17 / 72
第二章 出会い、隠し事
告白
しおりを挟む「できた!」
「かんせーい!」
双子が、小さな手をパチパチと叩いて喜んでいる。僕もそれに合わせて拍手を送った。
双子の石の芸術作品が、とうとう完成した。
それは、とても綺麗な円の模様だった。大きな円の中に、星や月、太陽を思わせる絵が小さな石で幾つも描かれていた。
大小の石を組み合わせた、複雑で繊細な線。一見するとゴチャついているように見えて、歯車が噛み合わさったように、それぞれのマークが綺麗に収まっていた。
僕の左手をステラが、僕の右手をシエルが握りしめ、夜の庭へ僕を案内してくれる。双子は僕の手を離すと、二人で揃って1つの石に指をちょんっと乗せた。
美しい淡い緑色の光が、一閃となって地面の石へと移っていく。石が1つ1つ光り出して、やがて地面に光の模様が現れる。暗い夜に、淡い緑色がぽうっと優しく灯った。どことなく優しくて、自然の木洩れ日を思わせる暖かな光だ。
「すごいでしょ!」
「……すごいでしょ。」
ステラが「ふんっ!」と小さな胸を張って、自信満々に宣った。シエルも真似をして、腰に手を当てて、「んっ。」と胸を張っている。
2人とも渾身の出来に、とても満足しているようだ。
僕は、目の前の美しい光景に言葉が出なくなる。呼吸をするようにそれぞれの石が、ぽう、ぽう、と光を放つ。
それがまた、淡くて綺麗で。寒空の暗い闇に、星が穏やかに瞬いているように見えた。
『……すごい。とても綺麗だよ。ステラ、シエル。』
言葉で言い表せない、ずっと見ていたいくらい幻想的だった。2人は僕に近づくと思いっきり抱き着いてきた。僕は2人を胸に抱きとめると、ぎゅーっっと抱きしめる。
「サエ、喜んでくれた?」
「……サエ、うれしい?」
2人は僕のために、この芸術作品を作り上げてくれたようだ。その事実に、また心が震える程嬉しくなる。2人を抱きしめていた手に、力が籠った。
『……うん。すごく嬉しい。ありがとう。』
目頭が熱くなって、じんわりと視界が滲むのを必死に耐える。僕を喜ばせようとしてくれた双子の、心優しさが身体にじんわりと染み渡った。
双子は顔を上げると、にっこりと僕の目を見て笑った。
「サエがうれしいと、ステラとシエルもうれしい!」
「……サエが笑うと、シエルとステラもうれしい。」
空色の瞳と、星色の瞳がキラキラと輝く。自然界の美しさを閉じ込めたような、こんなにも美しい瞳。それを2つも持ち合わせた奇跡の子供たち。人を優しく純粋に想う、清らかな心。
どうしてこの国の人は嫌うのか。
僕には全く理解できない。
『……僕も、2人が笑顔だとすごく嬉しいんだ。2人が僕といてくれるだけでも、とても嬉しいんだよ。……ステラ、シエル、大好きだ。』
ステラとシエルに、僕のありったけの想いを告げる。2人とも嬉しそうに、柔らかなほっぺを赤く染めてはにかんだ。
この子たちに、僕が出来る限りの愛情を伝えたい。しばらく皆で抱きしめ合っていると、ふと、エストが足元にやって来た。
すりっと僕の足に、毛足の長い柔らかな黒い頬を摺り寄せる。
「ライが来た。」
「……ライが来た。」
僕の背後を見ながらそう言った双子につられ、俺も立ち上がって振り返る。
そこに立っていたのは、冷たく冴えざえとした夜闇を連想させる、大人びた男。透き通るようなシルバーグレーの髪が、風に靡く。とても上質な絹糸のように、柔らかそうだ。
「サエ。」
形のよい唇が、少しだけ柔らかさを帯びた低い声で、僕の名前を呼んだ。深紅の瞳が、ひたと僕を見据える。ルビーという至極の宝石に似ているのに、奥には金の細かな粒子が降り注ぐ。
神秘の瞳は、この世界で見たものの中で、
一番美しいと僕は思っている。
静かに研ぎ澄まされ、鋭利な刃物を思わせる目元。濃紺の神官服を翻し、夜闇に佇む美青年。
今日、僕はライに伝えたいことがある。
『……シエル、ステラ。ライと話したいことがあるんだ。2人とも、僕の部屋で待っていて。』
「……わかった。」
「……うん。待ってる。」
シエルとステラを、もう1度ぎゅうっと抱きしめる。
手をそっと放すと、二人はパタパタと走り出す。ライの近くを通り過ぎて、部屋へと続く扉を開けた。双子が庭から姿を消したところで、俺は近くまで来たライに向き直った。
「……完成したのか。」
庭で淡い緑色の光を放つ模様を、ライは目を細めて見ていた。ルビーの瞳に、淡い光が映りこんでいる。それが、何処までも綺麗だった。
『……うん。ステラとシエルが今日完成したって。僕に見せてくれた。……すごく綺麗でしょ?』
先ほどの嬉しさがこみ上げてきて、僕はライに笑いかけながら話をする。ライは僕の左頬に、皮手袋を外した手を伸ばす。頬に触れた手が、そっと俺を上向かせた。
「………ああ、綺麗だ。」
僅かに、ライの口角が上がる。冷酷そうに見えて、僕はこの人がいかに優しい人なのか、身を持って知っている。
最近はライも僕の前で、ほんの少し微笑んでくれるようになった。魔法が上達していることを褒めてくれて、頭を撫でてくれるのが大好きだった。
僕を気遣って食事に果物を追加してくれたり、魔力回復のお茶や飲み物を作ってくれるのも嬉しかった。
言葉数は少ないし、口も悪いことが多いけど。1つの仕草に幾つもの優しさが込められていることが、何よりも冷えた僕の心を癒してくれた。
今まで、こんな感情を人に抱いたことなんてなかった。
冷めきった関係の両親を見てきた僕が、まさか1人の人に。
胸を直接、熱をおびた手で掴まれるような、
苛烈な心の痛みと。
息を詰まらせてヒリつくような、
温もりを渇望する切なさ。
涙が自然と溢れるように、満ちて震える感情。
その全てが、たった1人の存在で、
その人を想うだけで波のように押し寄せる。
だから……。
『……ライ……。』
頬に触れるライの手が暖かい。
この手が、手袋越しじゃなくなったのは、何時からだろうか?彼が少しでも、心を許してくれていると感じられて、自然と心が綻んだ。
僕の左頬を包んでいた手を、そっと掴んで離してもらう。僕はライの両手を握った。一まわり大きな手は、無骨で男らしい。
この手に、何度安心させられたことだろう。
「……なんだ?」
名前を呼ぶと、答えてくれる。ライは手を引くこともなく、僕の好きなように身体を委ねてくれていた。出会ったころより、随分と距離が近くなった。ルビーの瞳が、訝し気に僕のことを見据えている。
僕の手は微かに緊張して震えている。
それでいて、心は風のない湖のように、とても静かだった。
僕は、ライの両手を自分の首元へと導いた。
ライの両手の平が、僕の喉を包み込めるように、僕の両手でしなやかな指を開いてもらう。
大きい手は、僕の細い首を囲った。
美しい金の粒子が輝く、紅色の宝玉には、
今、僕しか映っていない。
それが、なによりも幸せだ。
シエルにステラ、ライと過ごした時間は、穏やかで。
傷ついた僕の心に、温かな風を起こしてくれた。
双子から、とても素敵なプレゼントもされた。
そして、胸の焦がれるような恋を、貴方からもらった。
貴方を愛していると。
とても幸せだという、想いを込めて。
僕は、言葉を紡いだ。
『……ライ、お願い。僕を殺して。』
静かに微笑んで、僕はそう告げたのだった。
122
お気に入りに追加
1,078
あなたにおすすめの小説
神獣の僕、ついに人化できることがバレました。
猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです!
片思いの皇子に人化できるとバレました!
突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。
好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています!
本編二話完結。以降番外編。
追放されたボク、もう怒りました…
猫いちご
BL
頑張って働いた。
5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。
でもある日…突然追放された。
いつも通り祈っていたボクに、
「新しい聖女を我々は手に入れた!」
「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」
と言ってきた。もう嫌だ。
そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。
世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです!
主人公は最初不遇です。
更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ
誤字・脱字報告お願いします!
【完結】雨を待つ隠れ家
エウラ
BL
VRMMO 『Free Fantasy online』通称FFOのログイン中に、異世界召喚された桜庭六花。しかし、それはその異世界では禁忌魔法で欠陥もあり、魂だけが召喚された為、見かねた異世界の神が急遽アバターをかたどった身体を創って魂を容れたが、馴染む前に召喚陣に転移してしまう。
結果、隷属の首輪で奴隷として生きることになり・・・。
主人公の待遇はかなり酷いです。(身体的にも精神的にも辛い)
後に救い出され、溺愛されてハッピーエンド予定。
設定が仕事しませんでした。全員キャラが暴走。ノリと勢いで書いてるので、それでもよかったら読んで下さい。
番外編を追加していましたが、長くなって収拾つかなくなりそうなのでこちらは完結にします。
読んでくださってありがとう御座いました。
別タイトルで番外編を書く予定です。
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
ようこそ異世界縁結び結婚相談所~神様が導く運命の出会い~
てんつぶ
BL
「異世界……縁結び結婚相談所?」
仕事帰りに力なく見上げたそこには、そんなおかしな看板が出ていた。
フラフラと中に入ると、そこにいた自称「神様」が俺を運命の相手がいるという異世界へと飛ばしたのだ。
銀髪のテイルと赤毛のシヴァン。
愛を司るという神様は、世界を超えた先にある運命の相手と出会わせる。
それにより神の力が高まるのだという。そして彼らの目的の先にあるものは――。
オムニバス形式で進む物語。六組のカップルと神様たちのお話です。
イラスト:imooo様
【二日に一回0時更新】
手元のデータは完結済みです。
・・・・・・・・・・・・・・
※以下、各CPのネタバレあらすじです
①竜人✕社畜
異世界へと飛ばされた先では奴隷商人に捕まって――?
②魔人✕学生
日本のようで日本と違う、魔物と魔人が現われるようになった世界で、平凡な「僕」がアイドルにならないと死ぬ!?
③王子・魔王✕平凡学生
召喚された先では王子サマに愛される。魔王を倒すべく王子と旅をするけれど、愛されている喜びと一緒にどこか心に穴が開いているのは何故――? 総愛されの3P。
④獣人✕社会人 案内された世界にいたのは、ぐうたら亭主の見本のようなライオン獣人のレイ。顔が獣だけど身体は人間と同じ。気の良い町の人たちと、和風ファンタジーな世界を謳歌していると――?
⑤神様✕○○ テイルとシヴァン。この話のナビゲーターであり中心人物。
[長編版]異世界転移したら九尾の子狐のパパ認定されました
ミクリ21
BL
長編版では、子狐と主人公加藤 純也(カトウ ジュンヤ)の恋愛をメインにします。(BL)
ショートショート版は、一話読み切りとなっています。(ファンタジー)
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる