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第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦

囚われの姫、俺は男をなんだが??

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俺の答えに強く頷いたカプリスは、また青い瞳に光を戻した。


「ちなみに、ヒズミがつけているその指輪。人間が勝手に『絶望の倒錯』って名前を付けて、呪いの指輪にしているけど……。立派な神具だからね?神からの情けってやつ」

カプリスは俺の左手をひょいッと持ち上げると、中指に嵌めていた金色の指輪を抜き取った。中指の付け根あたりに、黒色の茨模様が輪が露わになる。


「そうなのか?」

興味深そうに中指の付け根をまじまじと見たカプリスは、指先で俺の茨の輪を撫でた。
 

「人の分不相応な望みを、人が支払うことの出来得る代償で叶えてやるなんて、神の情け以外の何物でもないよ。魔法の威力を50倍にするとか、人外の成せる技でしよ?」

金色の指輪をそっと茨に被せると、カプリスは俺から離れた。芝居がかったように両手を広げ、宙に浮く。水鏡になった水面に、人形のような現実離れした容姿の少年が映る。


「さあ、長い話は終わりだよ。……あとは、王子様が来るまで、僕と一緒に待っていようね?」

ニコニコと笑うカプリスは、楽しそうに俺に告げた。そして、パチンッと指を鳴らす。乾いた音が鳴ったと同時に、ぐわんっ!と乱暴に周囲の景色が周る。


「囚われの姫が来た!」 

「しごと!しごと!」

バタバタと忙しなく動き回る足音が聞こえてくる。景色は青空が一面に広がる外の世界から、一気に室内に変わった。俺は仰向けになっていて、身体を柔らかなものに預けているようだった。


……どこだ?ここは……。

俺は、仰向けに寝かされていた身体をを起こすと、思わず声を出してしまった。


「えっ?」

俺が寝かされているのは、天蓋付きのベッドだったらしい、

見上げた先には、美しい夜空が描かれた天井。その天井の四方には、フリフリのカーテンが付いている。レースをふんだんに使って、これでもかと強調するようにフリリンっ!とさせたカーテンだ。

お姫様が眠るような、とても豪華で可愛らしいベッドと言いたいところだが……。


「……。」

なぜかフリルが全て真っ黒だ。精神年齢が大学生男子である俺が眠るには、とても勇気がいるベッドである。


「囚われの姫は、大人しくしているのデス。」


そう言って、白い綿毛のような小さな顔がベッドの下から俺を見上げた。頭の両脇にはくるんっと渦を巻いた、可愛らしい角が生えている。

黒色の燕尾服を着た、真っ白な羊が人間のように2足で立っていた。これはあれだ。羊の執事。ワイシャツの襟には、可愛らしい蝶ネクタイまでしている。

それよりも、囚われの姫ってなんだ??


「そうデス!これから磨くのデス!」

「オシャレにするのデス!」


そんなことを口々にメェーメェー言いながら、俺の膝くらいの背丈の羊の執事たちが、部屋をパタパタ走り回っている。皆が黒色の燕尾服とストライプのズボンを着ていて、パタパタと裾が翻る。

ズボンには、尻尾を出す穴が空いていて、そこから小さな尖った尻尾が出ているのがチャーミングだ。あっ、黒い羊の執事もいるのか。


羊の執事たちが、可愛らしくお仕事をする様子に癒やされつつ、部屋を見渡す。


部屋の壁は、なんと紫色だった。
天井からぶら下がっているシャンデリアや、家具類は全て艶のある黒色一色。紫と黒の世界だ。それに、ベッドに豪華な黒色のフリルが使われているからだろうか……。

何というか、ゴスロリ感が強い部屋なんだよな……。
益々俺がこの部屋に居るのが、落ち着かなくなりそうだ。


室内を落ち着いて観察していると、部屋の奥にある重厚な扉がパタンっと開いた。中に入ってきたのは、先程まで俺と青空の世界にいた、カプリスだ。手には何やら黒色の布を持っている。


「ヒズミ、おまたせ。さあ、これに着替えて?」

カプリスは、俺のいるベッドへとスタスタと近づくと、手に持っていた黒色の服を渡してきた。着替えてというのだから、服で間違いないだろう。


受け取った服を両手で広げて、俺はそれを見て確認したあとに、もう一度カプリスの方へと顔を向けた。


「………これ、ドレスなんだが??」


俺がカプリスに渡されたのは、フリルたっぷりの漆黒のドレスだった。肌を見せないハイネックの上品なドレスは、可愛い女の子が着たらとても似合いそうだ。

いや、なぜ俺に渡した?


「ヒズミは、王子様に助けられる囚われの姫様になるんだよ。姫様はドレスって決まってるでしょ?」

当たり前じゃんっ!というように、カプリスが宣った。


「……いや、俺は男なんだが……」

「性別は関係ないデス。美しければ良いのデス」

「そうデス。美しければ何でも良いのデス」


周りの羊の執事たちが、カプリスを援護している。でも、流石にこんなふりっふりのドレスなんて着れない。俺がドレスを持ったまま、ベッドの上で動かないでいると、カプリスが痺れを切らしたように、パンっと手を叩いた。


「執事たちよ!こうなったら強行手段だ!姫を磨いて差し上げなさい!」

「かしこまりましたデス」


じりじりと、ベッド下に集まってくる羊の執事たち。その手にはブラシや、化粧道具、香水などが握られている。もはや、俺に逃げ場はなかった。


えっ??やめて??

そう俺は抗議しようと口を動かしたが、何も発せない。はくはくと口が動くだけだ。何か魔法でも仕掛けられたか?

動揺している俺を余所に、執事たちはぴょんっとベッドへと飛び乗った。何とか逃れられないだろうかと、ベッドから降りようとしたときだ。


「っ?!!」

身体どころが、指一本も動かせないことに気が付いた。視線だけでカプリスに問うと、整った美少年の顔がニヤリっと笑う。

抗議の声も塞がれ、逃げることもかなわない。


「観念して、美しい囚われの姫にしてもらってね?ヒズミ」

その言葉を合図に、羊の執事たちが一斉に俺に飛びかかってきた。







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