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第6章 友達の家に遊びに行きます、夏休み後半戦
魔王城、信じてほしい
しおりを挟む「……魔王城だ」
頭の中の結論が口から零れて、ぶるりと寒気が全身を駆けた。ソルを含めた英傑たちと聖女が、死闘を繰り広げる場所。
そう分かってしまえば、ダンジョン内の魔物が少ないのも頷けた。おそらく魔王城を完成させるためのエネルギーとして、ダンジョン自体が生息していた魔物を取り込んでいる。
俺の掠れた声は思いの外小さかったようで、幸い聞き返す者が誰もいない。その後も、皆と一緒に平静を装いつつ、ダンジョン内を探索した。
「……おしっ!そろそろ切り上げるぞー」
オルディさんの一声で、俺たちは急ぎ足で地上へと戻った。魔物が少なかった分、ダンジョンマップの更新が随分と捗ったと、オルディさんは喜んでいた。
新たに記載されたダンジョンマップは、やはり記憶の中の魔王城と形がよく似ていた。帰りの馬車の中で、皆の話に耳を傾けつつ、俺はずっと思考に耽っていた。
300年に一度、前代の英傑たちが施した封印が解けて、魔王は地上へと姿を現す。魔王の復活と同時に、世界を滅ぼすための基盤となる魔王城も出現する。これは、図書棟の秘密の部屋にあった古文書にも書かれていた。
そして、確かその文章はこう続いていたはずだ。
『魔王城が出現すると、周辺の村や街が魔王城の放つ邪気に包まれる。邪気の及んだ街には魔物が向かい、やがて魔物に支配される』
魔王城が出現すると、その一帯も魔王の配下である魔物たちが群がる。魔王城から放たれた邪気に当てられ狂暴化した魔物たちは、血肉と住処を求めて村や街を襲撃するのだ。
リュイとガゼットの領地は、ここから馬車で2時間ほど。距離的には離れてはいるが、魔物の襲撃に合う可能性が高い。人間が住まう場所で、最も魔王城に近いのがこの2つの領地だからだ。
魔王の復活まで、一年しか猶予がない。
一刻も早く、リュイとガゼットに知らせなくては……。
……でも、一体どうやって?
この世界でも研究が進められているが、魔王城の出現場所も、出現時期も本来は予測不可能とされている。それを俺が知っているだけでも、不審に思われるだろう。
最悪、悪い冗談だと一蹴されてしまうかもしれない。
しかし、今伝えなければ手遅れになってしまう。
信じてもらうためには、どうすればいい?
行きは長かった道のりが、帰りは驚くほど短く感じた。リュイの実家に到着すると、考えをまとめたいと速足で部屋へと向かう。焦燥が俺の身体と頭を落ち着かせてくれない。
気持ちだけが焦る中、俺が部屋に入ろうとした直前、後方からソルに手を引かれた。
「……ヒズミ、部屋に入ってもいい?」
ソルの琥珀色の瞳が、まっすぐと俺を射抜いた。いつも俺を優しげに見る瞳に、心配の色が写っている。俺が黙って頷くと、ソルが俺をエスコートするように一緒に部屋に入った。
思考がまとまらない中、ソルと隣同士でソファに座る。俺の両拳を柔らかい体温が包み込んだ。ソルの体温が熱いと感じる。それほどまでに、自分の両拳は冷たくなって微かに震えていた。
ソルがぎゅっと俺の両手を握って、ゆっくりと問いかけてくる。
「……ヒズミ、さっき言っていた『魔王城』ってどういう意味?」
俺はソルの言葉に、はっと目を見張る。どうやら、一番近くにいたソルには、俺の独り言が聞こえていたらしい。
俺が逡巡して黙ったままでいると、ソルは握った俺の手の甲を優しく親指で撫で擦った。俺が言葉を発するまでゆっくりと黙って待ってくれる。
ソルも、魔王城について無関係とは言えない。
早く知っておいて越したことはないのだろう……。
俺は意を決すると、顔をあげてソルを見つめた。琥珀色の瞳は、依然として俺を心配している。
「……今日行ったあのダンジョンは、あと1年で魔王城になる……」
ソルが俺の言葉に息を飲む気配がした。ソルにとっても、この話は突拍子もないものだろう。しばらくの無言の時間が、俺には怖かった。
「……リュイやガゼットの領地は、魔王城にほど近い。もしも、何も対策を講じなければ、魔王城の出現と同時に魔物に蹂躙されてしまう……」
ソルは、俺の言葉を信じてくれるだろうか……。
この世界でも、俺の一番身近にいてくれたソル。そんな大切な存在に、もしも信じてもらえなかったらと思うと、心が挫けそうだった。
しばらくの沈黙のあと、ソルがゆっくりと口を開く。
「……ヒズミは、それを皆に伝えて助けたいんだね……?」
普段と同じように、ソルは優しげな口調で俺に問いかける。さらに強張った俺の両拳を、ソルが優しく労るように撫でた。
琥珀色の瞳には、侮蔑も嫌悪も、戸惑いもない。いつもと変わらず、陽だまりのように温かく優しい。
まるで、『大丈夫だよ』と言われているようだった。
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