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第二章 出会い、隠し事

決意

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今は夕食後の時間。双子とライ、エストを交えて、僕は魔法の練習をしていた。


「サエの魔力は、すごく綺麗だよ。」

「……サエの魔力は、キラキラしてる。」


ステラとシエルが、両手を広げて僕が降り注がせた小雨を浴びていた。楽しそうに走り回っている。暗黒魔術と、あの花と蝶の魔術以外は、僕はてんで魔法は使えなかった。


せめて、ライと双子を守れるくらいには、魔法を使えるようになりたかった。


ライとあったあの日以降、心に決めたことがあった。


この世界に、この国に、できる限り抗ってやると。

魔法を極めれば、僕にかけられた首輪を破壊できるかもしれない。僕と関わった双子やライたちを、いざというときに守れる。


花と蝶の魔法も、毎日途切れることなく行った。

ライと双子たちにも、あの魔法を見せると3人とも驚いた顔をしていた。どうやら、皆も見たことのない魔法だったらしい。

ステラとシエルが見たいとよくせがむから、3人の前で祈りを捧げることが習慣になった。


「……今日はここまで。……エストは、相変わらずサエにべったりだな。」


僕が休憩のために、傾いているベンチに座った途端、「キューっ」と鳴いて黒いモフ体が膝の上にトンッと降り立った。僕を見上げるアーモンド形の瞳は、夜闇でも良く分かる黄金色だ。


エストの見た目は、一見するとキツネ。だけど、キツネよりも耳がやや長く、風に靡くほどだ。

毛は艶やかな黒色。黒色の所々に、赤色の毛が混ざっていてお洒落さん。首元にも、赤色の毛が縦線のように複数混ざっていて、それが独特の模様にも見える。


ポフポフとして丸みを帯びた尻尾。尻尾を触らせてもらうと、それはもうモッフモフで、温かくて。毛足の長い毛布をぎゅうっと抱きしめているような、もっと幸せな気分になれる。


『かわいい。エスト。』


いつも気が付くと、僕の足にすり寄ってくる。ふわりとした、その頬づりしたくなるような毛並みが、今日も風に揺れてほわほわしていた。

抱きしめると温かくて、頭を撫でると「キュー」と嬉しそうに目を細めるのが、すごく可愛いんだ。


エストに癒されつつ、ベンチで休憩しているとライが湯気の立つコップを僕に差し出した。


「……飲め。」

『ふふっ。ありがとう。』

ライが持ってきてくれたのは、ほんのり甘い果実水だ。魔力の回復に良いらしい。いつもライが作ってくれる。


ぶっきらぼうなライにお礼を言いながら、僕はコップの中身を一口飲んだ。暖かい。甘さが身体にじんわりと染み渡る。


ベンチで休みながら、双子の様子を見ていた。

シエルとステラは、最近、庭に石を置いて遊ぶことがブームのようだ。僕が石を動かそうとすると、「動かしちゃダメ!」と二人に怒られた。

何日も石を並べているから、何か大作を作っているらしい。完成したら、僕にも見せてほしいな。


『……美味しいよ、ライ。』

僕はもう一口果実水を飲んで、隣に座るライを見上げた。

透き通るような銀糸の髪が、風に靡いている。さらさらと流れる糸は、とても上質な絹糸のように、柔らかそうだ。すらりとした鼻筋に、幾分か年上の大人な雰囲気が漂う。


月の精霊だと言われても、信じてしまいそうなほどに美しい顔貌。でも、どことなく、漆黒を思わせるのは、なぜだろう。


「……そうか。」

短く返事をしながら、ライは僕の頭の上に手を置いてポンポンと撫でた。言葉は多くないライだけど、ちょっとした仕草に優しさを感じるんだ。


それが、僕にとってはこの上なく嬉しい。
もし、僕に兄がいたら、こんな感じなのかなって思ってしまう。

何よりも、ライは呪いの魔道具である僕を恐れない。ただ、普通の人間として接してくれる。それ以上に、優しさを向けてくれる。


……隣国との大戦が始まれば、きっとライも、双子も戦渦に巻き込まれる。

僕は、この国が正直言って好きじゃない。あの下卑た王に、人を実験台にする宰相が治める国など、はっきり言って嫌いだ。


でも、この3人だけは……。
ライ、ステラ、シエルだけは大好きだ。


だから、僕は3人を守るために、あの、禍々しい石の用途も知りたいし、暗黒魔術自体の詳細も知りたい。
蝶と花の魔法の意味も、確かめたい。


そうすれば、自分の中に巣食っている、黒真珠の呪いを消滅させることができるかもしれない。


そして、叶うなら。
3人が戦いに巻き込まれない様にしたいんだ。


ライは確かこう言っていた。無属性魔法を極めた人は、見たモノの情報を文字として頭に浮かべさせることができると。


まずは、自分の力や、周囲の状況を僕はもっと知る必要がある。僕は、俗にいう『鑑定』魔法を極めることにした。





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