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第一章 異世界転移、渾沌
暗黒魔術、生きた魔道具
しおりを挟む言う事を聞きたくない。
そう、思ってしまったのが、いけなかったらしい。
バチバチバチっ!!!!
『~~つっ!!』
突然、首輪の金属から電流が燻る音が聞こえた。そして、次の瞬間には僕はその場に、思いっきりうつ伏せでバタンっ!と倒れ込んだ。
肌を突き刺す激痛が、一瞬にして全身を駆け巡る。あまりの痛さに、息が止まる。立ってなどいられず、変に身体を痙攣させたまま、起き上がることができない。
「ふん。我らに歯向かおうとするからだ。……ただ、大人しく従っていればいいものを。」
呆れたようにふんっと鼻を鳴らし、嘲笑う宰相の声が聞こえた。僕の目の前に、宰相が着ている服の裾が揺れる。革靴の足先を僕の顎下に差し入れ、痺れて動かない僕の顔を無理矢理上に向かせた。
ギョロリとして目は、愉快気に目の端が細くなっていた。蛇だ。どこまでも狡猾で、獲物に絡みついて窒息させる蛇。
紫色の薄い唇も、横に長く線を引き、端をヒクつかせながら吊り上げている。
「……立て。歯向かえば、また雷が流れるぞ?」
あんな激痛が駆け抜ける衝撃を、もう感じたくない。
僕は、必死に痺れる手を床につけて、何とか立ち上がった。周りにいる騎士たちは、ただ黙って僕のことを見ている。
その視線には、明らかな侮蔑と嘲笑が混じっているのを、ひしひしと肌で感じた。
王の視線は殊更に気持ちが悪い。
僕の苦しむ様子を、なぜか王は楽し気に、口角を吊り上げて見ていた。頬を紅潮させて興奮気味に見ている。鳥肌が立つのが止められなかった。
祭壇に手をつきながら、ふらつく身体を何とか支えた。
震える右手を伸ばして、ガラス板に右手の平をピタリとつける。
平らな面に触れた瞬間、身体から何かが抜け出ていく感覚がした。腹の底から温かな空気が逆流して、手から出ていくような、なんとも言えない熱。
手の平が触れているガラス面から、黒色の線が、シュルリ、シュルリと動いて一人でに模様を描いていく。
驚いてガラス板から手を離したけど、黒色の線はそれでも模様を描き続けていた。透明なキャンパスに、植物のツタが黒色で描かれていく。
まるで生きているように蠢くそれに、僕は後ろに下がってたじろいだ。目の前で起きていることに、恐怖を通りこして寒気がしている。
カタカタと身体は震えた。
渦巻くツタの先、黒い葉。ガラスを侵食するように広がるそれは、最後に数輪の黒い花を咲かせた。8枚の花びらを広げた、鉄線花(てっせんか)に似ている。
明らかに、花は良いモノではないと分かるのに、
皮肉なまでに美しい。
「っ!やはり、暗黒魔術を使えるぞ!しかも、最上級ではないか!」
王は興奮したようにガラス板へと近づき、舐めまわすのではないかというほど、八花をうっとりと眺めていた。
「私の推察どおりです。これは、ラディウス国侵略の基盤となりましょう!」
あの無気力で覇気のない宰相さえも、青白い顔を紅潮させて興奮気味に叫んでいる。
異様なまでに興奮して沸き立つ、穢れた人たち。
僕の顔はきっと青ざめていた。
この人たちを喜ばせる、何か邪悪なものに、
僕は成り下がってしまったようだ。
僕は右手を左手で覆い、カタカタと震えが止まらない身体を何とか鎮めようとする。手が冷たい。
ひとしきり興奮して話をしていた王と宰相は、やがて僕へと視線を向けた。その欲望にまみれた視線に、ひゅっと息が詰まった。
「ふはははっ!喜ぶが良い!お前は生きながらにして、呪詛の魔導具になったのだ!!」
あははははっ、と欲望と狡猾が混じった笑い声が、王と宰相の声が、神のいる広間へと響き渡る。天使の羽根を背中に生やした神の彫刻は、口角を吊り上げて笑っていた。
僕の頭の中には、ある言葉が反芻する。
『呪詛の魔道具』
僕は、ココがどこかも、どんな世界かも知らぬまま。
呪詛の魔道具という、おぞましい道具にされた。
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