上 下
7 / 72
第一章 異世界転移、渾沌

暗黒魔術、生きた魔道具

しおりを挟む



言う事を聞きたくない。

そう、思ってしまったのが、いけなかったらしい。


バチバチバチっ!!!!


『~~つっ!!』

突然、首輪の金属から電流が燻る音が聞こえた。そして、次の瞬間には僕はその場に、思いっきりうつ伏せでバタンっ!と倒れ込んだ。

肌を突き刺す激痛が、一瞬にして全身を駆け巡る。あまりの痛さに、息が止まる。立ってなどいられず、変に身体を痙攣させたまま、起き上がることができない。


「ふん。我らに歯向かおうとするからだ。……ただ、大人しく従っていればいいものを。」


呆れたようにふんっと鼻を鳴らし、嘲笑う宰相の声が聞こえた。僕の目の前に、宰相が着ている服の裾が揺れる。革靴の足先を僕の顎下に差し入れ、痺れて動かない僕の顔を無理矢理上に向かせた。


ギョロリとして目は、愉快気に目の端が細くなっていた。蛇だ。どこまでも狡猾で、獲物に絡みついて窒息させる蛇。


紫色の薄い唇も、横に長く線を引き、端をヒクつかせながら吊り上げている。


「……立て。歯向かえば、また雷が流れるぞ?」

あんな激痛が駆け抜ける衝撃を、もう感じたくない。

僕は、必死に痺れる手を床につけて、何とか立ち上がった。周りにいる騎士たちは、ただ黙って僕のことを見ている。

その視線には、明らかな侮蔑と嘲笑が混じっているのを、ひしひしと肌で感じた。


王の視線は殊更に気持ちが悪い。
僕の苦しむ様子を、なぜか王は楽し気に、口角を吊り上げて見ていた。頬を紅潮させて興奮気味に見ている。鳥肌が立つのが止められなかった。


祭壇に手をつきながら、ふらつく身体を何とか支えた。
震える右手を伸ばして、ガラス板に右手の平をピタリとつける。


平らな面に触れた瞬間、身体から何かが抜け出ていく感覚がした。腹の底から温かな空気が逆流して、手から出ていくような、なんとも言えない熱。


手の平が触れているガラス面から、黒色の線が、シュルリ、シュルリと動いて一人でに模様を描いていく。


驚いてガラス板から手を離したけど、黒色の線はそれでも模様を描き続けていた。透明なキャンパスに、植物のツタが黒色で描かれていく。


まるで生きているように蠢くそれに、僕は後ろに下がってたじろいだ。目の前で起きていることに、恐怖を通りこして寒気がしている。

カタカタと身体は震えた。


渦巻くツタの先、黒い葉。ガラスを侵食するように広がるそれは、最後に数輪の黒い花を咲かせた。8枚の花びらを広げた、鉄線花(てっせんか)に似ている。


明らかに、花は良いモノではないと分かるのに、
皮肉なまでに美しい。


「っ!やはり、暗黒魔術を使えるぞ!しかも、最上級ではないか!」


王は興奮したようにガラス板へと近づき、舐めまわすのではないかというほど、八花をうっとりと眺めていた。


「私の推察どおりです。これは、ラディウス国侵略の基盤となりましょう!」

あの無気力で覇気のない宰相さえも、青白い顔を紅潮させて興奮気味に叫んでいる。


異様なまでに興奮して沸き立つ、穢れた人たち。


僕の顔はきっと青ざめていた。
この人たちを喜ばせる、何か邪悪なものに、
僕は成り下がってしまったようだ。


僕は右手を左手で覆い、カタカタと震えが止まらない身体を何とか鎮めようとする。手が冷たい。


ひとしきり興奮して話をしていた王と宰相は、やがて僕へと視線を向けた。その欲望にまみれた視線に、ひゅっと息が詰まった。


「ふはははっ!喜ぶが良い!お前は生きながらにして、呪詛の魔導具になったのだ!!」


あははははっ、と欲望と狡猾が混じった笑い声が、王と宰相の声が、神のいる広間へと響き渡る。天使の羽根を背中に生やした神の彫刻は、口角を吊り上げて笑っていた。


僕の頭の中には、ある言葉が反芻する。


『呪詛の魔道具』


僕は、ココがどこかも、どんな世界かも知らぬまま。
呪詛の魔道具という、おぞましい道具にされた。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

保護猫subは愛されたい

BL / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:553

優しい時間

BL / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:431

俺の天使に触れないで  〜アルと理玖の物語〜

BL / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:829

嫌われ者の俺はやり直しの世界で義弟達にごまをする

BL / 連載中 24h.ポイント:631pt お気に入り:7,379

処理中です...