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第6章 友達の家に遊びに行きます、夏休み後半戦
モルンの寂しさ、今日はモフモフの下僕
しおりを挟むリュイの実家の玄関を開けた途端、俺の顔面に真っ白な毛並みが勢いよくバフッと覆いかぶさる。
「キュ~~!!!」
顔面から聞こえたのは、今までに聞いたことのないくらい切実で大きな鳴き声だった。ずるずると顔面を、白色のモフモフがずり落ちていく。
俺の胸元までずり落ちると、その小さなお手てで胸元の服にヒシッとしがみ付いた。こんなに甘えるなんて、よっぽど寂しかったのか……。
モルンはぐりぐりと小さな頭を擦りつけると、はっと何かに気が付いたのか一瞬だけ動きが固まる。そして、少し怒ったように服をペチペチと叩いた。
「キュキュ!!」
短くモルンが鳴いた瞬間、俺の身体を爽やかな風が包み込んだ。この魔法は身に覚えがある。
「……おい、あれって洗浄魔法じゃね??」
「……すごい独占欲。誰かさんとそっくりだね……」
俺たちの様子を少し離れた場所で見ていたガゼットが、何とも言えない顔で呟いた。リュイは近くにいるソルをチラッと見ると、肩を震わせて笑いを堪えている。
ソルは、聞こえないフリをしているのか無表情だ。へえー、ソルって独占欲強めなんだな。始めて知った。
モルンは、外出した俺にわざわざ洗浄魔法をかけて綺麗にしてくれたらしい。ほんのり汗ばんでいた肌がサラリと爽快になる。
なんて優しくて良い子なんだ……。
「キュー、キュー!」
モルンが何かを訴えるように俺に話しかけてくる。まるで『さびしかったんだよ!!』と言われているような気がして、なんとも申し訳ない気持ちになった。
「……ごめんな、モルン。心細い思いをさせたな」
俺はモルンのふわふわの身体を抱きしめながら、そっと小さな頭を撫でてやる。
今日の寂しさを埋めるようにベッタリと張り付くモルンをあやしつつ、目の前で寂しそうにしているロランジュを見遣った。
「……さっきまで、ぼくといっしょにあそんでいたの。いい子でヒズミをまっていたのに……。やっぱり、さびしかったんだね……」
オレンジ色の子供特有な大きな瞳が、腕の中のモルンに向けられる。俺はゆっくりとロランジュに近づいてしゃがんだ。オレンジ色の瞳と目が合うように、でも、怖がらせないように努めて穏やかに微笑む。
「ロランジュ様、今日1日モルンのお世話をしてくださり、本当にありがとうございます。……モルンがこんなにも元気でいられたのも、ロランジュ様のおかげです。……なあ、モルン?」
「キュ!」
俺の言葉に、胸にしがみ付いていたモルンが手を離す。ロランジュへと駆け寄るとするりと小さな身体を登り、右肩に乗った。
「ふふっ。くすぐったい!」
モルンがロランジュにお礼を言うように、ふくふくの頬で頬ずりをする。
「……また、あそんでね?モルン」
「キュイ!」
モルンが一声鳴いてロランジュに返事をすると、再び俺の胸へ戻って来る。これは、明日まで離れてくれそうにないな……。
寂しい思いをさせてしまった分、今日は存分に甘やかそう。
そう心に決めた俺は、夕食にお土産のライチをモルンに1つ1つ手づからに、好きなだけ食べさせた。普段、俺に『モルンを甘やかし過ぎだ』と言うソルからは冷たい視線を感じたが、今日ばかりは大目に見てほしい。
そして、夕食のあとはモルンとお風呂に一緒に入った。泡まみれになったモルンの超絶可愛い姿を堪能しつつ、モルンの身体を丁寧に洗った。
その後も、ずっと膝の上でモルンに乞われるままに撫でたり、一緒におしゃべりをして過ごした。モルンの機嫌は段々と良くなり、心なしか尻尾が左右に小さく揺れている。
モルンの話す言葉は分からないようけれど、何となく鳴き声の声音や態度で、気持ちが分かるようになった。出会って間もない頃より、だいぶ親密になれたんだな。
「今日は一緒に眠ろうか?」
「ぷうぷう!」
こうやってぷうぷうと甲高く鳴くときは、ご機嫌で甘えているときだ。俺の提案に、モルンは嬉しそうに甘えた声で鳴いた。
小さなモルンは、可愛らしいリンゴの置物の中で普段は眠っている。旅先でもリンゴの置物はモルンのベッドとして持ち歩いているのだ。
だから、こうして一緒にベッドで眠るのは初めてのことだった。潰さない様に気を付けないと……。
マットレスが身体を包み込むように、柔らかく心地よい。肌触りの良いタオルケットを上掛けにして横になる。
ベッドの上を、ぴょこぴょこと跳ね飛んで遊んでいたモルンが、タオルケットの中に鼻を突っ込んで潜り込んだ。
そこだけ、小さな丸になって膨らむのがなんとも可愛い。ぴょこっとタオルケットから小さな顔を出すと、俺の頬に頭をグリグリと擦りつけた。
尻尾が首に当たってくすぐったい。
「おやすみ、モルン」
「ぷう」
満足げな鳴き声に、思わず俺は微笑んだ。
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