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第6章 友達の家に遊びに行きます、夏休み後半戦

ウェイターのアルバイト、舞踏会ってキラキラ過ぎる

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俺たちが、高級ホテルでアルバイトをすることが決まった後、数日間はホテルの中で、ウェイターの仕事を学ぶことになった。 

リュイとガゼットは、以前にも手伝いをしたことがあるらしく、手慣れた様子で仕事をこなしていく。俺とソルは先輩たちに教わりながら、賢明に仕事をした。

こういう新人研修みたいなのは、日本でのアルバイトを思い出すな。


今回のアルバイトは、アルカシファ様が俺たち冒険者パーティーに正式に依頼する形を取った。冒険者の実績になるし、俺たちが高級ホテルで仕事をするほど、マナーを身に着けていると知らしめることが出来るからだ。
 
仕事を覚えるのに四苦八苦している間に、あっという間にパーティー開催日を迎えた。


「今日は基本的に飲み物の提供と、お皿の片付けがメインだ。君たちなら大丈夫。そう緊張せずに、頑張ってくれ。」

廊下ですれ違ったアルカシファ様から、そう励ましの言葉を頂いて気合が入った。


一流ホテルの大広間を貸し切りにして、テーブルに豪勢な料理が並べられる。音楽隊の生演奏が披露される空間は、物語で見る煌びやかな舞踏会そのものだ。


「……眩しいくらいだな」

キラリとした光が見えて、俺は頭上を見上げた。見事なガラスのシャンデリアが光を拡散させて広間を明るくする、夜だと言うのに、昼みたいに明るい。

貴族たちの衣装の金や銀、宝石の装飾が、光をさらに反射させてキラキラと輝く。


「……それにしても、ソルは何を着ても本当に似合うな」


黒色のベストに白ワイシャツ、蝶ネクタイという、ウェイターの制服を見事に着こなすソレイユは見惚れるほどにカッコいい。

背が高いから、黒色のスラックスで足の長さがより強調されているし、極めつけはデコ出しをした髪型だろう。


黄金の髪を後ろに撫でつけたソルは、ぐっと大人っぽい雰囲気になる。さすがは顔面国宝。イケメンは何を着たってイケメンだ。俺もセンター分けでおでこを出しているけど、蝶ネクタイが七五三に見える。


「……ヒズミは、なるべくオレと一緒にいよう?オレ、初めてで不安なんだ……。お願い……」

琥珀色の甘い瞳が、ウルウルと俺に向けられる。両手を前で組んで、まさにお願いのポーズをするソルは、イケメンなのになんだか可愛い。必死にくぅぅんと甘えて鳴く、茶色いポメラニアンの幻覚がソルの背後に見えた。


……あのイケメンで、何事も卒なくこなす勇者が、
俺のことを頼っている、……だと?
こんなにも不安そうな目をして……。


俺の中にあるお兄ちゃん心に、トスっと矢が刺さる。俺は思わず、ソルの両手をぎゅっと握りしめた。

大丈夫だ、ソル。
俺が、お前を夜の大人の世界から守ってやるからな。


「……分かった。なるべく離れない様にしよう。一緒のほうが動きやすいだろうしな?」

「ありがとう!ヒズミ!」

琥珀色の目を細めて、ソルは嬉しそうに微笑んだ。笑顔が眩しい。キラキラして爽やか過ぎる。心無しか、犬の尻尾がパタパタと揺れているような気がする。くそ可愛いか。


「何あれ、キモイ……」

「ソレイユ、ヒズミの扱いが段々分かって来たんじゃない?……まあ、ヒズミがあの恰好だから、不安になるのは分かるけどさ」

近くで俺たちのことを見ていたガゼットが辛辣に突っ込んで、リュイはクスクス控えめに笑う。年頃の男子たちが、ひとしきりわちゃわちゃと騒いだところで、仕事の時間になった。


「何か分からないことが合ったら、俺かリュイに言えよ。大体のことは分かるからな」

そんな心強いガゼットの言葉に頷き、俺たちは飲み物を銀色の盆に乗せて運んだ。俺たちが運ぶのはノンアルコールの飲み物だ。4人の左胸には、青バラの飾りをつけている。

これは、酒以外の飲み物を運ぶウェイターの目印だ。未成年の客が酒を飲まないようにと、一目で分かるように工夫されている。


お客様に飲み物を渡しつつ、汚れた皿や開いたグラスを回収していく。やはり慣れないせいか、何回か人と接触しそうになった。

お客様もお酒を飲んでいるため、手元が狂うのだろう。去り際にお客様の手が、腰やお尻に当たりそうになる。気配を察知して、さっと身を捩ったり、身体を引いてなんとか躱した。

……俺の尻を触っても、誰も良い思いをしないだろうからな。


しばらくすると、会話を惹きたてる控えめな音楽が、優雅なものへと変わりダンスの時間が始まった。

緩やかな音楽の中で、色鮮やかなドレスの裾がふんわりと広がって舞う。男性同士のパートナーも軽やかに踊っているのが、また印象的だ。


ダンスを楽しむ人たちもいれば、音楽が大きくなったのに隠れ、少々下卑た話をする輩も出てくるようだ。


「……留学先から帰国される王太子殿下の婚約者は、未だに決まらない。てっきり、隣国の姫君を婚約者にすると思っていたが___ 」

「……あの御方は曲者だ。それであれば、英傑である第二王子殿下を狙ったほうが、将来は安泰やもしれん。第二王子殿下が戦いから無事に帰って来ようが、来なくてもな?」


このパーティは、ただ単に世間話をする場ではない。情報交換に見栄の張り合い、さらには派閥争いと、煌びやかな空間とは違って中身は陰湿だ。

そんな会話を素知らぬフリをして聞き流し、給仕をしていく。


忙しく働く中、豪奢なドレスを着たご令嬢たちの集まりが視界の端に映った。1人の令嬢に、複数の女性が詰め寄っている。女性たちは顔に優雅な笑みを浮かべているが、その笑みに俺は眉を潜めた。

隠しきれていない嘲りで、口の端が歪んでいる。


「あら、貴方の出身はスマーラーナではなかったかしら?」

スマーラーナは、王都の平民が住まう地区の名前だ。その地名がこのパーティーで聞こえること自体、特殊だと言える。

それに『スマーラーナ』という地名が、どうにも俺の中で引っかかった。俺は適度な距離を保ちつつ、話しに耳を傾ける。


「それに、なんですの?その顔を隠すようなベールは?……可愛らしい顔が見えないわ?……それとも、隠されたい秘密でもおありなのかしら?」

品の良い言葉を選んでいるが、その端々には相手をいやらしく、チクリと痛めつける棘が混じっている。扇子で隠れた口から、クスクスと嘲笑の音が聞こえた。


女性たちに囲われていたのは、チェリーブラウンの髪に、桜色のベールが付いた小さな帽子を被る、1人の令嬢だった。




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