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第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦

女装と俺、なんで俺だけ罰ゲームみたいなことに?

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未だに俺をじっと見たまま、石像のように動かないソルとアトリに、俺は恥ずかしさを堪えつつも必死に呼びかけた。


「……ソル、アトリ。俺、このリボンのせいで動けないんだ……。ここから早く出してくれ」


そして、早く着替えさせてくれ!

俺の言葉に、2人がはっと我に返る。2人は困惑しながらも急いで鳥籠の扉を開けると、囚われの俺に駆け寄る。


「ごめん!あんまりにも綺麗で見惚れてた……」

「私としたことが……、それにしても、よく似合いますね」


何やら2人で俺をフォローしているけど、綺麗とか、よく似合うとか、混乱のあまり変なことを口走ってしまっている。


……2人とも誤解だ。
俺は決して、自分でこの恰好をしているのではない!


俺の手を一纏めにしたリボンの端を、アトリとソルは仲良く一緒に引っ張って解いた。俺がいくら身じろいでも取れなかった蝶結びの拘束が、シュルリっと簡単に解かれてしまったのには唖然としてしまう。


「ヒズミ、大丈夫?痛くない?手首に痕がないと良いんだけど……」

「迎えに来るのが遅くなってしまって、申し訳ありません。怪我はしていませんか?」


ソルとアトリは、座っている俺に合わせて屈み、心配げに見つめてくる。手を優しく持ち上げて、長袖のレースから覗く手首を心配そうに確認するソルと、優しく手を擦ってくれるアトリ。

幻想遺跡の試練を終えて2人も疲れているだろうに、真っ先に俺のことを心配してくれる。こんなヘンテコな状況だけど、2人の優しさが心にじんわりと染みた。


「……ありがとう。ソル、アトリ。痛い思いも、怪我もしていない。2人も無事で良かった……」

俺は、心が温かくなって自然と口元が綻んでいた。

俺の言葉に、ソルとアトリが俺の顔をじっと見たまま再び固まった。俺の手がストンっと、2人の手を離れる。目の前の2人の頬が、急激に赤くなっていく。

ソルは胸を押さえて苦しそうにしているし、アトリは口元を右手で覆って目を合わせてくれない。


「……どうしたんだ?2人とも顔が赤いぞ?やっぱり、どこか怪我でもしたのか?体調が悪いんじゃないか……?」

実は見えないところで、ソルもアトリも身体に不調があるのかもしれない。

俺を心配させまいと、強がっているだけなのかと思うと、居ても経ってもいられなくて2人の顔に手を伸ばした。その手を2人がぎゅっと掴んで、ひそひそと話し始める。


「……どうしよう、可愛すぎる。このままお持ち帰りしたい……。抱きしめたい……」

「気持ちは痛いほど分かりますが……。修行が足りませんね、ソレイユ。どんな時でも紳士的でなくては、ケダモノと一緒ですよ?」


可愛すぎて連れて帰りたいって、何を……?もしかして、ソルとアトリの後をこっそりと付いてきている、モフモフな羊の執事のことだろうか……。

確かにお持ち帰りしたい可愛さだけど……。


ぐっとソルが呻き声を上げて、顔を顰めている。そんなソルの左肩に、アトリがポンっと労わるように手を置いた。アトリもいつもの穏やかな顔が、少し辛そうに歪んでいる。

心なしかソルの左肩に置かれた手に力が籠っているようで、皺が寄っていた。


「……やっぱり、2人ともどこか悪いんじゃ___」

「いや!そんなことないよ。全然大丈夫。むしろ元気!」

「ええ、私たちは今までにないほど元気です。……それよりも、ここから早く出ましょう」


俺の言葉を遮るように、2人が返事をする。これ以上2人に問いかけても、俺を心配させまいとする言葉が返ってくるだけだ。

疲れが溜まっているようだし、あとで疲労回復ポーションとかをさりげなく渡そう。


左手をソルに、右手をアトリにエスコートされながら、俺はゆっくりと立ち上がった。そんなに高さはないヒールの靴を履いているが、慣れない男の俺にとっては歩きづらい。

2人に支えられながら静々と歩く。アトリが、鳥籠から出ようと扉を押した、その時だ。

ガチャンっ!と派手に金属の扉が音を鳴らした。


「……もしかして罠だった?」

「……閉じ込められましたね」

ソルとアトリの声が、途端に緊張感を増した。俺も女装させられる嫌がらせ以外は、危害を加えられなかったから油断していた。

2人が武器を取り出そうと身構えた瞬間、クスクスと愉快そうな笑い声が鳥籠の外から聞こえた。


「もう、姫の前で物騒なもの出さないでくれる?せっかくの美しい空間が台無しになるでしょ?」

ふわっと黒色のフリルを揺らして、何処からともなくカプリスが上から舞い降りる。寒色のステンドグラスの光を浴びながら、カプリスが鳥籠の前で微笑んでいた。


「ヒズミ。王子様にお礼もしないで助け出されるのは、マナー違反でしょ?王子のキスで、永遠の眠りから覚める姫もいるわけだし……。というわけで……」

そこで、カプリスは勿体ぶったように言葉を止める。
幼い少年の顔は、凄く楽しそうに微笑んでいた。少年の無邪気な顔をしながら、カプリスが俺たちに爆弾を落とした。


「囚われの姫から王子様たちにキスをしないと、その鳥籠から出られないからね☆」


にこっと音がするように、カプリスが満面の笑みを浮かべる。




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