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第9章 魔王討伐戦、全員無事に帰還せよ

魔物との衝突、第一関門突破

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「前方に、バルベリトの出現を確認!溶岩が吹き上がる!!」

気泡を生み出しては弾けるを繰り返す溶岩から、突如として頭上を越える高い火柱が、間欠泉のごとく何本も飛沫を飛ばして吹き上がった。

火柱の先端から黒色の弾丸が勢いよく空に放たれる。赤黒い溶岩を黒々と艶めく羽根で跳ね飛ばし、大きく羽ばたいた異形が、空中に姿を現すと産声の咆哮を上げた。


コウモリの羽を持った人間型の魔物、『悪魔の使い』という異名を持つバルベリトは、鼻の潰れた顔を醜悪に歪めた。耳まで裂けた口は弧を描き、長い舌とギザついた歯を見せつける。鳥の足についた猟奇的で鋭い鉤爪は、嬲って引き裂く獲物を探している。


「防御結界、発動!!」

魔導師たちが一斉に、橋の左右と上空へ一杖を向けた。白金の粒子が舞う魔力が透明な薄い膜の波紋を広げながら上空も覆うと、キンッ!という甲高い音を立て波紋が瞬時に収まる。討伐部隊を囲うドーム型の防御結界が姿を現した。虹色に光を反射する透明な魔力に、細かな聖魔法の金粉が清らかな輝きを放つそれは、オーロラのように美しい。


その防御結界を嘲笑うように、耳まで裂けた口を歪めた一匹のバルベリトが、突如として空中で大きな羽根を閉じた。バルベリトは一目散にアヤハへと急降下し、防御結界ごと襲おうと迫りくる。醜く歪んだ異形の顔が、アヤハの頭上の防御結界に当たった直後だ。


ギャァヤァァァァーーーーー!!!!

防御障壁に衝突したバルベリトが、耳障りな断末魔をあげながら白金色の粒子の火渦に飲まれていく。やがて力を失って、赤黒い飛沫を上げながらマグマへと墜落した。


「……さすがはアヤハの聖魔法を組み込んだ魔法だ。魔物が弱体化していく」

エストが水魔法でアヤハの頭上に防御結界を張りつつ、感嘆の声を上げてた。

俺たちに同行している魔導士たちの杖には、聖魔法を付与した魔石が組み込まれている。アヤハがこの戦いのために、毎日毎日作り続けていた魔石だ。聖魔法は、触れるだけでも魔物の力削り消耗させていく。


飛行する魔物たちは、透明な障壁に阻まれ獲物を捉えられず怒りの咆哮を上げながら、ヤケクソに攻撃を仕掛けてくる。強固な防御結界はびくともしない。魔物を蹴散らしながら誰一人として負傷すること無く、鮮血のような赤い魔王城の門が迫ってきた。


「チっ……!邪魔な奴等がいるな……」

ヴィンセントが舌打ちをして、忌々し気に呟いた。
紅い魔王城の門の前には、黒色の影がひしめき合って蠢いているのが見えた。血走った眼は狂気を孕んで、ただ乾くほどの飢えと、血肉を欲して涎を溢れさせた魔物の狂乱の群れだ。そして、魔物の集団の中でも異彩を放つ巨体が2体、門番のごとく立ちふさがっている。

兜を装備した豚型の大型魔物オークが、門の左右で巨大な斧を構えて俺たちを睨みつけていた。口の端の鋭利な牙を剥き出しにして、緑色の身体を震わせながら甲高い咆哮を俺たちへ放つ。このまま、門を強行突破するのは難しい。

俺が魔力を練り上げるより早く、後ろから冷気を感じて振り返った。アトリが頭上に右手をかざし、片手程に圧縮した氷魔法の球体を上空に出現させていた。


「着弾させます。副団長、頼みましたよ」

アトリがそう言うや否や、右手を前へ振りかざす。上空にとどまっていた拳大の冷気が、門前に群れる魔物の上空へ弾丸のごとく放たれた。水色の冷気は、瞬きの内に巨大な氷岩に変化し、魔物たちの群れに墜落する。

魔物たちの悲鳴がした直後、肉と骨が潰れる鈍い音が複数聞こえた。次の瞬間には、俺の後方から熱い魔力が凄まじい速さで横を通し過ぎていく。


「おうよ」

アトリに短く返事をしたジェイドの声で、俺は先ほど自分の横を通り過ぎた火魔法の魔力がジェイドの放ったものだったと気が付いた。

赤く燃える魔力が魔物を押しつぶした氷岩に着弾した瞬間、凄まじい爆発で大気が震えた。非常に低温な物質に、高温の物質が接触したことによる激しい爆発で生じて視界を白い水蒸気が遮る。


オークが被っていた兜が宙に弧を描き飛んで、石橋へ鈍い音を立てて転がった。アウルムが風魔法で煙を払うと、呆れたようにため息を吐く。


「まったく、お前たちは本当に慈悲がないな……」

魔物独特の緑の鮮血が、真っ赤だったはずの魔王城の門を緑色に染め上げていた。魔物がいたはずの場所には緑の血痕と、所々かけた門番の兜しか残っていない。爆発によって、魔物が消滅している。


……本当に、アトリとジェイドがこちらの味方で良かった。この2人が組むと、攻撃が冷徹過ぎてビビるんだよな……。


「今のうちに門の中に突っ込むぞ!!」

ヴィンセントの合図で、俺たちは馬を駆けさせるスピードを一段と上げた。魔王城の門は、俺たちを招き入れるかのように重い音を引きずりながら内側に開いていく。開いた門の隙間を滑り込み、俺たちは魔王城の門内へと駆けこんだ。次々と戦士たちが駆けこみ、最後1人が門を通り過ぎる。


「急いで、門を塞げ!!」


騎士たちが一斉に門を手で押し、魔導師たちが杖を扉へと向けて風魔法を放つ。門に向かって黒い影が波のように押し迫ってくる。魔物の軍勢があと数十メートルに差し掛かった瞬間、重厚な扉が重い音を立てて閉まった。扉の向こう側で魔物たちが悔しそうに歯軋りをする音が聞こえた。


魔王討伐部隊は、誰一人として欠けることなく第一関門『悪路の石橋』を突破した。




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