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第8章 乙女ゲームが始まる
獣人の子供は可愛くて有名だよ?(サイコな暗部隊長side)
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「……もしかして、ヒズミ……??」
リュイシルの問いかけに、黒猫獣人の子供は小さな頭をコクンっと縦に動かして頷いた。
「うそだろっ?!!」
ガゼットベルトの心からの叫びが部屋に木霊する。ベッドにいるヒズミが尻尾を膨らませ、更に涙を瞳に貯める。
「あー……もうガゼット。大きい声出したらだめだよ。ほら、ヒズミ。怖くない、怖くないよ?」
リュイシルは猫耳のついたヒズミの頭をそっと撫でて、赤子ほどの大きさの背中をトントンっと叩いてあやす。くすんっ、とリュイシルの胸の中で鼻をすする音が聞こえる。
「怖がらせて、悪かったよ……ごめんな?」
ガゼットベルトはバツが悪そうな顔をしながら、ヒズミの頭をそっと撫でて謝る。リュイシルの胸元から顔を上げたヒズミは、黙ってコクンっと頷くと、ガゼットベルトに撫でられ気持ちよさそうに目を細めた。
「ふにゃあ……」
猫が撫でられてうっとりしたような声が、ヒズミの小さな口から溢れる。ヒズミがごろにゃーしている様子に、ガゼットベルトがゴクッと喉を鳴らし緊張した面持ちで呟いた。
「……このままじゃ、下手したら死人が出るぞ……」
ガゼットベルトの言葉に、リュイシルも同意とばかりに強く頷いた。
「こんなに小さくなっちゃって……。性格も子供に戻ってるみたいだし、お洋服まで着てるし……」
あやされて少し落ち着いたヒズミを、リュイシルはそっと胸元から離して上から下まで眺める。ボクも服に関しては、ほんとに不思議だなって思ってたんだよねぇ……。状態異常って服まで変わるの??
ヒズミが着ているのは、黒紫色の学園制服。しかも、子供に優しい安全設計にデザインが変わっている。窮屈な金糸刺繍の入った詰め襟は、襟の大きいセーラー服に。スラックスは、尻尾用の穴が空いた半ズボンに。
琥珀色の宝石が下がったネックレスが、ヒズミの首元でキラリと光る。
……こう、なんだろう……。
『絶望の倒錯』のこだわりと、底知れない気合いを感じるなぁ……。
「とりあえず、ヒズミを医務室につれて行こう。あとは先生に報告しないと……。アイトリア先生なら、この状況をすぐ理解してくれるはず……」
しばし思案したあと、ガゼットベルトが神妙に呟いた。
「分かった。僕が、ヒズミを医務室に連れて行くよ」
リュイシルは手近にあった大きめのカバンを手に取ると、そっとヒズミにその口を近づけた。子猫ヒズミがピクッ!と猫耳を動かして反応する。ヒズミは頭をカバンに突っ込むと、中にするりと入っていった。
暗くて狭い場所が好きな、猫の本能が反応したのだろう。
リュイシルは両手にカバンを抱えて、決して落とさないというように大切そうに持った。カバンからひょっこり顔を出して、ヒズミは不思議そうにリュイシルを見上げる。黒色の尻尾の先が、カバンからちょろりと出て動いてた。
「……ヒズミ、かくれんぼしよう。僕が良いって言うまで、カバンの中に隠れていて?顔も尻尾も出しちゃダメだよ?」
ヒズミはコクンッと頷くと、カバンの中にそっと頭を入れ、続いて尻尾もカバンの中に納まった。「とっても良い子だね」と、リュイシルはヒズミに優しく微笑んだ。
リュイシルは弟がいるからか、子供の扱いになれているなぁ……。
ガゼットベルトとリュイシルは、部屋の外で別れるとそれぞれ別々の方向へと歩き出す。ボクはリュイシルの後を天井裏から追うことにした。医務室へと辿り着いたリュイシルは、周囲に人がいないことを確認して、「もう、いいよ」と合図を送る。
ヒズミがカバンの中からひょっこり顔を出すと、学校保健師の男は驚きのあまり診察椅子から転がり落ちた。
「上手にかくれんぼ出来て、ヒズミは偉いね」
リュイシルが頭を優しく撫でると、ヒズミは「ふにゃっ」と鳴いて嬉しそうに笑う。気を取り直した学校保健師が、リュイシルの膝に座った黒猫ヒズミを真剣な顔つきで診察し、健康には問題ないと告げた。リュイシルから安堵の溜息が漏れる。
その直後に複数の足音が近づいてきて、医務室の扉が勢いよく開かれた。ベージュ色の髪を僅かに乱した青年と、銀色の髪を靡かせた男子生徒が、慌ただしく医務室へと入ってきた。
「……1学年Aクラスのヒズミが、体調不良で運ばれたと聞きました。健康状態に問題はないですか?」
扉を開けて入って来たアイトリアは、努めて冷静に学校保健師へと問いかける。その後ろには、宰相の息子であるエストレイアが、心配げな面持ちで室内を見回していた。
2人に続いて医務室に入ってきたガゼットベルトは、頭を搔いてリュイシルに苦笑いをして説明している。なんでも、アイトリアを探している際に、エストレイアにばったりと出くわし、ヒズミに何があったのか問い詰められたらしい。
……そういえば、宰相の息子もヒズミに好意的なんだっけ?あの頭脳明晰で、誰にでも冷たいクソガキがこんなに他人へ興味を抱くなんて珍しいもんねえ。
ヒズミの姿が見えないことに、部屋に入った2人は当惑した様子だった。リュイシルが入り口へと振り向いた瞬間、目を見開いて面白いように固まった。
「……あとり、えすと……!」
小さなお手々を振りながら、ヒズミは嬉しそうに微笑んで2人の名前を呼んだ。
「「ぐぅっ……?!」」
その途端、アイトリアとエストレイアの胸にズキューンと矢が刺さったような幻覚が見えた。二人仲良く胸に手を当てて、苦し気なうめき声をあげる。
「幼いヒズミに、猫耳なんて……。『絶望の倒錯』は一体何を考えているんですか!!」
胸の大ダメージから一早く回復したアイトリアは、ヒズミを見ながら思わずといったように唸った。
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