異世界で魔道具にされた僕は、暗殺者に愛される

雨月 良夜

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第二章 出会い、隠し事

双子の置き石

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ライに魔法を教わって、僕は寝る前にも魔力操作の練習をした。魔力操作は、文字通り魔力を自在に操る訓練だ。

無属性魔法は、この魔力操作が肝らしい。自分の思い通りに魔力を動かすためには、イメージが一番大事。

お腹の底に、温かな熱が滞留するのをイメージする。そして、自分の指先に移動させる。指先から物へと魔力を流す。これを、指先だけではなく、足先、目などからも出来るように訓練するんだ。


『鑑定』はモノや人に触れて行う魔法らしいけど、僕は人に触れられない。相手が触れさせてくれるとは、到底思えない。


だから、目に魔力を集中して情報を読み取れるようにする。これが集中力をかなり使うから、僕はいつも訓練中に眠りについてしまう。


ライからは、魔力操作の筋が良いって褒められたんだ。魔力操作の訓練をすると疲れる。だけど、ライが褒めてくれたことを思い出すと、が然とやる気が出る。


もっとライに褒められたい。


魔力操作を覚えたら、昼間の暗黒魔術の使用も、ある程度自分で抑えられることに気が付いたんだ。前までは、石にただ魔力を注いでいた。

今は、黒くなったギリギリのところで魔力の放出を止められるようになったんだ。以前よりも、黒い石の中に淀みが少なくなった。


一見すると、真っ黒な石になるから、神官たちは石の中の暗黒魔術が薄くなっているのに気が付いていない。

これで、少しでも穢れた魔力の効果が弱まってほしい。


魔力操作の訓練と、魔法の練習をして2ヵ月くらいが経った。
この国も冬に季節が変わった。僕が転移してきたのは秋の初めころらしい。

この地域では雪が降らないらしいが、冷え込むことに変わりはない。


「サエ、寒くない?」

「……ステラとシエルが、温めてあげる。」


僕と色違いの、お揃いのコートを着たステラとシエルが、僕の両隣にくっついた。ぎゅうぎゅうと、小さな身体を押し付けてくるから、おしくらまんじゅう状態だ。

子供体温が暖かい。


『すごくあったかい。それに、ふたりとも可愛い。』

ぎゅーっと二人を一緒に抱きしめると、腕の中で「「きゃーっ!」」とはしゃぐ声が聞こえた。


エストも僕に走り寄ってきて、ちょんっと右肩に乗る。そのまま、僕の首に長い尻尾を撒いてマフラー替わりになってくれた。モフモフの上質な、とっても暖かいマフラーだ。


今は夕食を終えて、双子と一緒に遊ぶ時間だ。今日はライが、遅い時間まで別の仕事が入っているようで、この場所にいない。

だから、魔法の練習も中止になった。
ライがいないのは、少し寂しい。


少し寒いけど、ステラとシエル、エストと一緒に庭に出て、いつも通りに遊んでいた。皆で冬用の長袖の服を着ているから、防寒もばっちりだ。これは、ライが用意してくれた。


「エストはサエの傍にいて!」

「……ステラとシエル、今日も石。」


シエルの言葉が足りないから、双子が石になってしまった。

シエルとステラの、地面に石で絵を描く遊びは、いよいよ大詰めを迎えているらしい。庭には大きな四角が交わった、多角形の星みたいな模様が描かれていた。


大小さまざまな石を使ったそれは、とても繊細で幼子が描いたとは思えないほど綺麗だ。四角の中には、アラベスク模様や、円、三日月のような柄もある。


シエルとステラは、芸術の才能があるのかもしれない。


いそいそと芸術活動に勤しむ双子を、壊れかけのベンチに座りながら眺める。


僕は『鑑定』を発動した。この2か月間で、僕の魔法の実力は確実に上がった。最初は簡単な火を出したり、飲み水を出すぐらいしかできなかった。


今は、こうやってモノの情報を読み取れるまでになった。
といっても、『鑑定』を覚えたての当初は、庭に生えている木を触っても、「木」としか情報が出なかったけど。


最近は触れるだけで、その木の名前から、生きている年数、どういった特徴があるのか、詳細な情報が頭の中に浮かんでくる。


僕はさらに磨きをかけて、ついに数週間前、対象に触れなくても、見るだけで情報を読み取れるようになったのだ。ふと、興味本位に2人が並べた石を鑑定してみる。


_______________________________________

●シエルとステラの置き石
状態:良好
置かれた期間:3か月
詳細:シエルとステラが置いた石。魔力が込められている。固定の魔法が施されている。
_______________________________________


思わずクスクスと笑ってしまった。魔力を込めているのは、何か仕掛けがあるのかな。固定の魔法は、僕が最初に動かしたからだろう。2人のこだわりを感じる。

僕は、首でマフラーになっているエストを、そっと膝の上に置いた。


『……エスト、君に鑑定をしてもいいかな……?』

エストは僕の言葉を分かっている節がある。エストに念話で話しかけると、僕のほうへと顔を向けて、こくんっと一度頷いた。


「キュ」

いいよ、と言うように一度だけ鳴いたエスト。僕がエストの頭に手を乗せると、嬉しそうに頭をすりすりと擦りつけた。


『痛かったり、違和感が合ったら鳴いてね。すぐに止めるから。』


もう一度、念話でエストに話しかけると、もう一度コクンっとエストは頷いた。僕は、エストをそっと地面に降ろした。


身体が触れ合わない様にして、鑑定を発動する。
実は、動く生物に鑑定を施すのは、初めてのことだった。


_______________________________________

●エスト

状態:良好
年数:50年
生物名:黒狐、聖獣ヘルハウンド
詳細:闇の聖獣。レイル・モルゲンレーテの使役獣。魔法を使用できる。闇全般の魔法が得意。
_______________________________________

……???


僕よりもだいぶ年上だった。
不思議な生き物だと思っていたけど、エストは聖獣だったらしい。すごく強そうで高貴な感じがする。あとでライに聖獣について教えて貰おう。

今は、それよりも……。


『……レイル・モルゲンレーテ……?』


エストはライの使役獣だと、言っていなかっただろうか?
レイル・モルゲンレーテという人物の名前に、心当たりはない。


足元のエストを見てみると、長い黒耳をふよりと動かして、小首を傾げていた。鑑定に失敗しているようには感じない。

詳細がしっかりと情報として入ってきているからだ。


エストと一緒に小首を傾げていると、庭に続くドアがカチャリと開けられた。


「遅くなった。……双子はそろそろ帰れ。」


音がしたほうに顔を向けて、僕は一瞬固まった。


「はーい。じゃあね、サエ」

「……またね、サエ。」

双子が庭からパタパタと走って、玄関に向かう。それを僕も呆気に取られながら、手を振って見送った。


大きな荷物を抱えたライは、すれ違いざまに双子に赤い果物を渡した。栄養満点のリンゴに似た果物だ。双子が嬉しそうに両手で受け取ると、ドアの向こうへと消えていく。


僕はそれを、ただ見送った。


「……?おい、どうした?サエも食べたいのか?」

ライが近づいてきて、紙袋の中から双子にあげたのと同じ果物を取り出す。赤く丸い果実を受け取るときに、ライの指先に触れた。

今日は手袋をしていない。
ゴツゴツとした、男の人らしい手だった。


『………うん。』

「……大丈夫か?今日は早く休め。顔色が悪い。部屋まで送る。」


ライは右手で僕の頬を労わるように撫でた。ルビーの瞳が僕をじいっと見つめている。そのまま手を引かれそうになったところを、寸前で僕は腕を後ろに振って躱した。


『……えっ、と、大丈夫……。おやすみ、ライ。』

「……?ああ、おやすみ。」


ライの視線を背中に感じながら、僕は部屋へと戻った。


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