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第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦

ラパンの起床、ウサギが寂しいのは辛いだろ

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「……戻ってきましたね」

景色のゆがみが落ち着くと、俺たちは最初に訪れた大きな眠るラパンの森にいた。蓄音機の凹凸に歯車を一つ一つはめ込む。カチッという音がしたあとに、歯車が後方へ沈んでいく。

蓄音機の内部から、カタカタカタっという小さな音がたくさん重ねて聞こえてきた。レコードが回転して、円盤を金色の針が辿る。


____♪____#____✴……


金色に輝く花のようなラッパの部分から、優しく揺り動かすような旋律が聞こえる。

目の前にいる巨大ラパンの真っ白な長い耳がピクピクっ!と動き出す。線になっていたクリッとした目が、ゆるゆると見開かれてルビーの瞳が現れる。

真紅のまん丸な目には、驚いた3人の姿が映っていた。


「……起きたね、でっかいラパン」

「ああ……」


前足でくしくしと顔を撫でると、どこか寝ぼけているように、ぼーっとし動かない。のっそりとその真っ白な身体を動かすと、巨大ラパンはきょろきょろと辺りを見回した。


……なんだろう?何かを探している……?


一通り周りを確認し終えたのか、ラパンはふんっと一呼吸だけため息のように鼻を鳴らした。そして、ぴょんッと低く一度だけ前に跳ねる。

俺の数十倍はある巨体がはねた振動は大きく、大きな地響きと共に足元がぐらっとぐらついた。


どしんっ!と巨大ラパンが着地する。ぶわっと風が一気に巻き起こり、服の裾が大きく翻った。森の木がざわっと大きく揺れる。


「扉が見えた……。ダンジョンマップだと、あの扉から次の階層だよね……」


俺は扉の方へと視線を移す。先ほどまで巨大ラパンが眠っていた場所には、こんもりとした小さな丘が見える。

青々とした草に覆われた側面に、古めかしい木製の扉が現れた。窓にラパンのステンドグラスが施された、小人なんかが出てきそうなほど可愛らしい見た目の扉だ。


ソルの言葉に頷きつつ、俺は巨大ラパンの様子が気がかりになっていた。少しだけ顔を上げて周囲の様子を再度確認すると、また目を閉じる。

長い耳はピクピクと動いているから、眠っているわけではないようだ。ただ、面倒だと言うように目を閉じている。


その周囲を見たルビーの瞳は、どことなく寂しそうだ。


思えば、ラパンの夢には種族は違えど大勢の仲間が登場していた。しかし、この森で見かけた生き物と言えば、この巨大なラパンしかいない。

小鳥のさえずりは聞こえるが、飛んでいる鳥を見かけない。その鳴き声もよく聞けば生気が感じられない。さえずりだけが、録音された音楽のように虚しく奏でられていた。


この森の中に、たった一人……か。
ここの階層の扉には、沢山のラパンが描かれているのに。


俺は、地面に伏せて目を細めている巨大ラパンへと歩み寄った。こちらの存在に気がついて一度だけ目を開け、興味が無いとばかりにまた閉じてしまう。

俺は構わずに、真っ白なラパンへと話しかけた。


「……以前、別のダンジョンで見つけたんだ。君にそっくりだから、プレゼントしたくなった。」

俺がそう言ってマジックバッグから取り出したのは、真っ白なウサギのぬいぐるみだった。もこもこした毛に、ピンとした長い耳、まん丸な赤色のお目目。


緑色のリボンを首に巻いて、可愛らしい。結構大きいぬいぐるみで、両腕で抱えないといけないほどだ。
この毛並みに、真っ赤なお目目が目の前のラパンにそっくり。


こんなぬいぐるみで、寂しさが紛れることはないかもしれないけど……。無いよりは良いだろう。


そっと、そのぬいぐるみを巨大ラパンに寄り添わせるように置いた。ルビー色の瞳が、驚いたように固まる。怒って暴れるような素振りもないから、そのまま俺はゆっくりとラパンから離れた。


「……きゅ……う…。」

一声、巨大ラパンが切なげな鳴き声を上げた。全ての寂しさが凝縮されたような、聞いていると胸が締め付けられる切実な声だった。


ラパンは、真っ白なうさぎのぬいぐるみにスリッと頬ずりをした。それは巨体のラパンにしては、とても繊細で、そっと優しい動きをして。 


ラパンの細めた目から、透き通った一粒の涙がポロリっと零れる。


雫は原っぱの青々とした草へ落ちて行く。水滴をピチャンっと静かに跳ねた草から、シュルシュルとツタが瞬く間に伸び始める。


「っ?!」

細いツタたちは巧に絡まり合い、見る見るうちに上へ伸びると緑色の繊細なアーチを作り出す。所々に白色の小花が咲いたアーチの中は、不思議な深い青色が輝いていた。


「……ダンジョンマップには記載のない扉です」

息を飲んだアトリが、ダンジョンマップを確認したあとに難しい顔をした。


つまり、この神秘的な青色の光の先は、未踏の地。

隠し部屋は、決まって難易度が高くなることで知られている。そして、誰も踏み込んだことがないということは、当然、何が起こるか分からないのだ。


危険を避けるなら、入るべきではない。
でも……。


アトリとソルに視線を向ける。もともと、未踏の場所が現れた際はどうするか、2人に相談していた。


「……行こう」

青色の光は、まるで宝石のようにキラキラとした輝く。繊細な小花に彩られたアーチを、俺は意を決して潜った。


これは、俺の直感だ。

この先に、俺の求めているものがある。





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