加えて、灰色の炎を燻らせて火球を飛ばしてくる。俺はその炎を空中で身体を捩じらせつつ、俺は両手に握りしめた短剣に魔力を流し込んだ。


短剣では明らかにリーチが足りない。


「……展開。」


俺がそう呟いた直後、両手に握っていた短剣を囲うように、黒色の魔法陣が姿を現す。連なった魔法陣の輪は、紫色に光り出し短剣にもその色を移していく。

魔力を流された短剣がしなやかに伸びて、膝上ほどの長さの長剣に姿を変えた。光も吸収するほど、艶も無い漆黒の双剣が俺の両手に握りしめられる。


その武器を見た鎧騎士が、ギシっと僅かに動きを鈍らせた。


持主の意思に応じて変形する古代のアーティファクト、『幻想の双剣』。

長さを変えるだけではなく、槍、斧、鎌など、持主がその時に使いたいものを念じると、双剣は変幻自在に姿を変える。さらには、魔力を流す量に応じて武器の本数も自由に操れるのだ。


暗殺において、これほど便利な武器はない。王宮に眠っていたこの武器は強い魔力と闇魔法を必要とし、さらに下手に使用すれば武器に自身を切り刻まれる。

いわゆる、いわくつきの代物だった。


今まで誰も使用する者がいなかったが、俺が握った瞬間に武器が魔方陣を発動して、主は俺だと指名された。それからずっと、この武器を使っている。


横に薙ぎ払われた槍の攻撃を躱し、足を踏み入れる。隙をついて胴体に近づくと、紫炎を燻らせた双剣で複数回、腹部の鎧を斬りつけた。

紫炎からは黒色の飛沫が飛び、斬撃として鎧を襲う。シューっという溶解する音とともに、騎士の腹部の鎧が煙を立てて溶けた。鎧騎士の横を通り抜け背後に回る。

一度距離を取ると、鎧騎士の首がゆっくりと後ろを振り返った。


頭部の鎧に隠れた目が、なぜか怒気を孕んでこちらを見ているような気がした。ギシギシと金属の擦れ合う音の中、男の喉から唸る声が聞こえる。


『……なぜ…、あのお方の双剣を手にしている……!』


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