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第6章 友達の家に遊びに行きます、夏休み後半戦
件のダンジョンへ、年配冒険者もイケオジでした
しおりを挟むリュイの実家から馬車を進めて2時間ほどにある、険しい岩肌の火山地帯。地面の表面から熱気が立ち昇り、視界が熱で波打つように歪む。
普通の装備では火傷や熱中症に襲われる過酷な山道を、俺たちは特殊装備で闊歩していた。
「その魔石は本当に凄いな。ダンジョンの掘り出し物かい?」
俺たちに同行してくれている、年配の冒険者オルディさんが皺交じりの目元を細めて俺に問いかける。
白い煙が噴き上がる地面の真横を通り過ぎても、汗1つ掻くことのない俺たちを見て、疑問に思っていたらしい。
「本当に偶然だったというか……。知人に魔法付与が得意な人がいて、その人から貰ったんです」
俺たち4人が身に着けているのは、温度調整機能が付与された魔石のブレスレットだった。実は、この前カンパーニュを出発する前に、アトリから貰ったプレゼントなのだ。
アトリ直々に魔法を組み込んでくれた魔石のブレスレットは、自動で温度調整をしてくれる優れものである。
熱い場所にも寒い場所にも1つの魔石で対応して、身体を適温に保ってくれるのは本当に凄い。
「……その知人を、紹介して欲しいくらいだ」
口数の少ないヨハンさんが、ぽつりと呟いた。2メートルを超える長身でガタイが大きく、基本無表情な男性は、一見不愛想に感じる人も多いと言う。
少し伸びた明るい茶色の前髪は照れ隠しで、合間から見える茶色の瞳はとても優し気だ。今も俺の目線に合わせ、膝を曲げて話をする行動に彼の気質が伺える。
「お二人ともカンパーニュに来たことがあると言っていたのでご存じかと思いますが……。カンパーニュにある冒険者ギルドの副ギルド長です」
「うそだろ?!あの『凍てつく副ギルド長』が?!」
灰色の髪を短髪にして、同じ色の顎髭を生やしたイケオジのオルディさんが、驚きで切れ長のレモン色の瞳を丸くした。
大人の男性の子供っぽいしぐさに、思わずキュンッとする。
この世界はイケメンもそうだが、イケオジ率も多いんだよな……。俺もこういう大人になりたい。
このオルディさんとヨハンさんは、リュイの父のツァールトハイト伯爵が雇っている冒険者パーティーだ。冒険者パーティーレベルはSと高レベルで、なおかつ長年冒険者をしている強者である。
以前、ツァールトハイト領近くにあるダンジョンへ依頼で潜った際に、その腕を見込まれて伯爵の専属冒険者となったそうだ。
2人だけの少数精鋭だが、魔法と武力のバランスがよく、なおかつ冒険の知識と経験が豊富で俺たちに指導もしてくれている。
今回の冒険に際して、事前に俺たちは戦闘訓練を2人に実施してもらった。そこで連携を確かめつつ、今回のダンジョンに行っても良いという許可を貰ったのだ。
「……あの若造も、立派になったな……」
ヨハンさんは感慨深げに頷いた。ヨハンさんとオルディさんは、アトリの若いころの様子を知っているらしい。
なんでも、アトリに窓口で文句をつけてきた冒険者パーティーを、問答無用で氷漬けにした現場を目撃したらしい。
アトリにも、血気盛んなお年頃があったんだな……。
「ここが、例のダンジョンか……」
岩がむき出しの険しい火山の斜面に、突如として現れる鉄で作られた重厚な扉。見上げるほどに高く巨大な両開き扉は、人ではとてもじゃないが開けられそうにない。
「このドアノッカーで扉を打ち鳴らすと、扉が勝手に開くんだ」
俺たちを先導してくれていたオルディさんが、扉に付いたドアノッカーに手をかけた。黒色のバラに、複数の蝶が羽を休めている彫刻。その下に付いた鉄輪を、ドアに向かって3回ほど打ち鳴らす。
オルディさんとヨハンさんは、このダンジョンに何度も潜り込んでいるから、入り方も熟知していた。ドアノッカーが漆黒の鉄扉に、カンッ!という甲高い音を3回響き渡らせる。
最後の一音が鳴り止んだ刹那、地面を揺るがす轟音とともに思い扉が内側に開いた。パラパラと石くずが落ちて、砂埃が視界を覆う。
「話には聞いていたけど、本当に暗いな……」
左隣にいるガゼットが、静かに呟いた。
扉が開かれた先は、紫の炎がゆらりと怪しげに灯る燭台が点々と続いている。闇に紫色の帆能だけが浮かび上がっているように見えるのが、なんとも不気味だった。
まるで、ここで怖じけ付く弱者か試されているようだ。
俺たち4人は、最初から覚悟が決まっていた。
リュイとガゼットは、領地を守るため。
俺とソルは、かけがえのない友人たちを守るため。
この中に、怖じ気付く者などいない。
扉を開けてもなお、俺たちのダンジョンに挑む姿勢が変わらないことを悟ったオルディさんは、真剣な顔で俺たちに告げた。
「……最初の忠告を確認する。このダンジョンは、中に入る度に様変わりする。事前に渡したダンジョンマップに記載がない事柄を見つけた場合、即刻知らせてくれ。決して、手を出したりしないこと。」
冒険者たちの中では、ルールがある。
別々の冒険者たちが1つのグループとなって活動する場合、レベルの高い冒険者たちの指示に従うこと。これは経験の差と安全確保、責任の所在を明確にするためである。
強い冒険者は、それなりの責務を負わなければならない。
だから、冒険者たちは高レベルの冒険者を心から尊敬して慕っているし、馬鹿にする者など一人としていない。
最高レベルのSレベル冒険者となれば、皆が畏怖の念を抱き、目標とする存在するのだ。
「戦闘になった場合は、このパーティーのリーダーになった俺に従うこと。この間貰った連絡用の紙で、全員に指示をする。少しでも変だと感じたら報告しろ」
連絡用の紙は、俺が渡した音声伝達魔法を組み込んだお札だ。全員が心得たと頷きを返すと、オルディさんは背中に背負った槍を身構えた。
それを合図に、全員が納めていた武器を取り出す。
「行くぞ」
怪しげな紫の明かりが浮かぶ闇に、俺たちは足を踏み入れた。
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