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第一章 異世界転移、渾沌

水の中、声がする

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バシャッ、バシャッ、バシャッ!


眩しい光を発した水しぶきの勢いは止まらない。とうとう、僕の腰辺りまでも飲み込もうと沸き立った。


その瞬間、身体の力がガクンッと抜けて、水たまりに足を入れ込む。僕の全身を波立った水が覆いつくす。視界いっぱいに、水の壁が広がった。


「っ?!?!」

制服の裾が大きく翻り、髪が上に靡いた。下に思いっきり身体を引っ張られている。高いところから落とされるら無理やり重力に逆らう浮遊感が僕を襲う。


「な、……にっ?!」

地面になぜか、僕は急激に近づいた。藻掻くことさえできない圧力で、身体が地面に埋まっている。凄まじい引力に、僕は目をぎゅっと瞑ってしまった。


パシャンっ。

最後に水が跳ねる音が聞こえて、僕は完全に水たまりの中に入ったのだと分かった。



コポッ。


くぐもった音が、そこかしこから聞こえる。

僕の頬を、ポコッとした何かが上へ撫でていく。引き込まれていた風が途端に止んで、今度は、両足が持ち上がるように浮いた。身体も、なんだか柔らかに、揺蕩っているような感覚に変わった。


急すぎる環境の変化に、頭が追い付かない。目を開けるのも、なんだか怖かった。


一体、自分の身に何が起こっているのだろう……。


もう一度、僕の頬を何かが撫でたから、僕は堪らず目を開いた。そして、この揺蕩う浮遊感の正体に、目を見張る。


……水の中だ。

海の中でも、底へ近いと思わせる暗い青色。僕の頬を先ほどから撫で上げていたのは、コポコポっと、何処からともなく湧き出る水泡だった。


こんなにも静かで仄暗いのに、なぜか周囲の様子は良く見える。冷たそうな見た目とは反対に、水の中は揺蕩いたくなるほど、心地よい。


さっきまで、僕は道を歩いていた。
どこにでもある、何の変哲もない水たまりに、
不幸にも足を突っ込んだ。

それだけだ。
それだけのことの、はずなのに……。


どうして、僕は水の中に……?


僕は、何かの拍子に転んで頭をぶつけたのだろうか。倒れて、夢を見ているのかもしれない。それなら、水の中で呼吸ができることにも、合点がいく。


水の中で周りを見渡しても、下から気まぐれに生まれる水泡しか見えない。僕以外には、生き物の何も気配がしない。


混乱な頭の中で思考を繰り返していると、突然、真下から水泡が激しく沸き立った。いくつもの水泡が僕の身体に当たり、目の前が細かな泡で見えなくなる。

ブクブクと大小の泡が容赦なく僕に当たる。魚の群れのように、一気に水泡が僕の身体を、駆け抜けていった。少し痛いくらいの衝撃だ。思わず、自分の身体を縮こまらせた。


一体、なんなのだろうか……。


呆気に取られながら、水泡を見送っていると、ふと、視界の端にふわりっとしたものが映った。青白い光の、ほわりとした丸い光。僕の両手で包み込めるほどの大きさだ。


綿のように柔らかい印象の光は、この水中と随分と似ている。穏やかで、包み込むように優しい。


ふわり、ふよりと、浮いていたその光は、上からサラサラと砂のように崩れていった。零れた銀色の粒子が、僕の足元から渦を巻いて、キラキラと全身を覆っていく。

光輝く粒子が、やがて僕全体を包み込んで、ぼんやりと身体中を銀色に発光させた。足の先から頭の先まで、ほんのりと暖かい。


訳の分からない光。でも自然と怖くない。

ぼんやりと光る自分の手の平を見ていると、耳に微かな音が聞こえた。この水中でも、音がくぐもっていない。
よく澄んだように感じる。


それは、人の声だと何故か理解した。


「……______。」

「……えっ?」


僕以外に、この水中には誰もいない。

でも、確かに聞こえるんだ。


それは、あまりにも泣きそうで、哀しくて。聞いているだけで胸が締め付けられるような、切実な声だった。


「……か、れを、××××。」


女の人の声が、途切れ、途切れに言葉を紡いだ。頭の中に直接響く。最後のほうが聞こえない。


彼とは、誰のこと?
貴方は僕に、どうしてほしいの?


疑問を口にしようとしたけど、再度、下から沸き立った水泡に阻まれた。僕の身体は水の中を、水泡の群れと共に一気に浮上した。







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