上 下
87 / 201
第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦

幻想遺跡の主、オレの知らない過去(ソレイユside)

しおりを挟む



(ソレイユside)


オレたち2人と1匹の臨戦態勢を見たリベルは、ふうっとため息を零した。


「……つまらんな。……だが、挑むというのなら、相手をしよう」

オレの身体から離れたリベルの身体が、ゆらりと動いた。魔力の強い流れを感じて、オレとアイトリアさんは身構える。漆黒の神官服が風に煽られて裾を広げた。


「この幻想遺跡の主は、私たち双子だ。白き片翼は泡沫の幸せと優しい夢を、黒き片翼は…… 」

リベルの宙に浮いている足元から、黒色の魔力が炎のように燻る。


「残酷な真実と悪夢を」


その言葉を合図に、リベルの魔力が一気に爆発した。室内には黒色の魔力が溢れる。アイトリアさんが、すかさず俺に防御結界を張ってくれる。漆黒で辺りが塗りつぶされる中で、嘲笑う声が聞こえてきた。


「精神干渉も防げる結界のようだが、無駄なあがきだ。神の眷属に近い我に、通用などしない。大人しく試練を受け入れるのだな……。なに、身体に怪我はしないさ」


身体にはな……。


その呟きを最後に、目の前が真っ暗になる。隣りにいたはずのアイトリアさんの気配が、無くなった。



揺れる馬車の中、はしゃいだ子供の声が聞こえる。


「ソレイユは大きくなったら、何になりたいんだ?」

「おとうさんと、おかあさんみたいな、つよい、ぼうけんしゃ!」

「おう!嬉しいねえ。じゃあ、いっぱい稽古しなくちゃな!」


オレの名前を呼ぶ男性は、金色の瞳を優し気に細めて、幼い男の子の頭を撫でた。胡坐を掻いた男性の足の間に座った子は、その大きな手に嬉しそうにはしゃいでいる。

幼い子は、男性と同じ金色の瞳を嬉しそうに細めた。


「そうね。たくさん稽古をして、たくさんご飯を食べれば強くなれるわよ」

そう優しげな声音で、男性の隣に座る女性が微笑んだ。

一纏めの金色の長い髪を揺らし、男性と幼子を愛しそうに見つめている。男性と女性の、それぞれの色と雰囲気を纏った男の子は、一目で2人の子供だと分かった。

夫婦は冒険者の装備を付け、腰には長剣をつけている。


オレの中に僅かに残っている、父と母の声。何よりも、オレの名前を呼んでいるそのことが、物語っている。


これは、オレの過去の出来事だ。幻想遺跡の主が見せる、真実というものか。


馬車の中には、オレたち3人以外にも、使用人の服を着た1人の男性がいた。試しに、男性の肩へ手を置こうとすると、オレの手はその人の身体をすり抜けて行った。


どうやら、オレはこの世界には干渉出来ないようだ。誰とも目も合わないし、存在に気付かれていない。


「父さん、母さん……」

聞こえるはずがないのに、オレは無意識に呟いていた。父と母の面立ちは、はっきりとは覚えていない。でも、2人がとても優しかったことだけは、覚えている。

つんっと目頭が痛くなる。心の奥底に眠っていた懐かしさが、オレを震わせる。


立派な馬車のようで、豪華な箱に入った荷物がたくさん奥に積まれていた。窓から外を覗き込めば、前後にも豪奢な馬車が並ぶ。 

貴族か何かの一向なのかもしれない。分厚い雲からは、夕日が僅かだけ漏れていた。


「あともう少しで交代の時間か……。土砂崩れで道が塞がれていたのは痛いな……。それに何かおかしい。このぐらいの距離の移動なら、貴族の雇っている騎士がするはずだ。なぜ、冒険者を雇う?」

「ええ……。この馬車に乗っているのが、奥方様とご令嬢だけなのも気にかかるわ……。そろそろ、教えてくれても良いのではないかしら?」


その言葉に、一緒に乗っていた使用人がビクッと身体を震わせた。冒険者2人の鋭い眼光が、使用人に突き刺さる。終始俯いていた使用人は、さらに身を小さくした。

しかし、父からの威圧に、耐えきれなくなったのか、身体を震わせて言葉を零した。使用人の顔は、青ざめている。


「……奥方様は、元平民です。貴族の養子になるほどの才女ではありますが……。そのことを、大旦那様が良く思われていないのです……。大旦那様の子は、旦那様お一人です。必然的に、奥方様の子が跡取りとなります……」


大旦那とは、貴族間では隠居した元領主を意味する言葉だ。女性でも男性でも、貴族では当主となれる。

つまりは、元平民が産んだご令嬢が、未来の領主になるのだ。


不穏な空気になった馬車が、大きく揺れた。ここまで思ったんだが、いくら正規なルートを通れなかったとはいえ、悪路すぎるのでは?

こんなにも悪路を行く必要があるのだろうか?


「どこの馬の骨とも分からない血が、貴族の血に混じることが許せないとおっしゃっておりました……。だから……」

突如として、馬車が止まる。あまりの衝撃に乗せていた荷物が車内に散乱した。


「敵襲だ!!くそっ!待ち伏せされていたぞ!!」

「!!」

外からは緊迫した叫び声と、金属が激しくぶつかり合う音が聞こえる。馬車の窓から様子を窺がうと、フードを被った黒装束の集団と、護衛の冒険者が剣を交わらせていた。


そんな緊迫した状況の中で、その使用人だけが1人冷静だった。亡霊ののうに佇み、諦めと絶望が滲み出る。


「……僕も、病気の妹と家族を人質に取られて、どうすることもできなかった……。そして、無関係の貴方たちを巻き込んでしまった……」

懺悔の言葉を繰り返す使用人は、いつの間にか震える手に小瓶を握りしめていた。恐ろしく、毒々しい色の液体が入った小瓶。


使用人は、きょとんっと座るオレを一瞥すると、すまなそうに眉根を寄せて呟いた。


「……本当に、ごめんなさい」


そう言って、使用人は手にしていた小瓶を馬車の床に叩きつけた。甲高い破壊音が響き、ガラスの破片と毒々しい色の液体が馬車内に広がる。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

異世界に転生してもゲイだった俺、この世界でも隠しつつ推しを眺めながら生きていきます~推しが婚約したら、出家(自由に生きる)します~

kurimomo
BL
俺がゲイだと自覚したのは、高校生の時だった。中学生までは女性と付き合っていたのだが、高校生になると、「なんか違うな」と感じ始めた。ネットで調べた結果、自分がいわゆるゲイなのではないかとの結論に至った。同級生や友人のことを好きになるも、それを伝える勇気が出なかった。 そうこうしているうちに、俺にはカミングアウトをする勇気がなく、こうして三十歳までゲイであることを隠しながら独身のままである。周りからはなぜ結婚しないのかと聞かれるが、その追及を気持ちを押し殺しながら躱していく日々。俺は幸せになれるのだろうか………。 そんな日々の中、襲われている女性を助けようとして、腹部を刺されてしまった。そして、同性婚が認められる、そんな幸せな世界への転生を祈り静かに息を引き取った。 気が付くと、病弱だが高スペックな身体、アース・ジーマルの体に転生した。病弱が理由で思うような生活は送れなかった。しかし、それには理由があって………。 それから、偶然一人の少年の出会った。一目見た瞬間から恋に落ちてしまった。その少年は、この国王子でそして、俺は側近になることができて………。 魔法と剣、そして貴族院など王道ファンタジーの中にBL要素を詰め込んだ作品となっております。R指定は本当の最後に書く予定なので、純粋にファンタジーの世界のBL恋愛(両片思い)を楽しみたい方向けの作品となっております。この様な作品でよければ、少しだけでも目を通していただければ幸いです。 GW明けからは、週末に投稿予定です。よろしくお願いいたします。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!

しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎 高校2年生のちょっと激しめの甘党 顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい 身長は170、、、行ってる、、、し ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ! そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、 それは、、、 俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!! 容姿端麗、文武両道 金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい) 一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏! 名前を堂坂レオンくん! 俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで (自己肯定感が高すぎるって? 実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して 結局レオンからわからせという名のおしお、(re 、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!) ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど なんとある日空から人が降って来て! ※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ 信じられるか?いや、信じろ 腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生! 、、、ってなんだ? 兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる? いやなんだよ平凡巻き込まれ役って! あーもう!そんな睨むな!牽制するな! 俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!! ※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません ※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です ※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇‍♀️ ※シリアスは皆無です 終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

処理中です...