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第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦
寮室にて、ソルがなんか変
しおりを挟む「……おい、ヒズミから手を離せ。腹黒が。」
低く威嚇するような唸る声が、近くから聞こえた。エストは名残惜しそうに1度だけキュッと俺の手を握ると、そっと俺から離れて行く。
ゆっくりとした動作で、声がしたほうへと身体を向けた。
「……腹黒とは、聞こえが悪いな。……策士と言って欲しいものだ。」
先程までの柔らかな表情が嘘のように、エストは普段の氷の貴公子へと戻ってしまう。僅かに砕けた口調で、声の主へニヤリと口角を上げる。
「……どっちも計算高いことに変わりはないだろ?……それより、ヒズミに何をする。」
俺を庇うようにソルは前に立つと、エストに鋭い視線を送り冷たく言い放った。琥珀色の瞳を剣呑に細めて、威嚇するように鋭くエストを見遣る。
エストは口元に優雅な微笑みを浮かべながらも、その銀色の目が笑っていない。
2人の間の空気が、なんだか不穏だ。
「ソレイユには関係ない。……私とヒズミだけの秘め事に、君は不要だ。」
俺とだけの秘め事とは、今週末一緒に出かけることだろうか?
……ああ、なるほどな。
もしかすると、エストはあまり人数の多い外出は好まないのかもしれない。確かに、大人数で遊ぶのって楽しいけど移動とかが大変で疲れるもんな……。
「……秘め事……?」
小さく呟いたソルは片眉をピクリと動かして、眉をひそめた。
「おい、秘め事って___」
「これにて、前期試験を全て終了する!生徒は速やかに寮室へ戻りなさい!」
ソルがエストに何か問いかけようとしたのを、教師の言葉が遮った。試験場所に集まっていた生徒たちが、そそくさと解散していく。
「……私も寮室に戻る。……ヒズミ、楽しみにしているよ。またな。」
エストはダイヤモンドダストの銀色の目を、ほんのりと柔らかく細めると俺へと手を振った。
「……ああ、エスト。またな。」
「……チッ。」
俺たちのやり取りを、ソルは黙って表情をしながら見つめていた。……小さ舌打ちが聞こえたは、気のせいだよな……?
「ヒズミ、オレたちも寮室に戻るよ。」
「えっ……?……ああ、うん。」
突然、俺の右手を繋いできたソルは、そのままグイっと俺を引っ張って寮室までスタスタと歩いて行った。寮に向かっている間ソルはずっと無言で、俺は戸惑いつつも大人しく手を握られ着いて行く。
「わっ?!」
「……。」
寮室のドアを半ば乱暴に開け放ったソルは、パタンっと扉が閉まったと同時に俺の膝裏に手を回した。フワッと身体が急に浮いた感覚がして、ソルと俺の顔の距離が近くなる。
……なんで俺、ソルにいきなりお姫様抱っこされてるんだ?
俺を横抱きにしながら、ソルは寮室をスタスタと進み、ソファに俺をそっと降ろす。左隣にはソルが腰かけ、再度右手を握られる。
「……ソ、ル……?」
突然、俺をお姫様抱っこするし、ここまで一言も発しないソルに戸惑ってしまう。
俺が不安になってソルを見上げると、琥珀色の瞳がじっと俺のことを見据えていた。いつも甘く蕩ける蜜色の瞳が、いつになく冷ややかな色を湛えているのは、気のせいだろうか?
なんだ?なんだか、ソルの様子がおかしい……。
ソルは俺の目をじっと見つめたまま、口をゆっくりと開いた。
「……ねえ、ヒズミ?……エストレイアとの秘め事て、何……?」
「………えっ?」
先ほどの会話に出ていた、エストと俺の『秘め事』と言う言葉が、どうにもソルには引っ掛かっていたらしい。
今週末に、2人で王都を散策するという、ただの遊びの約束だ。別にすごく重要な秘密ではないのだが……。
「……オレには、言えないこと……?」
俺が思考に耽って黙っていると、ソルはその沈黙を答えられないものだと取ったらしい。じりじりと俺との距離を詰めてくる。
「……ちが……、そんなことは、ない……。」
「……じゃあ、オレに教えて?」
そう無表情で俺に言いながら、どんどんと近づいて来るソルに俺は反射的に後ずさった。それでも、ソルは距離を詰めてくる。
身体を後退り体勢が苦しくなった頃合いに、ソルがトンっと俺の右肩を押した。
「……あっ……。」
身体が後ろに傾いて、俺は思わず呆けた音を口から溢した。油断していたせいか、肩を押された勢いのままに、ぽふっと背中をソファに押し倒される。
部屋の天井が一瞬見えたけど、次の瞬間にはソルの美貌が俺の上に覆い被さって来た。ふるりと黄金色の髪が、視界の端で揺れる。
顔の近くにソルの両手をつかれ、逃げられないように囲われているみたいだった。
「……ソル?」
「……答えないと、もっと色々しちゃうよ……?」
そう言って、首筋辺りを右手の指先でそっと撫でられた。擽られるような触り方に、反射的に身体がピクッと跳ねる。
色々って何だ……。もしや、くすぐり攻撃でもするつもりか……?俺はくすぐったがりだから、それをされると不味いんだが……。
それに見上げたソルの表情は、何だか苦しげだ。
無表情なのにどこか切羽詰まった様子で、切なげに琥珀色の瞳が揺れている。
そうだよな……。
いつも一緒にいるのに、隠し事をされているのは不安になるかもしれない……。俺はソルを安心させるように、微笑んだ。
「……別にそんな大した秘密ではないんだ……。今週末、王都を一緒に散策しようと約束しただけだよ。」
ソルは俺の言葉を聞いた途端、眉間に深く皺を寄せた。
……アレ?なんか俺、まずいことでも言ったのだろうか?
「………ヒズミ、それってデートじゃない?」
「……デート??……いやいや、男同士で遊びに行くだけだろ?」
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