144 / 201
第8章 乙女ゲームが始まる
厳つい騎士団員と子猫(サイコな暗部隊長side)
しおりを挟む
(サイコな暗部隊長side)
医務室の悲痛な叫び声は、探されている当の黒い子猫には全く届かなかった。
ヒズミとモモンガが潜り込んだ隠し通路は、少し狭くて薄暗い。人間は目が暗さになれるまで時間がかかるけど、夜目が効く猫とモモンガなら余裕といったところかなぁ?
ちょんっ、ちょんっと跳ねて進む小さな白いモフモフは、時々後ろを振り返ってヒズミが追い付くのを待って進んでいた。モモンガは迷った素振りを見せず、隠し通路をどんどん進んでいく。
ヒズミをどこに連れて行く気なんだろう……。
白いモフモフと黒いモフモフが、仲良く道を進んでしばらく、モモンガとヒズミは隠し通路を抜けて、学園の中庭を横切る外廊下に身を躍り出した。
シンプルな欄干と柱が続く外廊下には、隠し通路がない。さすがに、天井裏へヒズミは登れなかったか……。
外廊下の右側は、青々とした芝が広く生い茂った原っぱだ。そこには屈強な男たちが武器を手に、地面を蹴って攻撃を仕掛けていた。騎士たちの気迫ある声と剣が交わる鋭い金属音で中庭が満たされている。
学園に泊り込みで勤務している騎士たちが、空いている時間を利用して中庭で訓練をしているのだ。
ヒズミはモモンガを見てしばらく考えこむと、うんしょっと、両手で持ち上げた。自分に引き寄せるようにぎゅっとモモンガを抱きしめる。フワフワの白色の尻尾がヒズミのふっくらとしたほっぺを一撫ですると、ヒズミはくすぐったそうに笑った。
小動物と猫獣人の子供を組み合わせると、犯罪級に可愛いよねぇ。もう、攫っちゃおうかなぁ??
モモンガを抱きかかえたまま、ヒズミは目の前の長く続く廊下の先を、大きな観葉植物の裏からじっと見つめた。今は授業中だから、当然生徒の姿は見えないし、騎士たちも訓練に夢中で外廊下へと目を向けている者はいな……あーー……。
ヒズミは背丈ほどある観葉植物の鉢からひょっこりと顔だけ出して前を見ると、意を決したように隠していた身体を廊下に現した。小さな歩幅で一歩力強く踏み出す。
二歩目を歩みだそうとした足は、地面に着地しないで宙を空振りした。小さな身体が宙をひょいっと浮いた。後ろから大きな人影が被さる。
「……おーい、何してんだ?黒猫のちびっこ」
翡翠色のウェーブがかった髪を靡かせた青年が、ヒズミの背後から両脇の下をがっちりと掴んで持ち上げた。ヒズミが胸に抱きしめていたモモンガは、ヒズミの手から離れ瞬時に物陰に隠れた。
突然のことにヒズミは目を見開いて、身体が固まってしまっている。そのまま、大人しく持ち上げられている姿は、まさに捕獲された猫状態だ。
翡翠色の瞳を瞬いて、緑風騎士団副団長のジェイド・ドゥンケルハイトは振り返ったヒズミを見返している。
「……にゃー……」
ヒズミはジェイドに振り返ると、尻尾を下に垂らして、離して……と抗議するようにか細く鳴いた。三角お耳も力無く垂れていて、可哀そう可愛い。
ジェイドは「……ぐっ?!」と呻き声を上げると、ヒズミを向かい合わせにして抱きしめて頬ずりをする。
「随分と可愛いなあ……。にしても、黒猫の獣人なんて珍しい」
黒を身体に纏っていること生き物自体が、この世界では珍しい。黒猫を見たときは幸福が訪れると言われているほどだ。
うりうりと猫耳に頬ずりされたヒズミは、片方の目を閉じて「ふにゃ」と嬉しそうに鳴く。人に触れられることが大好きな甘えんぼ猫さんのようだ。
「ジェイド、どうした?その獣人の子供は?」
ほんのりと汗をかいた男が、中庭に続く階段を上って姿を現した。紺色の短い髪をした長身の男は、ジェイドの腕の中にいるヒズミをアイスブルーの瞳で覗きこむ。緑風騎士団長・ヴィンセント・ゼフィロスだ。
「さっき、そこの植木鉢に隠れていたのを見つけたんすよ。可愛いでしょ?……迷子?それとも騎士団員の兄弟かな?」
うん?と優しく問いかけてくるジェイドに、ヒズミはふるふると首を左右に振った。どちらでもないと否定すると、後ろを振り向いて廊下の先を指差す。
「……あっち、……いく」
短いお手々が指した方向を、団長と副団長は揃って見遣った。外廊下は長く続き先にある扉は小さく見える。子供の短い足では、渡りきるのに長い時間がかかりそうだ。ジェイドはしばらく考え込むとニヤリっと笑った。
「あっちに行きたいの?……よーし、こっちのお兄さんが楽しいことをしながら、あそこまで運んでくれるよ」
「なぜ、私に振る……。お前のほうが子供の扱いが得意だろう……」
片方の眉をピクッと動かして僅かに顔をしかめたヴィンセントに、ジェイドは胸の中に抱いていたヒズミをヒョイッと渡した。ヒズミは横抱きにされながら、期待の籠もった紫色の目でヴィンセントを見上げる。
「まあ、これも子供と触れ合う練習っすよ。……この子、団長のこと怖がらないし」
茶目っ気たっぷりにウィンクをかましたジェイドを、ヴィンセントは目を眇めて見つめる。ヴィンセントは無表情で険しい雰囲気だから、子供に泣かれることが殊更多い。数少ない騎士たちと子供が触れ合える行事では、ヴィンセントにだけ子供が集まらなかったという伝説がある。はっ、ざまぁ。
腕の中で大人しく抱かれているヒズミをじっと見つめ逡巡したヴィンセントは、ヒズミの両脇に手を差し込むと上に持ち上げた。ヒズミを自分の頭を股ぐように座らせる。
「しっかり頭に掴まっていろ……。こら、尻尾で頬をくすぐるな。このイタズラっ子め」
ヒズミはヴィンセントに肩車をしてもらい、上機嫌に尻尾をゆらりと揺らした。目線が高くなって楽しいのか、キラキラと紫色の目を宝石のように輝かせ周囲を見渡している。
ヒズミを肩車をしたヴィンセントは、外廊下をゆっくりとした足取りで進んで行った。ジェイドはヒズミとヴィンセントの様子を、クスクスと笑いながら見守っている。
うーん。長身で屈強な男と、超絶可愛い黒猫獣人の子供……。ヴィンセント本人は少し困ってるようだけど、端からみると顔をしかめて肩車しているようにしか見えなくて怖い。シュールだ。
変わった組み合わせの正面から、1人の緑風騎士団員が重そうに紙袋を抱えて歩いて来る。あの騎士は特別訓練の時も見たなぁ……。
確か、緑風騎士団員のヴァンだ。短剣の腕が良いと評判の騎士団員。ヴァンは両手が紙袋で塞がっているため、会釈だけで団長たちに挨拶をすると、ヴィンセントの頭に乗るヒズミへ訝しげに視線を移した。
「……団長、いつの間に子供なんてこしらえたんッスか?ヒズミを狙ってたはずなのに、隠し子なんて不純ッス!!」
ヴァンは軽蔑の眼差しで、ヴィンセントへと言い放つ。会話の中心になっているヒズミは、ヴァンの持っている紙袋の中のものに釘付けだ。真っ赤で艶々と輝くリンゴが、紙袋の中にたんまり入っていた。
「違う。さっきそこで拾ったんだ。隠し子なんかじゃない。……お前はどうなんだ?あの弓使いの青年を狙っていると、もっぱらの噂だが?」
ヴィンセントは隠し子疑惑を否定しつつ、余裕の笑みを浮かべてヴァンをからかう。ヴァンは顔をほんのりと赤らめつつそっぽを向いた。
「リュイシルは奥手だから、ゆっくり口説いてるんッスよ。……手の早い団長たちと一緒にしないでください」
年相応に恋愛をする部下を、微笑まし気に見つめる団長と副団長の頭上で、ポツリと小さな声が聞こえた。
「……りん、ごぉ」
艶々としたリンゴを羨ましそうに見つめ、ヒズミはポロリと呟いた。
「うん?リンゴが好きなの?沢山もらったから、1つあげるよ?」
ヴァンはヴィンセントに肩車されているヒズミに、リンゴを1つ差し出して持たせた。ヒズミはぱっと目を輝かせて尻尾をピンッ!と立てると、リンゴに鼻を近付けて微笑む。
「いい、におい……。あり、あと!」
舌っ足らずのお礼を満面の笑みで放ったヒズミに、ヴァンは目を見開いた。そして、またも疑いの目でヴィンセントを見遣る。
「何、この可愛い子……。うん?さっき拾ったって言ったッスよね?……まさか、誘拐……!!」
ヴィンセントは疑いの目を向ける部下に、軽く嘆息して無言で通り過ぎた。ふるふると身体を震わせて、終始腹を抱えて笑いを堪えていたジェイドを足蹴りし、廊下を進んで行く。
ボクも吹き出しそうになるのを、必死で堪えた。
先ほどまで遠かった外廊下の扉が、ヒズミの目の前に迫る。ヴィンセントが扉を開けて室内に入ると、頭上のヒズミはポフポフと紺色の髪を撫でて呟いた。
「……おりにゅ」
「うん?ここで良いのか?」
ヴィンセントは頭上に乗っていたヒズミを、ゆっくりと優しく床に降ろした。ヒズミは2人に向き直ると、お行儀よく、小さな頭を前に倒してペコリとお辞儀をする。
「ありあと……。じゃあ、ね……!」
片手にリンゴを抱えて、バイバイっと小さな手を振って壁に向かうと、ヒズミはするりと隠し通路に姿を隠す。
「……えっ?消えた??」
「……妖精にでも、惑わされたか??」
2人の困惑の声だけが、静かな廊下に響いた。
医務室の悲痛な叫び声は、探されている当の黒い子猫には全く届かなかった。
ヒズミとモモンガが潜り込んだ隠し通路は、少し狭くて薄暗い。人間は目が暗さになれるまで時間がかかるけど、夜目が効く猫とモモンガなら余裕といったところかなぁ?
ちょんっ、ちょんっと跳ねて進む小さな白いモフモフは、時々後ろを振り返ってヒズミが追い付くのを待って進んでいた。モモンガは迷った素振りを見せず、隠し通路をどんどん進んでいく。
ヒズミをどこに連れて行く気なんだろう……。
白いモフモフと黒いモフモフが、仲良く道を進んでしばらく、モモンガとヒズミは隠し通路を抜けて、学園の中庭を横切る外廊下に身を躍り出した。
シンプルな欄干と柱が続く外廊下には、隠し通路がない。さすがに、天井裏へヒズミは登れなかったか……。
外廊下の右側は、青々とした芝が広く生い茂った原っぱだ。そこには屈強な男たちが武器を手に、地面を蹴って攻撃を仕掛けていた。騎士たちの気迫ある声と剣が交わる鋭い金属音で中庭が満たされている。
学園に泊り込みで勤務している騎士たちが、空いている時間を利用して中庭で訓練をしているのだ。
ヒズミはモモンガを見てしばらく考えこむと、うんしょっと、両手で持ち上げた。自分に引き寄せるようにぎゅっとモモンガを抱きしめる。フワフワの白色の尻尾がヒズミのふっくらとしたほっぺを一撫ですると、ヒズミはくすぐったそうに笑った。
小動物と猫獣人の子供を組み合わせると、犯罪級に可愛いよねぇ。もう、攫っちゃおうかなぁ??
モモンガを抱きかかえたまま、ヒズミは目の前の長く続く廊下の先を、大きな観葉植物の裏からじっと見つめた。今は授業中だから、当然生徒の姿は見えないし、騎士たちも訓練に夢中で外廊下へと目を向けている者はいな……あーー……。
ヒズミは背丈ほどある観葉植物の鉢からひょっこりと顔だけ出して前を見ると、意を決したように隠していた身体を廊下に現した。小さな歩幅で一歩力強く踏み出す。
二歩目を歩みだそうとした足は、地面に着地しないで宙を空振りした。小さな身体が宙をひょいっと浮いた。後ろから大きな人影が被さる。
「……おーい、何してんだ?黒猫のちびっこ」
翡翠色のウェーブがかった髪を靡かせた青年が、ヒズミの背後から両脇の下をがっちりと掴んで持ち上げた。ヒズミが胸に抱きしめていたモモンガは、ヒズミの手から離れ瞬時に物陰に隠れた。
突然のことにヒズミは目を見開いて、身体が固まってしまっている。そのまま、大人しく持ち上げられている姿は、まさに捕獲された猫状態だ。
翡翠色の瞳を瞬いて、緑風騎士団副団長のジェイド・ドゥンケルハイトは振り返ったヒズミを見返している。
「……にゃー……」
ヒズミはジェイドに振り返ると、尻尾を下に垂らして、離して……と抗議するようにか細く鳴いた。三角お耳も力無く垂れていて、可哀そう可愛い。
ジェイドは「……ぐっ?!」と呻き声を上げると、ヒズミを向かい合わせにして抱きしめて頬ずりをする。
「随分と可愛いなあ……。にしても、黒猫の獣人なんて珍しい」
黒を身体に纏っていること生き物自体が、この世界では珍しい。黒猫を見たときは幸福が訪れると言われているほどだ。
うりうりと猫耳に頬ずりされたヒズミは、片方の目を閉じて「ふにゃ」と嬉しそうに鳴く。人に触れられることが大好きな甘えんぼ猫さんのようだ。
「ジェイド、どうした?その獣人の子供は?」
ほんのりと汗をかいた男が、中庭に続く階段を上って姿を現した。紺色の短い髪をした長身の男は、ジェイドの腕の中にいるヒズミをアイスブルーの瞳で覗きこむ。緑風騎士団長・ヴィンセント・ゼフィロスだ。
「さっき、そこの植木鉢に隠れていたのを見つけたんすよ。可愛いでしょ?……迷子?それとも騎士団員の兄弟かな?」
うん?と優しく問いかけてくるジェイドに、ヒズミはふるふると首を左右に振った。どちらでもないと否定すると、後ろを振り向いて廊下の先を指差す。
「……あっち、……いく」
短いお手々が指した方向を、団長と副団長は揃って見遣った。外廊下は長く続き先にある扉は小さく見える。子供の短い足では、渡りきるのに長い時間がかかりそうだ。ジェイドはしばらく考え込むとニヤリっと笑った。
「あっちに行きたいの?……よーし、こっちのお兄さんが楽しいことをしながら、あそこまで運んでくれるよ」
「なぜ、私に振る……。お前のほうが子供の扱いが得意だろう……」
片方の眉をピクッと動かして僅かに顔をしかめたヴィンセントに、ジェイドは胸の中に抱いていたヒズミをヒョイッと渡した。ヒズミは横抱きにされながら、期待の籠もった紫色の目でヴィンセントを見上げる。
「まあ、これも子供と触れ合う練習っすよ。……この子、団長のこと怖がらないし」
茶目っ気たっぷりにウィンクをかましたジェイドを、ヴィンセントは目を眇めて見つめる。ヴィンセントは無表情で険しい雰囲気だから、子供に泣かれることが殊更多い。数少ない騎士たちと子供が触れ合える行事では、ヴィンセントにだけ子供が集まらなかったという伝説がある。はっ、ざまぁ。
腕の中で大人しく抱かれているヒズミをじっと見つめ逡巡したヴィンセントは、ヒズミの両脇に手を差し込むと上に持ち上げた。ヒズミを自分の頭を股ぐように座らせる。
「しっかり頭に掴まっていろ……。こら、尻尾で頬をくすぐるな。このイタズラっ子め」
ヒズミはヴィンセントに肩車をしてもらい、上機嫌に尻尾をゆらりと揺らした。目線が高くなって楽しいのか、キラキラと紫色の目を宝石のように輝かせ周囲を見渡している。
ヒズミを肩車をしたヴィンセントは、外廊下をゆっくりとした足取りで進んで行った。ジェイドはヒズミとヴィンセントの様子を、クスクスと笑いながら見守っている。
うーん。長身で屈強な男と、超絶可愛い黒猫獣人の子供……。ヴィンセント本人は少し困ってるようだけど、端からみると顔をしかめて肩車しているようにしか見えなくて怖い。シュールだ。
変わった組み合わせの正面から、1人の緑風騎士団員が重そうに紙袋を抱えて歩いて来る。あの騎士は特別訓練の時も見たなぁ……。
確か、緑風騎士団員のヴァンだ。短剣の腕が良いと評判の騎士団員。ヴァンは両手が紙袋で塞がっているため、会釈だけで団長たちに挨拶をすると、ヴィンセントの頭に乗るヒズミへ訝しげに視線を移した。
「……団長、いつの間に子供なんてこしらえたんッスか?ヒズミを狙ってたはずなのに、隠し子なんて不純ッス!!」
ヴァンは軽蔑の眼差しで、ヴィンセントへと言い放つ。会話の中心になっているヒズミは、ヴァンの持っている紙袋の中のものに釘付けだ。真っ赤で艶々と輝くリンゴが、紙袋の中にたんまり入っていた。
「違う。さっきそこで拾ったんだ。隠し子なんかじゃない。……お前はどうなんだ?あの弓使いの青年を狙っていると、もっぱらの噂だが?」
ヴィンセントは隠し子疑惑を否定しつつ、余裕の笑みを浮かべてヴァンをからかう。ヴァンは顔をほんのりと赤らめつつそっぽを向いた。
「リュイシルは奥手だから、ゆっくり口説いてるんッスよ。……手の早い団長たちと一緒にしないでください」
年相応に恋愛をする部下を、微笑まし気に見つめる団長と副団長の頭上で、ポツリと小さな声が聞こえた。
「……りん、ごぉ」
艶々としたリンゴを羨ましそうに見つめ、ヒズミはポロリと呟いた。
「うん?リンゴが好きなの?沢山もらったから、1つあげるよ?」
ヴァンはヴィンセントに肩車されているヒズミに、リンゴを1つ差し出して持たせた。ヒズミはぱっと目を輝かせて尻尾をピンッ!と立てると、リンゴに鼻を近付けて微笑む。
「いい、におい……。あり、あと!」
舌っ足らずのお礼を満面の笑みで放ったヒズミに、ヴァンは目を見開いた。そして、またも疑いの目でヴィンセントを見遣る。
「何、この可愛い子……。うん?さっき拾ったって言ったッスよね?……まさか、誘拐……!!」
ヴィンセントは疑いの目を向ける部下に、軽く嘆息して無言で通り過ぎた。ふるふると身体を震わせて、終始腹を抱えて笑いを堪えていたジェイドを足蹴りし、廊下を進んで行く。
ボクも吹き出しそうになるのを、必死で堪えた。
先ほどまで遠かった外廊下の扉が、ヒズミの目の前に迫る。ヴィンセントが扉を開けて室内に入ると、頭上のヒズミはポフポフと紺色の髪を撫でて呟いた。
「……おりにゅ」
「うん?ここで良いのか?」
ヴィンセントは頭上に乗っていたヒズミを、ゆっくりと優しく床に降ろした。ヒズミは2人に向き直ると、お行儀よく、小さな頭を前に倒してペコリとお辞儀をする。
「ありあと……。じゃあ、ね……!」
片手にリンゴを抱えて、バイバイっと小さな手を振って壁に向かうと、ヒズミはするりと隠し通路に姿を隠す。
「……えっ?消えた??」
「……妖精にでも、惑わされたか??」
2人の困惑の声だけが、静かな廊下に響いた。
162
お気に入りに追加
6,033
あなたにおすすめの小説
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ
秋空花林
BL
「ヴィラトリア嬢、僕はこの場で君との婚約破棄を宣言する!」
ワタクシ、フラれてしまいました。
でも、これで良かったのです。
どのみち、結婚は無理でしたもの。
だってー。
実はワタクシ…男なんだわ。
だからオレは逃げ出した。
貴族令嬢の名を捨てて、1人の平民の男として生きると決めた。
なのにー。
「ずっと、君の事が好きだったんだ」
数年後。何故かオレは元婚約者に執着され、溺愛されていた…!?
この物語は、乙女ゲームの不憫な悪役令嬢(男)が元婚約者(もちろん男)に一途に追いかけられ、最後に幸せになる物語です。
幼少期からスタートするので、R 18まで長めです。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる