81 / 201
第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦
ラパンの起床、ウサギが寂しいのは辛いだろ
しおりを挟む「……戻ってきましたね」
景色のゆがみが落ち着くと、俺たちは最初に訪れた大きな眠るラパンの森にいた。蓄音機の凹凸に歯車を一つ一つはめ込む。カチッという音がしたあとに、歯車が後方へ沈んでいく。
蓄音機の内部から、カタカタカタっという小さな音がたくさん重ねて聞こえてきた。レコードが回転して、円盤を金色の針が辿る。
____♪____#____✴……
金色に輝く花のようなラッパの部分から、優しく揺り動かすような旋律が聞こえる。
目の前にいる巨大ラパンの真っ白な長い耳がピクピクっ!と動き出す。線になっていたクリッとした目が、ゆるゆると見開かれてルビーの瞳が現れる。
真紅のまん丸な目には、驚いた3人の姿が映っていた。
「……起きたね、でっかいラパン」
「ああ……」
前足でくしくしと顔を撫でると、どこか寝ぼけているように、ぼーっとし動かない。のっそりとその真っ白な身体を動かすと、巨大ラパンはきょろきょろと辺りを見回した。
……なんだろう?何かを探している……?
一通り周りを確認し終えたのか、ラパンはふんっと一呼吸だけため息のように鼻を鳴らした。そして、ぴょんッと低く一度だけ前に跳ねる。
俺の数十倍はある巨体がはねた振動は大きく、大きな地響きと共に足元がぐらっとぐらついた。
どしんっ!と巨大ラパンが着地する。ぶわっと風が一気に巻き起こり、服の裾が大きく翻った。森の木がざわっと大きく揺れる。
「扉が見えた……。ダンジョンマップだと、あの扉から次の階層だよね……」
俺は扉の方へと視線を移す。先ほどまで巨大ラパンが眠っていた場所には、こんもりとした小さな丘が見える。
青々とした草に覆われた側面に、古めかしい木製の扉が現れた。窓にラパンのステンドグラスが施された、小人なんかが出てきそうなほど可愛らしい見た目の扉だ。
ソルの言葉に頷きつつ、俺は巨大ラパンの様子が気がかりになっていた。少しだけ顔を上げて周囲の様子を再度確認すると、また目を閉じる。
長い耳はピクピクと動いているから、眠っているわけではないようだ。ただ、面倒だと言うように目を閉じている。
その周囲を見たルビーの瞳は、どことなく寂しそうだ。
思えば、ラパンの夢には種族は違えど大勢の仲間が登場していた。しかし、この森で見かけた生き物と言えば、この巨大なラパンしかいない。
小鳥のさえずりは聞こえるが、飛んでいる鳥を見かけない。その鳴き声もよく聞けば生気が感じられない。さえずりだけが、録音された音楽のように虚しく奏でられていた。
この森の中に、たった一人……か。
ここの階層の扉には、沢山のラパンが描かれているのに。
俺は、地面に伏せて目を細めている巨大ラパンへと歩み寄った。こちらの存在に気がついて一度だけ目を開け、興味が無いとばかりにまた閉じてしまう。
俺は構わずに、真っ白なラパンへと話しかけた。
「……以前、別のダンジョンで見つけたんだ。君にそっくりだから、プレゼントしたくなった。」
俺がそう言ってマジックバッグから取り出したのは、真っ白なウサギのぬいぐるみだった。もこもこした毛に、ピンとした長い耳、まん丸な赤色のお目目。
緑色のリボンを首に巻いて、可愛らしい。結構大きいぬいぐるみで、両腕で抱えないといけないほどだ。
この毛並みに、真っ赤なお目目が目の前のラパンにそっくり。
こんなぬいぐるみで、寂しさが紛れることはないかもしれないけど……。無いよりは良いだろう。
そっと、そのぬいぐるみを巨大ラパンに寄り添わせるように置いた。ルビー色の瞳が、驚いたように固まる。怒って暴れるような素振りもないから、そのまま俺はゆっくりとラパンから離れた。
「……きゅ……う…。」
一声、巨大ラパンが切なげな鳴き声を上げた。全ての寂しさが凝縮されたような、聞いていると胸が締め付けられる切実な声だった。
ラパンは、真っ白なうさぎのぬいぐるみにスリッと頬ずりをした。それは巨体のラパンにしては、とても繊細で、そっと優しい動きをして。
ラパンの細めた目から、透き通った一粒の涙がポロリっと零れる。
雫は原っぱの青々とした草へ落ちて行く。水滴をピチャンっと静かに跳ねた草から、シュルシュルとツタが瞬く間に伸び始める。
「っ?!」
細いツタたちは巧に絡まり合い、見る見るうちに上へ伸びると緑色の繊細なアーチを作り出す。所々に白色の小花が咲いたアーチの中は、不思議な深い青色が輝いていた。
「……ダンジョンマップには記載のない扉です」
息を飲んだアトリが、ダンジョンマップを確認したあとに難しい顔をした。
つまり、この神秘的な青色の光の先は、未踏の地。
隠し部屋は、決まって難易度が高くなることで知られている。そして、誰も踏み込んだことがないということは、当然、何が起こるか分からないのだ。
危険を避けるなら、入るべきではない。
でも……。
アトリとソルに視線を向ける。もともと、未踏の場所が現れた際はどうするか、2人に相談していた。
「……行こう」
青色の光は、まるで宝石のようにキラキラとした輝く。繊細な小花に彩られたアーチを、俺は意を決して潜った。
これは、俺の直感だ。
この先に、俺の求めているものがある。
160
お気に入りに追加
5,987
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
異世界に転生してもゲイだった俺、この世界でも隠しつつ推しを眺めながら生きていきます~推しが婚約したら、出家(自由に生きる)します~
kurimomo
BL
俺がゲイだと自覚したのは、高校生の時だった。中学生までは女性と付き合っていたのだが、高校生になると、「なんか違うな」と感じ始めた。ネットで調べた結果、自分がいわゆるゲイなのではないかとの結論に至った。同級生や友人のことを好きになるも、それを伝える勇気が出なかった。
そうこうしているうちに、俺にはカミングアウトをする勇気がなく、こうして三十歳までゲイであることを隠しながら独身のままである。周りからはなぜ結婚しないのかと聞かれるが、その追及を気持ちを押し殺しながら躱していく日々。俺は幸せになれるのだろうか………。
そんな日々の中、襲われている女性を助けようとして、腹部を刺されてしまった。そして、同性婚が認められる、そんな幸せな世界への転生を祈り静かに息を引き取った。
気が付くと、病弱だが高スペックな身体、アース・ジーマルの体に転生した。病弱が理由で思うような生活は送れなかった。しかし、それには理由があって………。
それから、偶然一人の少年の出会った。一目見た瞬間から恋に落ちてしまった。その少年は、この国王子でそして、俺は側近になることができて………。
魔法と剣、そして貴族院など王道ファンタジーの中にBL要素を詰め込んだ作品となっております。R指定は本当の最後に書く予定なので、純粋にファンタジーの世界のBL恋愛(両片思い)を楽しみたい方向けの作品となっております。この様な作品でよければ、少しだけでも目を通していただければ幸いです。
GW明けからは、週末に投稿予定です。よろしくお願いいたします。
俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!
しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎
高校2年生のちょっと激しめの甘党
顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい
身長は170、、、行ってる、、、し
ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ!
そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、
それは、、、
俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!!
容姿端麗、文武両道
金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい)
一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏!
名前を堂坂レオンくん!
俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで
(自己肯定感が高すぎるって?
実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して
結局レオンからわからせという名のおしお、(re
、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!)
ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど
なんとある日空から人が降って来て!
※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ
信じられるか?いや、信じろ
腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生!
、、、ってなんだ?
兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる?
いやなんだよ平凡巻き込まれ役って!
あーもう!そんな睨むな!牽制するな!
俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!!
※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません
※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です
※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇♀️
※シリアスは皆無です
終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる