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第四章 過去と現実
道中
しおりを挟むギキィェエー!!!!
仲間の断末魔を聞いたハーピーたちが、群れを成して迫りくる影が見える。全員が、威嚇と怒りの咆哮を上げる。バサバサと忙しない羽ばたきの音が、どんどんと近づいてくる。
「邪魔だ。」
背後からレイルの淡々とした声が聞こえた。
羽根をビュンっ!と閉じる音とともに、正面、左右からもハーピーの羽根が風を切る鋭い音が聞こえた。鉤爪がギラリと光り、鋭い先端が僕たちに向かう。
僕は、レイルの魔力が動いた気配を感じ取った。
「っ?!!」
そう、レイルの魔力を感じ取ったときには、既に終わっていた。
ハーピーたちは、悲鳴を出す暇さえも与えられなかった。
僕たちに迫っていたハーピーの身体が、突然何かの引力に引っ張られるように後ろへと飛んだ。その心臓部分には、墨のように黒い短剣が、背中まで貫いて刺さっている。
後ろのほうでドサッという重い音が聞こえ、ビクッと身体を強張らせて振り返る。ハーピーは、僕たちの後ろからも襲い掛かろうとしていたようだ。
石橋の上には、短剣が刺さったハーピーが緑色の血だまりを作って倒れていた。ピクリとも、動かない。
左右から迫っていた2匹は、勢いよく心臓を貫かれて、反動で橋の外側へと身体を投げだされていた。口から血を出して、瞳孔の光を陰らせながら下へと落ちていく。
何が起きたのか、全く分からなかった。
それぐらい、音もなく、気が付かなかった。
一瞬にしてハーピーたちは、寸分たがわずに心臓を貫かれて死んでいた。
レイルの魔法なのは、魔力の残滓でかろうじて分かるけど、何も見えなかった。
「……闇魔法?」
「まあな。」
レイルは淡々と答えた。
エストの赤色の毛が再び熱を帯びると、エストの足元から灼熱の炎が立ち昇る。炎を足に纏わせて、さらに加速した。
襲い来るハーピーを、エストとレイルが倒しながら進む。やっと魔王城の城門が見えてきた。3階建てのビル程はあるだろうか。大きな深紅の扉。
扉には、羽を広げたドラゴンが花を抱えているロゴが、黒色のインクで大きく描かれている。扉は固く閉じられ、さらに門に被せるように茨の鉄格子が施されている。
このまま激突すれば、大けがをしてしまう。
僕は、右手を上げて、近づく城門のほうへ翳した。
正確にいうなれば、僕ではない。
僕の身体の中で、こうしろと促されているような。
こうするのが当然であるかのように、身体が勝手に動くんだ。
「クレイス」
唇から音が紡がれる。鍵を意味するその言葉。
僕の右手から、魔力が発せられるのを感じた。茨の鉄格子がカチカチ、という音を立てながら横へ開いていく。
深紅の扉に描かれていた紋章が、下から光を発して金色へと姿を変えていった。
やがて、紋章が金色に輝く。
ゴォオゴォオーーーー。
地面を覆う土煙と轟音と共に、深紅の城門が開かれた。
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