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第6章 友達の家に遊びに行きます、夏休み後半戦

植物園へ出発、モフモフはお留守番になりました

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「モルン、ごめんな。今日はどうしても、モルンを連れていけないんだ…… 」

「キュー…… 」

俺の手に乗っているモルンが、ふわふわの真っ白な尻尾を下にしょげさせて可哀そうな声を出していた。クリクリの黒色の目が、ウルウルと俺を見つめる。

こんなモルンをリュイの実家に置いていくのは忍びないし、罪悪感が半端ないのだが……。
どうしても、今回はお出かけに連れていけないのだ。


「おい、なに今生の別れみたいなことしてるんだよ。たった半日だぞ?モルンも四六時中ヒズミと一緒に居れないし、ヒズミ離れしたほうが……。うわっ!さむっ!!!」

傍で俺たちの様子を呆れ顔で見ながら、ガゼットがやれやれというように肩を竦めた。途端に、ガゼットの頭上に白いふわふわの綿雲が不穏に現れる。綿雲からは雪が横殴りで吹き荒れて、局所的な吹雪がガゼットを襲った。

ガゼットの両肩には、こんもりと雪が積もり始めている。
すごいな。モルンはあんな高度な魔法も出来るのか。


ガゼットとモルンの微笑ましいやり取りを見つつ、俺は手の中のモルンへともう一度視線を移した。


「こんなにモルンが寂しがるのも、珍しいんだよな……  」

モルンを留守番させることは、今までに何度もある。王都の街に出かけるときなんかは、モルンの安全確保のためにお留守番をしてもらっていた。普段は大人しく見送ってくれるのに、今日は『ぼくもいく!ぼくもつれていくのだ!』と言う主張が激しい。


「知らない場所で、ヒズミと離れるのが嫌なのかな?でも、ヒズミも随分と植物園を楽しみにしていたし……。モルン、行かせてあげてよ?」

「………キュゥ……」

不服気そうな一声を呟くと、モルンは小さな背中を丸めて俯いた。リュイの周りにはチラチラと粉雪が舞っている。


モルンが植物園に入れない理由は、その存在の尊さにあった。
なんでも妖精に近い存在のモルンは、他の生き物たちよりも格上らしい。そのため、園内にいる生き物たちが、モルンを見た瞬間にひれ伏したり、驚いてパニックになる可能性があるのだ。

このことを、俺たちは植物園に行く当日にリュイのお兄さんから知らされた。普通の施設や店では、契約魔獣と一緒に過ごせることがほとんどなので、はっきり言って盲点だった。


「おい!俺とリュイの差!!」

遠くでガゼットがガクガクと震えながら叫んでいる。
ガゼットよりも幾分リュイへの扱いが優しいのは、以前にリュイが領地直送の果物をモルンにあげたからだな。


「必ず帰ってくるから。だから、それまで良い子で待っていてくれるか?」

「……キュ……」

手の平に乗っていたモルンが、俺の右親指を小さな手で掴むと寂しそうにすりっと頬ずりをした。どうしよう、やっぱりお出かけするのやめようかな……。


「ヒズミ大丈夫だ。モルンは強いし、何よりロランジュが面倒を見てくれるって」

そう告げるソルの隣で、ロランジュがコクンっと頷いた。オレンジ色の大きな目をキラキラとさせながら、モルンに手を伸ばす。


「キュー……」

モルンはソルにもブリザードを仕掛けつつ、最後は諦めたようにロランジュの小さな腕の中に飛び移った。ロランジュに抱きしめられながらも、未だに黒色の瞳は俺を見上げている。


「……ぼく、がんばってモルンのおせわする」

モルンを優しくひしっと抱きしめたロランジュに託して、俺たちは植物園へと向かった。




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